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第2章 暁の竜神
第9話 ナディアの取る道 1
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窓ひとつ無い閉塞的な通路が続いていた。通路と言えば聞こえはいいが、ここは山を削って作られた場所。洞窟とも呼べる状態である。多少綺麗に削ってはあるが岩肌はむき出しで、明かりはぼんやりと道を照らす程度だ。というのも、点々と取り付けられた燭台で灯るロウソクだけが光源なのだ。しかも近くには火山口があるため熱気も凄く、窓が無いから暑くなる一方である。
そんなお世辞にも快適とは言えない道を、2人はしばらく無言で歩く。2人、それはナディアとレヴィであった。先頭がナディア、泣きそうなレヴィが後を追う。ここは謁見の間にある玉座の裏から直通で繋がっている。ローレンの独壇場になってしまった話し合いの直後、2人はここを歩いていたのだ。既に忌々しい喧噪は聞こえない程に進んでいる。
「ごめん……ナディア。私なりに準備して来たのに……力不足で……」
誰にも聞かれないからこそ、レヴィは普段通りに接することができる。そしてやっと謝ることができた。謝罪して、許されたとして、だから何かが変わる訳ではない。それでもレヴィは謝りたかった。俯きながら、絞り出すような声でやっと言っただけだけど。悲しくて、悔しくて、でもどうして良いのかわからなくて。だからせめて、こうでもしないと気が済まないから。
「いいのですよ、レヴィ。貴女はよくやってくれました」
そんな我がままをナディアは微笑みながら受け止めた。立ち止まると振り返り、震える肩を優しく叩く。それは先程までの主従関係など全く感じられない、親友か姉妹のように親しいやり取りだった。これが2人にとっての素。お互いに、この世でただ1人、心を許して話せる間柄なのだ。だからこそ、ナディアはこれを苦とは思わない。むしろ感謝の気持ちでいっぱいだった。
レヴィは少しだけ迷う。でも即断した。聞かなくてはならない。その真意を。開戦を宣言した理由を。ナディアがどれほど抵抗していたのか気付いていないからこそ、その口で説明して欲しかったのだ。
「……どうして開戦なんて? いくらあいつらでも、ナディアが言えば戦なんて……」
「あの場は収まったとしても、いずれ小競り合いは起きたでしょう。彼らは、自分達こそ世界の覇権を握ると信じて疑っていませんから」
少しだけ寂しそうにナディアはそう答えた。それは何も、レヴィの鈍感さを嘆いたのではない。むしろ変に気を遣わず真っすぐに接してくれる、そんなところを好いているのだから。
残念なのは同胞たちの現状だ。5年前の大災厄で多大な被害を受けて、絶望の淵に沈んでいた頃よりは明らかに活気がある。それはいい。いいのだが、あそこまで増長してしまったことが悲しいのだ。
「だからって……素直に認めちゃったら……」
「言うことの聞かない子どもに待ったをかける時、レヴィなら何と言いますか?」
それは唐突な問いだった。え、と聞き返そうになって、でもこれは冗談でも何でもなく、本気の質問なのだとレヴィは理解する。なぜなら、ナディアはこういう時にふざけない。いや、こんな時に限らず普段から常に全力だ。オフではどこか抜けているため、それが結果的にふざけているように見えて仕方のないことは多々ある。でも本心ではいつも本気。それがナディアだと知っているからこそ、レヴィも真剣に考えてみた。
「う、うーん……待ちなさいって言っているでしょ! とか?」
腰に手を当て、前のめりに怒る鬼ママのような口調と身振りに、クスクスとナディアは笑う。まさか演技付きで答えが来るとは思ってもいなかったため、おかしく思ってしまったのだ。
レヴィは真面目にやったのだが、だからこそ、その反動でその顔は見る見る赤くなっていく。
「も、もー! 笑うなんて酷くない!?」
「ごめんなさい。貴女の将来って、こんな感じかのかなぁ……って思うと、何だかおかしくて」
「うぐ……そ、それ、本格的に酷いかも」
