婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~

鷹 綾

文字の大きさ
15 / 40

第15話 試される忠誠、暴かれる中枢

しおりを挟む
第15話 試される忠誠、暴かれる中枢

 王宮大広間に集められた貴族と高官たちの間には、重苦しい沈黙が流れていた。

 急遽招集された臨時会議。
 その中心に立つのは、王太子レオニード――そして、その一歩後ろに控えるルビー・エルヴェールだった。

(……ここが、分水嶺)

 ルビーは静かに場を見渡す。
 この中に、今回の不正の“中心”がいる。

「本日の議題は一つ」

 レオニードの声が、はっきりと響いた。

「王宮監査局による調査の中間報告だ」

 ざわ、と空気が揺れる。

 オルディス侯爵が一歩前に出た。

「殿下。調査が長引いております。
 王宮の安定を考えれば、これ以上の混乱は――」

「混乱を生んだのは、調査ではない」

 静かだが、鋭い声。

「不正だ」

 その言葉に、数人の貴族が息を呑んだ。

 

 合図を受け、マクシミリアンが前に出る。

「調査の結果、南門交易に関する不正は、
 単独犯ではなく、複数の商会・貴族家による組織的なものであると判明しました」

 ざわめきが大きくなる。

「さらに――」

 彼は一枚の文書を掲げた。

「その利益の一部が、王宮内の特定部署を経由し、
 “政治資金”として再配分されていた記録も確認されています」

 

「ば、馬鹿な……!」

 誰かが叫ぶ。

「そのような証拠、捏造に決まっている!」

 視線が、自然とルビーに集まった。

 だが、彼女は一歩前に出て、落ち着いた声で言った。

「証拠は、捏造できませんわ」

 彼女は、別の書類を机に置く。

「これは、三年前から続く帳簿の写し。
 不正が始まった時期と、特定の政策変更が一致しています」

「……!」

「そして、その政策を主導したのは――」

 ルビーは、はっきりと名を告げた。

「オルディス侯爵、あなたですわ」

 

 一瞬、時が止まった。

「な……何を言っている!」

 侯爵の声は、わずかに震えている。

「私は王国のために動いてきた!
 この娘は、ただの――」

「“追放された令嬢”?」

 ルビーは、皮肉なく微笑んだ。

「ええ。ですが今は、王太子直属顧問です。
 そして――数字は、私より雄弁です」

 

 彼女は続ける。

「不正の構造は単純でした。
 貿易税を操作し、商会に恩を売り、
 その見返りとして資金と支持を集める」

「黙れ!」

 侯爵が声を荒げた瞬間――

「そこまでだ」

 レオニードが立ち上がった。

「オルディス侯爵。
 監査局の名において、あなたを一時拘束する」

 

 衛兵が動き、侯爵の腕を取る。

 会場は、凍りついたように静まり返った。

 

「……やってくれたな」

 連行される直前、侯爵はルビーを睨みつけた。

「貴様のような女が、王宮に災いを――」

「いいえ」

 ルビーは、まっすぐに言った。

「私は、膿を表に出しただけです」

 

 扉が閉まり、重い音が響く。

 

 しばらくして、レオニードがルビーに視線を向けた。

「……覚悟はあるか?」

「ええ」

 彼女は迷いなく答える。

「ここまで来た以上、引き返すつもりはありません」

 

 その日を境に、王宮内の勢力図は大きく塗り替えられた。

 沈黙を選んだ者。
 忠誠を示した者。
 そして、排除された者。

 ルビー・エルヴェールは、もはや“異物”ではない。

 ――王宮の中枢に踏み込み、
 権力の流れを変えた存在として、誰もが彼女の名を意識し始めていた。

 だが、彼女は知っている。

(これは、終わりではありません)

 最大の敵は倒れた。
 しかし――最大の試練は、これからだということを。

 新たな嵐は、すでに動き始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

婚約者を交換ですか?いいですよ。ただし返品はできませんので悪しからず…

ゆずこしょう
恋愛
「メーティア!私にあなたの婚約者を譲ってちょうだい!!」 国王主催のパーティーの最中、すごい足音で近寄ってきたのはアーテリア・ジュアン侯爵令嬢(20)だ。 皆突然の声に唖然としている。勿論、私もだ。 「アーテリア様には婚約者いらっしゃるじゃないですか…」 20歳を超えて婚約者が居ない方がおかしいものだ… 「ではこうしましょう?私と婚約者を交換してちょうだい!」 「交換ですか…?」 果たしてメーティアはどうするのか…。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

処理中です...