婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~

鷹 綾

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第13話 揺らぐ王宮、選ばれる立場

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第13話 揺らぐ王宮、選ばれる立場

 翌朝。
 王宮に鳴り響いた鐘の音は、いつもより低く、重かった。

 それは祝福ではなく――警告の音だった。

 王宮監査局による大規模調査の開始。
 それは、宮廷社会において「誰も安全ではない」ことを意味する。

「昨夜から、拘束者は七名」 「南門、複写室、財務部……点と点が繋がり始めています」

 執務室で報告を受けながら、レオニードは眉間に指を当てた。

「ここまで一気に動くとはな……」 「彼らが焦っていた証拠ですわ」

 ルビーは、落ち着いた声で答える。

「計画が露見する前に、私を排除しようとした。
 つまり――“もう隠しきれない段階”に入っていたということ」

 

 だが、王宮の混乱は、調査対象だけに留まらなかった。

「……顧問殿が“誘い出した”という噂が広がっています」 「自作自演だと?」 「はい。証拠はありませんが……」

 文官の一人が、言葉を濁す。

 ルビーは、表情を変えなかった。

(来ましたわね。“責任転嫁”)

 不正が暴かれそうになったとき、人は必ず“原因”を探す。
 そして、最も都合のいい存在が――変化をもたらした者だ。

 

 その日の午後、王妃カミラに呼ばれた。

 柔らかな日差しの差し込む私室で、王妃は紅茶を差し出す。

「正直に聞くわ、ルビー」 「はい」

「あなた、自分がどれほど危うい立場に立っているか、分かっている?」

「ええ。よく理解しております」

 ルビーは、はっきりと答えた。

「ですが――後悔はしていません」 「なぜ?」

 王妃の問いに、ルビーは一瞬だけ考え、そして言った。

「もし、見て見ぬふりをすれば、
 私は“ここに来た意味”を失います」

 カミラは、深く息を吐いた。

「……あなたは、強いわね」 「いいえ。“覚悟があるだけ”です」

 

 その夜。

 王宮の回廊で、ルビーは一人の令嬢に呼び止められた。

「あなた……調子に乗りすぎではなくて?」

 怯えと敵意が混じった声。

「あなたが来てから、王宮は混乱している。
 その責任を、どう取るおつもり?」

 取り巻きたちの視線が、突き刺さる。

 だがルビーは、静かに答えた。

「混乱の原因は、私ではありませんわ」 「では誰だと?」

「“正されると困る方々”です」

 その一言で、空気が凍りついた。

「私は嵐を起こしたのではありません。
 ――嵐が来る場所に、光を当てただけです」

 

 翌日。

 王宮内に、正式な通達が出された。

> 王太子直属顧問ルビー・エルヴェールは、
監査局調査に全面協力する責任者として、
一時的に全記録への閲覧権限を付与される。



 それは――信任の証であり、同時に的の中心に立つ宣言でもあった。

 

「これで、逃げ場は完全になくなったな」

 レオニードは、苦笑混じりに言った。

「ええ。私も、彼らも」 「怖くないのか?」

 ルビーは、静かに彼を見つめる。

「怖いですわ。
 ですが――」

 一歩も退かず、言い切った。

「私はもう、“選ばれる側”ではありません。
 この国のために、選ぶ側に立ちます」

 

 王宮の歯車は、確実に噛み合い始めていた。
 だが同時に――

 ルビー・エルヴェールという存在は、
 “顧問”から、“王国の分岐点”へと変わりつつあった。

 そして、まだ誰も知らない。

 この先に待つのが――
 最大の敵か、最大の味方か。

 運命の一手は、すでに盤上に置かれていた。
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