やれと言われたからやったのに、と言い掛けて、ふと、質問の内容を思い出す。お題は言うことの聞かない子どもに待ったをかける、であった。この方法がパッと思い付いたのは自分ではないか。しかも実践して見せたのもまた自分の意思。無意識とはいえ、いや、むしろ意識せずにこうしてしまったという事は、ナディアの言う通り将来こうなる可能性は十分にある。それだけでも気を落とすところなのに、ナディアにまで笑われてはますます自己嫌悪である。
そんなお世辞にも快適とは言えない道を、2人はしばらく無言で歩く。2人、それはナディアとレヴィであった。先頭がナディア、泣きそうなレヴィが後を追う。ここは謁見の間にある玉座の裏から直通で繋がっている。ローレンの独壇場になってしまった話し合いの直後、2人はここを歩いていたのだ。既に忌々しい喧噪は聞こえない程に進んでいる。
「ごめん……ナディア。私なりに準備して来たのに……力不足で……」
誰にも聞かれないからこそ、レヴィは普段通りに接することができる。そしてやっと謝ることができた。謝罪して、許されたとして、だから何かが変わる訳ではない。それでもレヴィは謝りたかった。俯きながら、絞り出すような声でやっと言っただけだけど。悲しくて、悔しくて、でもどうして良いのかわからなくて。だからせめて、こうでもしないと気が済まないから。
「いいのですよ、レヴィ。貴女はよくやってくれました」
そんな我がままをナディアは微笑みながら受け止めた。立ち止まると振り返り、震える肩を優しく叩く。それは先程までの主従関係など全く感じられない、親友か姉妹のように親しいやり取りだった。これが2人にとっての素。お互いに、この世でただ1人、心を許して話せる間柄なのだ。だからこそ、ナディアはこれを苦とは思わない。むしろ感謝の気持ちでいっぱいだった。
レヴィは少しだけ迷う。でも即断した。聞かなくてはならない。その真意を。開戦を宣言した理由を。ナディアがどれほど抵抗していたのか気付いていないからこそ、その口で説明して欲しかったのだ。
「……どうして開戦なんて? いくらあいつらでも、ナディアが言えば戦なんて……」
「あの場は収まったとしても、いずれ小競り合いは起きたでしょう。彼らは、自分達こそ世界の覇権を握ると信じて疑っていませんから」
少しだけ寂しそうにナディアはそう答えた。それは何も、レヴィの鈍感さを嘆いたのではない。むしろ変に気を遣わず真っすぐに接してくれる、そんなところを好いているのだから。
残念なのは同胞たちの現状だ。5年前の大災厄で多大な被害を受けて、絶望の淵に沈んでいた頃よりは明らかに活気がある。それはいい。いいのだが、あそこまで増長してしまったことが悲しいのだ。
「だからって……素直に認めちゃったら……」
「言うことの聞かない子どもに待ったをかける時、レヴィなら何と言いますか?」
それは唐突な問いだった。え、と聞き返そうになって、でもこれは冗談でも何でもなく、本気の質問なのだとレヴィは理解する。なぜなら、ナディアはこういう時にふざけない。いや、こんな時に限らず普段から常に全力だ。オフではどこか抜けているため、それが結果的にふざけているように見えて仕方のないことは多々ある。でも本心ではいつも本気。それがナディアだと知っているからこそ、レヴィも真剣に考えてみた。
「う、うーん……待ちなさいって言っているでしょ! とか?」
腰に手を当て、前のめりに怒る鬼ママのような口調と身振りに、クスクスとナディアは笑う。まさか演技付きで答えが来るとは思ってもいなかったため、おかしく思ってしまったのだ。
レヴィは真面目にやったのだが、だからこそ、その反動でその顔は見る見る赤くなっていく。
「も、もー! 笑うなんて酷くない!?」
「ごめんなさい。貴女の将来って、こんな感じかのかなぁ……って思うと、何だかおかしくて」
「うぐ……そ、それ、本格的に酷いかも」
やれと言われたからやったのに、と言い掛けて、ふと、質問の内容を思い出す。お題は言うことの聞かない子どもに待ったをかける、であった。この方法がパッと思い付いたのは自分ではないか。しかも実践して見せたのもまた自分の意思。無意識とはいえ、いや、むしろ意識せずにこうしてしまったという事は、ナディアの言う通り将来こうなる可能性は十分にある。それだけでも気を落とすところなのに、ナディアにまで笑われてはますます自己嫌悪である。
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