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第2章 暁の竜神
第8話 紅竜同盟の話し合い 5
チラリとナディアの方をレヴィは見る。残念ながら返って来たのは首を横に振る仕草だけ。それならばとナーガの方を見る。しかしこちらも駄目。この勢いを止めるのはもはや無理らしく、これまた首を横に振られる。
「……もっと現実を見てください。貴方は誇り高き紅蓮飛竜隊の隊長じゃないんですか……?」
思わずレヴィは呟いてしまった。それは余りにも弱々しく、小さく、許されない抵抗だった。
その祈りにも似た願いは当の本人には届かない。ローレンは同胞たちの士気が右肩上がりに高まっていくのを満足気に眺めていたから。もうレヴィなど眼中になかったから。そうして良いだけ煽りに煽って開戦ムードを強めておきながら、ふてぶてしくもこんなことを言い出す。
「ただ……確かに栄誉や誇りで戦争はできん。我らは将兵に過ぎない。だからこそ聞こうか、我が同胞たちよ。民の総意と我らの思いをまとめ上げてくださる主の御言葉を」
多数の視線がナディアに集まる。ローレンだけではない。そのどれもが開戦を求めているのだと、ナディアやレヴィも含めたこの場の誰もが理解していた。言えと、口にしろと強要していた。それは最終的な責任が誰にあるのか、その確認かつ一方的な押し付けである。
「な……ナディア様……」
卑怯とわかりながら、もう限界とレヴィは呼んでしまう。誰よりも信頼している主の名を。悔しくて、余りにも自分が無力で。でもどうにかしたくて。そんなごちゃまぜの感情に支配されて、親衛隊の隊長などという役職に就かせて貰いながら、この悲しみすら受け止めて欲しいと思ってしまった。それでまた己の無力さ、無能さを嫌というほど痛感してしまう。負のスパイラルに陥ってしまう。
そんな表情で見られたナディアは小さく微笑み返した。よくやってくれた。そのような辛さを感じる必要などないのだと優しく諭すかのように。そして彼女は自身に求められた役目を全うするべく、ローレンたちに向き直る。
「皆の意思はよくわかりました。賢明な我が同胞たちよ、あえて問いしょう。此度の児戯は戦と呼ぶに相応しいものですか?」
すぐに多数の竜人たちが意味を曲解して爆笑する。ローレンもまた堪えきれずに吹き出した。これはナディアなりの精一杯の皮肉であり抑止でもあった。まぁ、こんなにも遠回しでは彼女の味方しかその意図を理解できるはずがなかったが。
「なるほど、児戯。確かにその通り。我ら紅竜同盟にとってこれは戦いですらなかった。流石はナディア様だ。よく大局を見ておられる」
ローレンを初めとする竜人たちが湧く。ナディア様こそ我らの主に相応しいと口々に言う。
そんな無意味な賛辞などナディアは綺麗に聞き流していた。それよりも、もはや大勢は決した。ここまで傲慢になってしまった紅竜同盟ではこうなることは必然だったのかもしれない。そんな諦めの確信を得て彼女は本当に最後の抵抗を見せた。
「児戯とはいえ兵は用いるでしょう。各々準備を始めるように。開戦は3日後の正午とします。以上、解散」
「お、お待ちください、ナディア様!」
ナディアはそう宣言するや否や閉会の挨拶や一同の返礼すら見ることなく、踵を返して奥へと歩き去って行ってしまう。それをレヴィは慌てて追う。戦に浮かれた者たちの歓喜の声を聞き、まるで敗走したような気分になりながら。
「……もっと現実を見てください。貴方は誇り高き紅蓮飛竜隊の隊長じゃないんですか……?」
思わずレヴィは呟いてしまった。それは余りにも弱々しく、小さく、許されない抵抗だった。
その祈りにも似た願いは当の本人には届かない。ローレンは同胞たちの士気が右肩上がりに高まっていくのを満足気に眺めていたから。もうレヴィなど眼中になかったから。そうして良いだけ煽りに煽って開戦ムードを強めておきながら、ふてぶてしくもこんなことを言い出す。
「ただ……確かに栄誉や誇りで戦争はできん。我らは将兵に過ぎない。だからこそ聞こうか、我が同胞たちよ。民の総意と我らの思いをまとめ上げてくださる主の御言葉を」
多数の視線がナディアに集まる。ローレンだけではない。そのどれもが開戦を求めているのだと、ナディアやレヴィも含めたこの場の誰もが理解していた。言えと、口にしろと強要していた。それは最終的な責任が誰にあるのか、その確認かつ一方的な押し付けである。
「な……ナディア様……」
卑怯とわかりながら、もう限界とレヴィは呼んでしまう。誰よりも信頼している主の名を。悔しくて、余りにも自分が無力で。でもどうにかしたくて。そんなごちゃまぜの感情に支配されて、親衛隊の隊長などという役職に就かせて貰いながら、この悲しみすら受け止めて欲しいと思ってしまった。それでまた己の無力さ、無能さを嫌というほど痛感してしまう。負のスパイラルに陥ってしまう。
そんな表情で見られたナディアは小さく微笑み返した。よくやってくれた。そのような辛さを感じる必要などないのだと優しく諭すかのように。そして彼女は自身に求められた役目を全うするべく、ローレンたちに向き直る。
「皆の意思はよくわかりました。賢明な我が同胞たちよ、あえて問いしょう。此度の児戯は戦と呼ぶに相応しいものですか?」
すぐに多数の竜人たちが意味を曲解して爆笑する。ローレンもまた堪えきれずに吹き出した。これはナディアなりの精一杯の皮肉であり抑止でもあった。まぁ、こんなにも遠回しでは彼女の味方しかその意図を理解できるはずがなかったが。
「なるほど、児戯。確かにその通り。我ら紅竜同盟にとってこれは戦いですらなかった。流石はナディア様だ。よく大局を見ておられる」
ローレンを初めとする竜人たちが湧く。ナディア様こそ我らの主に相応しいと口々に言う。
そんな無意味な賛辞などナディアは綺麗に聞き流していた。それよりも、もはや大勢は決した。ここまで傲慢になってしまった紅竜同盟ではこうなることは必然だったのかもしれない。そんな諦めの確信を得て彼女は本当に最後の抵抗を見せた。
「児戯とはいえ兵は用いるでしょう。各々準備を始めるように。開戦は3日後の正午とします。以上、解散」
「お、お待ちください、ナディア様!」
ナディアはそう宣言するや否や閉会の挨拶や一同の返礼すら見ることなく、踵を返して奥へと歩き去って行ってしまう。それをレヴィは慌てて追う。戦に浮かれた者たちの歓喜の声を聞き、まるで敗走したような気分になりながら。
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