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第2章 暁の竜神
第9話 ナディアの取る道 3
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このあり得ない事態に、レヴィは一瞬、頭が真っ白になる。まず、ここはお世辞にも快適とは言えない場所だが、これでも神聖な道だ。通ることを許されるのは現竜神のナディアとそのお傍付きであるレヴィくらいで、いくら隊長であろうとも立ち入るなんて許されない。そんなことは百も承知であるはずの2人がこうして来てしまったのだ。しかも、どこから聞かれていたのか全くわからない。ナディアの真意、時折こっそり抜け出していたこと、こうして親し気に話していたこと。色々な秘密が露見してしまっている。
どうすればいい。どうしたらいい。そんな言葉が頭の中でグルグル回っているだけで、レヴィは打開策を考える余裕が無かった。
「親衛隊の隊長さん。ナディア様の行き先など、決まっているではありませんか」
「まったくだな。レヴィはもう少し勉学に励むべきだ」
焦っているレヴィとは対照的に、やって来た2人は少しも動揺していなかった。当り前か。途中まではどうだったのか知らないが、少なくとも最後は足音を隠そうともしていなかった。見つかっても構わない。むしろ気付かれないと困ってしまう。そう言いたげにすら見える、堂々とした顔付きと言い様だった。
「……そう驚かれては話も進みませんね。いいでしょう、説明します。ナディア様の様子がおかしかったので後を追わせて頂きました」
「ろ……ローレンに止められなかったんですか!?」
地位や名誉に敏感なローレンだ。このような違反行為を許すはずがない。変な話、そこだけはレヴィも心から信じていたからこそ、こうして話をしていたというのに。そのたったひとつ残った彼への信頼すら、今や失われてしまった。いや、まだだ。その理由如何によってはまだ望みはある。あんな奴でもナディアが認めて、紅蓮飛竜隊の隊長を任されているんだからと、レヴィは変な言い訳を頭の中で繰り返していた。
「遊び方を考えるように投げた。その上で様子を見るついでにお伺いを立ててくると言ったら、あやつめ、喜んで送り出したぞ」
「この蛮行を咎められれば私たちは最悪降格、逆に彼はお山の大将になります。その地位は不動のものとなるでしょうね」
愕然とした。レヴィがたったひとつ信じていたローレンの良さが、こんな醜いものだったなんて考えもしなかったからだ。彼にあるのは忠誠心ではなく野心。そのためならば邪魔者を消しにかかる。そういう奴でしかなかったのだ。
さて、そんなローレンの一面が発覚したのはどうでもいいことだ。問題はこの2人。重大な罪を犯してでもやって来たメグとナーガは、まずナディアに頭を下げる。深く、とても深く。まるで命乞いでもしているかのような真剣さで、願いを言う。
「処分を覚悟でお願い致します。私たちも連れて行ってください。私は魔王様と面識が御座います。決して邪魔にはなりません」
「同じく、俺もお願いする。御身の護衛役に加えて頂きたい。あぁ、先に言っておくぞ、レヴィ。お前を力不足と言っているのではない。ナディア様を放っておけないという意味だ」
魔王。どうしてそこで奴が出てくるのかと、レヴィは不思議に思った。それくらい意外だった。でも2人の言葉を何度か反芻していくにつれて、ナディアの真意がわかり始める。会いに行くつもりなのだ。自ら、魔王と直接交渉するために。
「な……ナディア、正気なの!?」
「えぇ、言ったでしょう? 少しばかり冒険をするつもりだと」
少しどころではない。敵の本拠地に大将が自ら出向くなんて、殺してくださいとお願いに行くようなものだ。止めなくては。絶対にそんな危険なお出かけなんて許せない。
「そ、そんなの行かせられないから! 馬鹿じゃないの!? 死にに行くつもり!?」
「安心してください、レヴィ。まだ私たちは魔王様と戦っていません」
「そ、それはそうかもしれないけど!」
もう、メグやナーガがいるからなどと気にしてなんかいられない。何度も言うが、ナディアは冗談なんか言わない。特にあの目は本気そのもの。頑として、絶対に行くのだと言葉以上に物語っていた。だからこそレヴィはあれこれ考える余裕なんてない。何としても止めにかかる。
それに待ったをかけたのはメグだった。今にも殴りかかりそうなほどに前のめりになったレヴィの肩を、グイと引っ張って戻す。
「まぁ、待ってください、レヴィ。ここでナディア様を止めてどうなるのですか?」
