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第14話 敵か味方か、仮面の下の真意
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第14話 敵か味方か、仮面の下の真意
王宮監査局による調査が本格化して三日目。
王宮の空気は、張り詰めたまま張りつめきっていた。
通路では声が潜められ、扉の向こうで交わされる会話はすぐに途切れる。
誰もが疑い、誰もが疑われている。
(……悪くありませんわね)
ルビー・エルヴェールは、監査局から新たに渡された記録束に目を通しながら、内心でそう評価していた。
恐怖は、人を慎重にする。
そして慎重になった人間は、余計な嘘をつかなくなる。
「失礼いたします、ルビー様」
控えめに入ってきたのは、王宮文書官の中でも古参と呼ばれる男だった。
「こちらが、十五年前の関税特例記録です」 「……そんな昔のものまで?」
「はい。“今になって、急に提出を求められました”ので」
男は、どこか探るような視線を向けてくる。
(様子見、ですわね)
ルビーは、あえて顔を上げずに答えた。
「ありがとうございます。助かりますわ」 「……顧問殿は、本気なのですか?」
不意に、男が低い声で尋ねた。
「この調査を、最後まで進めるおつもりで?」
ルビーは、ペンを止めた。
そして、ゆっくりと男を見つめる。
「ええ。本気です」 「……そうですか」
男は、ほっとしたようにも、覚悟を決めたようにも見えた。
「実は……私も、ずっとおかしいと思っていたのです」 「……」
「帳簿は整っているのに、国庫が増えない。
誰かが、どこかで“抜いている”と」
ルビーは、静かに頷いた。
「その違和感を、言葉にできた方は、あなたの他にもいます」 「……では」 「ええ。あなたは“敵”ではありません」
その一言に、男の肩から力が抜けた。
だが、その様子を――
回廊の陰から、別の人物が見ていた。
「……なるほど」
黒衣に身を包んだその男は、口元だけで笑う。
「味方を選び始めたか、エルヴェール嬢」
マクシミリアン・グレイ。
王宮監査局長にして、王国の“影”。
その夜、ルビーは彼に呼び出された。
場所は、王宮地下の簡素な会議室。
余計な装飾はなく、机と椅子だけが置かれている。
「君は、危うい橋を渡っている」
開口一番、マクシミリアンはそう言った。
「ええ、承知していますわ」 「なら聞こう。君は――誰を信じる?」
試すような問い。
ルビーは、少し考えてから答えた。
「“立場”ではなく、“行動”を見ます」 「ほう」
「沈黙していた者でも、今、正しい方へ踏み出すなら味方。
逆に、正しさを語っていても、動かぬ者は敵です」
マクシミリアンは、しばらく黙っていたが――やがて小さく笑った。
「若いのに、よく分かっている」 「過去に、一度……見誤りましたので」
その言葉に、彼はそれ以上踏み込まなかった。
「忠告しておこう」 「はい」
「次に動くのは、“末端”ではない。
この件で最も恩恵を受けてきた者たちだ」
「……貴族派、ですわね」 「その中枢だ」
会議室を出た後、ルビーは一人、静かな庭園を歩いた。
夜風が、頬を撫でる。
(敵と味方の線引き……)
それは、剣よりも難しい。
だが――避けては通れない。
遠くで、鐘が鳴った。
それは、新たな会議の招集を告げる音。
――次は、もっと大きな舞台。
ルビー・エルヴェールは、静かに背筋を伸ばした。
(もう迷いません)
仮面の下の真意を見抜き、
信じるに値する者だけを選ぶ。
それこそが――
この王宮で生き残る、唯一の方法なのだから。
王宮監査局による調査が本格化して三日目。
王宮の空気は、張り詰めたまま張りつめきっていた。
通路では声が潜められ、扉の向こうで交わされる会話はすぐに途切れる。
誰もが疑い、誰もが疑われている。
(……悪くありませんわね)
ルビー・エルヴェールは、監査局から新たに渡された記録束に目を通しながら、内心でそう評価していた。
恐怖は、人を慎重にする。
そして慎重になった人間は、余計な嘘をつかなくなる。
「失礼いたします、ルビー様」
控えめに入ってきたのは、王宮文書官の中でも古参と呼ばれる男だった。
「こちらが、十五年前の関税特例記録です」 「……そんな昔のものまで?」
「はい。“今になって、急に提出を求められました”ので」
男は、どこか探るような視線を向けてくる。
(様子見、ですわね)
ルビーは、あえて顔を上げずに答えた。
「ありがとうございます。助かりますわ」 「……顧問殿は、本気なのですか?」
不意に、男が低い声で尋ねた。
「この調査を、最後まで進めるおつもりで?」
ルビーは、ペンを止めた。
そして、ゆっくりと男を見つめる。
「ええ。本気です」 「……そうですか」
男は、ほっとしたようにも、覚悟を決めたようにも見えた。
「実は……私も、ずっとおかしいと思っていたのです」 「……」
「帳簿は整っているのに、国庫が増えない。
誰かが、どこかで“抜いている”と」
ルビーは、静かに頷いた。
「その違和感を、言葉にできた方は、あなたの他にもいます」 「……では」 「ええ。あなたは“敵”ではありません」
その一言に、男の肩から力が抜けた。
だが、その様子を――
回廊の陰から、別の人物が見ていた。
「……なるほど」
黒衣に身を包んだその男は、口元だけで笑う。
「味方を選び始めたか、エルヴェール嬢」
マクシミリアン・グレイ。
王宮監査局長にして、王国の“影”。
その夜、ルビーは彼に呼び出された。
場所は、王宮地下の簡素な会議室。
余計な装飾はなく、机と椅子だけが置かれている。
「君は、危うい橋を渡っている」
開口一番、マクシミリアンはそう言った。
「ええ、承知していますわ」 「なら聞こう。君は――誰を信じる?」
試すような問い。
ルビーは、少し考えてから答えた。
「“立場”ではなく、“行動”を見ます」 「ほう」
「沈黙していた者でも、今、正しい方へ踏み出すなら味方。
逆に、正しさを語っていても、動かぬ者は敵です」
マクシミリアンは、しばらく黙っていたが――やがて小さく笑った。
「若いのに、よく分かっている」 「過去に、一度……見誤りましたので」
その言葉に、彼はそれ以上踏み込まなかった。
「忠告しておこう」 「はい」
「次に動くのは、“末端”ではない。
この件で最も恩恵を受けてきた者たちだ」
「……貴族派、ですわね」 「その中枢だ」
会議室を出た後、ルビーは一人、静かな庭園を歩いた。
夜風が、頬を撫でる。
(敵と味方の線引き……)
それは、剣よりも難しい。
だが――避けては通れない。
遠くで、鐘が鳴った。
それは、新たな会議の招集を告げる音。
――次は、もっと大きな舞台。
ルビー・エルヴェールは、静かに背筋を伸ばした。
(もう迷いません)
仮面の下の真意を見抜き、
信じるに値する者だけを選ぶ。
それこそが――
この王宮で生き残る、唯一の方法なのだから。
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