婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~

鷹 綾

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第15話 試される忠誠、暴かれる中枢

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第15話 試される忠誠、暴かれる中枢

 王宮大広間に集められた貴族と高官たちの間には、重苦しい沈黙が流れていた。

 急遽招集された臨時会議。
 その中心に立つのは、王太子レオニード――そして、その一歩後ろに控えるルビー・エルヴェールだった。

(……ここが、分水嶺)

 ルビーは静かに場を見渡す。
 この中に、今回の不正の“中心”がいる。

「本日の議題は一つ」

 レオニードの声が、はっきりと響いた。

「王宮監査局による調査の中間報告だ」

 ざわ、と空気が揺れる。

 オルディス侯爵が一歩前に出た。

「殿下。調査が長引いております。
 王宮の安定を考えれば、これ以上の混乱は――」

「混乱を生んだのは、調査ではない」

 静かだが、鋭い声。

「不正だ」

 その言葉に、数人の貴族が息を呑んだ。

 

 合図を受け、マクシミリアンが前に出る。

「調査の結果、南門交易に関する不正は、
 単独犯ではなく、複数の商会・貴族家による組織的なものであると判明しました」

 ざわめきが大きくなる。

「さらに――」

 彼は一枚の文書を掲げた。

「その利益の一部が、王宮内の特定部署を経由し、
 “政治資金”として再配分されていた記録も確認されています」

 

「ば、馬鹿な……!」

 誰かが叫ぶ。

「そのような証拠、捏造に決まっている!」

 視線が、自然とルビーに集まった。

 だが、彼女は一歩前に出て、落ち着いた声で言った。

「証拠は、捏造できませんわ」

 彼女は、別の書類を机に置く。

「これは、三年前から続く帳簿の写し。
 不正が始まった時期と、特定の政策変更が一致しています」

「……!」

「そして、その政策を主導したのは――」

 ルビーは、はっきりと名を告げた。

「オルディス侯爵、あなたですわ」

 

 一瞬、時が止まった。

「な……何を言っている!」

 侯爵の声は、わずかに震えている。

「私は王国のために動いてきた!
 この娘は、ただの――」

「“追放された令嬢”?」

 ルビーは、皮肉なく微笑んだ。

「ええ。ですが今は、王太子直属顧問です。
 そして――数字は、私より雄弁です」

 

 彼女は続ける。

「不正の構造は単純でした。
 貿易税を操作し、商会に恩を売り、
 その見返りとして資金と支持を集める」

「黙れ!」

 侯爵が声を荒げた瞬間――

「そこまでだ」

 レオニードが立ち上がった。

「オルディス侯爵。
 監査局の名において、あなたを一時拘束する」

 

 衛兵が動き、侯爵の腕を取る。

 会場は、凍りついたように静まり返った。

 

「……やってくれたな」

 連行される直前、侯爵はルビーを睨みつけた。

「貴様のような女が、王宮に災いを――」

「いいえ」

 ルビーは、まっすぐに言った。

「私は、膿を表に出しただけです」

 

 扉が閉まり、重い音が響く。

 

 しばらくして、レオニードがルビーに視線を向けた。

「……覚悟はあるか?」

「ええ」

 彼女は迷いなく答える。

「ここまで来た以上、引き返すつもりはありません」

 

 その日を境に、王宮内の勢力図は大きく塗り替えられた。

 沈黙を選んだ者。
 忠誠を示した者。
 そして、排除された者。

 ルビー・エルヴェールは、もはや“異物”ではない。

 ――王宮の中枢に踏み込み、
 権力の流れを変えた存在として、誰もが彼女の名を意識し始めていた。

 だが、彼女は知っている。

(これは、終わりではありません)

 最大の敵は倒れた。
 しかし――最大の試練は、これからだということを。

 新たな嵐は、すでに動き始めていた。
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