「どうなるって……そんなの、ナディアが危ない目に遭わずに済むでしょ!」
「そうではなく、これから先の話です」
これから先。それはつまり、この3日間をどう活用するか、という話だ。どう足掻いても3日後には戦いが起こってしまう。もはや防ぐ手立てなんて無い。ここでナディアが引き篭もろうとも、どの道、開戦から間もなく殺されてしまうだろう。わかっているならばこの3日間、せめて楽しく過ごすのも悪くない。もしくは逃げ出そうか。なんて、そんな甘えたことをナディアが言うはずがない。必ずどうにかしようと躍起になる。
どうすればいい。どうしたらいい。そんな言葉が頭の中でグルグル回っているだけで、レヴィは打開策を考える余裕が無かった。
「親衛隊の隊長さん。ナディア様の行き先など、決まっているではありませんか」
「まったくだな。レヴィはもう少し勉学に励むべきだ」
焦っているレヴィとは対照的に、やって来た2人は少しも動揺していなかった。当り前か。途中まではどうだったのか知らないが、少なくとも最後は足音を隠そうともしていなかった。見つかっても構わない。むしろ気付かれないと困ってしまう。そう言いたげにすら見える、堂々とした顔付きと言い様だった。
「……そう驚かれては話も進みませんね。いいでしょう、説明します。ナディア様の様子がおかしかったので後を追わせて頂きました」
「ろ……ローレンに止められなかったんですか!?」
地位や名誉に敏感なローレンだ。このような違反行為を許すはずがない。変な話、そこだけはレヴィも心から信じていたからこそ、こうして話をしていたというのに。そのたったひとつ残った彼への信頼すら、今や失われてしまった。いや、まだだ。その理由如何によってはまだ望みはある。あんな奴でもナディアが認めて、紅蓮飛竜隊の隊長を任されているんだからと、レヴィは変な言い訳を頭の中で繰り返していた。
「遊び方を考えるように投げた。その上で様子を見るついでにお伺いを立ててくると言ったら、あやつめ、喜んで送り出したぞ」
「この蛮行を咎められれば私たちは最悪降格、逆に彼はお山の大将になります。その地位は不動のものとなるでしょうね」
愕然とした。レヴィがたったひとつ信じていたローレンの良さが、こんな醜いものだったなんて考えもしなかったからだ。彼にあるのは忠誠心ではなく野心。そのためならば邪魔者を消しにかかる。そういう奴でしかなかったのだ。
さて、そんなローレンの一面が発覚したのはどうでもいいことだ。問題はこの2人。重大な罪を犯してでもやって来たメグとナーガは、まずナディアに頭を下げる。深く、とても深く。まるで命乞いでもしているかのような真剣さで、願いを言う。
「処分を覚悟でお願い致します。私たちも連れて行ってください。私は魔王様と面識が御座います。決して邪魔にはなりません」
「同じく、俺もお願いする。御身の護衛役に加えて頂きたい。あぁ、先に言っておくぞ、レヴィ。お前を力不足と言っているのではない。ナディア様を放っておけないという意味だ」
魔王。どうしてそこで奴が出てくるのかと、レヴィは不思議に思った。それくらい意外だった。でも2人の言葉を何度か反芻していくにつれて、ナディアの真意がわかり始める。会いに行くつもりなのだ。自ら、魔王と直接交渉するために。
「な……ナディア、正気なの!?」
「えぇ、言ったでしょう? 少しばかり冒険をするつもりだと」
少しどころではない。敵の本拠地に大将が自ら出向くなんて、殺してくださいとお願いに行くようなものだ。止めなくては。絶対にそんな危険なお出かけなんて許せない。
「そ、そんなの行かせられないから! 馬鹿じゃないの!? 死にに行くつもり!?」
「安心してください、レヴィ。まだ私たちは魔王様と戦っていません」
「そ、それはそうかもしれないけど!」
もう、メグやナーガがいるからなどと気にしてなんかいられない。何度も言うが、ナディアは冗談なんか言わない。特にあの目は本気そのもの。頑として、絶対に行くのだと言葉以上に物語っていた。だからこそレヴィはあれこれ考える余裕なんてない。何としても止めにかかる。
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「まぁ、待ってください、レヴィ。ここでナディア様を止めてどうなるのですか?」
「どうなるって……そんなの、ナディアが危ない目に遭わずに済むでしょ!」
「そうではなく、これから先の話です」
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