32 / 40
第31話 見えない敵の輪郭
しおりを挟む
第31話 見えない敵の輪郭
嵐の前触れは、いつも静かだ。
「……顧問殿、少しよろしいでしょうか」
呼び止めたのは、王宮警務局の若い士官だった。
いつもより声が低く、慎重だ。
「何かありましたの?」 「“違和感”が、いくつか」
ルビー・エルヴェールは、足を止めた。
「具体的には?」 「情報の流れです」
士官は、周囲を確認してから続ける。
「正式ルートを通っていない噂が、先に現場へ届いています」 「内容は?」 「……制度改正の“次”について」
ルビーの目が、わずかに細くなる。
「“次は、権限の剥奪が始まる”」 「“顧問は、最終的に人員整理を狙っている”」
士官は、苦い顔をした。
「どれも事実ではありません」 「ええ」
ルビーは、静かに言った。
「ですが、信じられやすい嘘ですわね」
午後。
王宮内の非公式な集まりが、いくつか同時に開かれていた。
表向きは懇談。
実際は、情報の擦り合わせ。
共通している点が、一つあった。
(“誰が言い出したか”が、分からない)
「顧問殿」
マクシミリアンが、低い声で言う。
「これは、個人の反発ではない」 「ええ」
「意図的に、不安を煽っている」 「しかも、複数の立場を使い分けていますわ」
上位評価者には――
「責任が重くなりすぎる」と。
中間層には――
「居場所がなくなる」と。
下位層には――
「切り捨てられる」と。
「……巧妙ですわね」
誰にとっても、
少しだけ怖い未来を見せている。
「目的は?」 「一つしかありません」
ルビーは、即答した。
「改革の“正当性”を、内側から削ること」
夜。
王太子レオニードとの会談は、短かった。
「敵は、はっきりしないな」 「ええ」
「顔の見えない敵ほど、厄介です」 「だが、放置もできない」
ルビーは、ゆっくりと頷いた。
「ですから――正面からは戦いません」
「何?」 「光を当てます」
彼女は、淡々と続ける。
「情報を、すべて表に出します」 「噂も?」 「ええ」
「“どんな不安が流れているか”を、公式に共有します」
レオニードは、眉を上げた。
「混乱しないか?」 「一時的には」
「ですが、噂は“見えないから”怖い」 「見えれば、検証できます」
数日後。
王宮内に、異例の文書が回覧された。
> 『現在、制度改正に関して以下のような不安や噂が確認されています』
・権限剥奪の可能性
・人員整理の計画
・評価制度の恣意的運用
これらは、いずれも事実ではありません。
具体的な方針と、今後の予定を以下に明示します。
反応は、即座だった。
「……噂を認めた?」 「否定だけじゃないのか」
だが、文書は続く。
> 『制度は、今後も段階的に検証・修正されます。
その過程で、必ず事前説明と意見募集を行います』
空気が、少しだけ変わった。
(敵は、まだいる)
ルビーは、理解していた。
(けれど、影に隠れる場所は、減りました)
夜。
彼女は、執務室で一人、考えていた。
敵は誰か。
目的は何か。
(……個人ではない)
これは、
変化そのものを恐れる構造だ。
だからこそ――
倒すべきは、人物ではない。
恐怖が増殖する“暗がり”そのもの。
ルビー・エルヴェールは、静かにペンを取った。
次に打つ手は、
さらに踏み込んだものになる。
見えない敵は、
見える場所へ引きずり出される。
その時、
本当の対立が、姿を現すのだから。
嵐の前触れは、いつも静かだ。
「……顧問殿、少しよろしいでしょうか」
呼び止めたのは、王宮警務局の若い士官だった。
いつもより声が低く、慎重だ。
「何かありましたの?」 「“違和感”が、いくつか」
ルビー・エルヴェールは、足を止めた。
「具体的には?」 「情報の流れです」
士官は、周囲を確認してから続ける。
「正式ルートを通っていない噂が、先に現場へ届いています」 「内容は?」 「……制度改正の“次”について」
ルビーの目が、わずかに細くなる。
「“次は、権限の剥奪が始まる”」 「“顧問は、最終的に人員整理を狙っている”」
士官は、苦い顔をした。
「どれも事実ではありません」 「ええ」
ルビーは、静かに言った。
「ですが、信じられやすい嘘ですわね」
午後。
王宮内の非公式な集まりが、いくつか同時に開かれていた。
表向きは懇談。
実際は、情報の擦り合わせ。
共通している点が、一つあった。
(“誰が言い出したか”が、分からない)
「顧問殿」
マクシミリアンが、低い声で言う。
「これは、個人の反発ではない」 「ええ」
「意図的に、不安を煽っている」 「しかも、複数の立場を使い分けていますわ」
上位評価者には――
「責任が重くなりすぎる」と。
中間層には――
「居場所がなくなる」と。
下位層には――
「切り捨てられる」と。
「……巧妙ですわね」
誰にとっても、
少しだけ怖い未来を見せている。
「目的は?」 「一つしかありません」
ルビーは、即答した。
「改革の“正当性”を、内側から削ること」
夜。
王太子レオニードとの会談は、短かった。
「敵は、はっきりしないな」 「ええ」
「顔の見えない敵ほど、厄介です」 「だが、放置もできない」
ルビーは、ゆっくりと頷いた。
「ですから――正面からは戦いません」
「何?」 「光を当てます」
彼女は、淡々と続ける。
「情報を、すべて表に出します」 「噂も?」 「ええ」
「“どんな不安が流れているか”を、公式に共有します」
レオニードは、眉を上げた。
「混乱しないか?」 「一時的には」
「ですが、噂は“見えないから”怖い」 「見えれば、検証できます」
数日後。
王宮内に、異例の文書が回覧された。
> 『現在、制度改正に関して以下のような不安や噂が確認されています』
・権限剥奪の可能性
・人員整理の計画
・評価制度の恣意的運用
これらは、いずれも事実ではありません。
具体的な方針と、今後の予定を以下に明示します。
反応は、即座だった。
「……噂を認めた?」 「否定だけじゃないのか」
だが、文書は続く。
> 『制度は、今後も段階的に検証・修正されます。
その過程で、必ず事前説明と意見募集を行います』
空気が、少しだけ変わった。
(敵は、まだいる)
ルビーは、理解していた。
(けれど、影に隠れる場所は、減りました)
夜。
彼女は、執務室で一人、考えていた。
敵は誰か。
目的は何か。
(……個人ではない)
これは、
変化そのものを恐れる構造だ。
だからこそ――
倒すべきは、人物ではない。
恐怖が増殖する“暗がり”そのもの。
ルビー・エルヴェールは、静かにペンを取った。
次に打つ手は、
さらに踏み込んだものになる。
見えない敵は、
見える場所へ引きずり出される。
その時、
本当の対立が、姿を現すのだから。
0
あなたにおすすめの小説
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる