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第30話 組織は、感情を持つ
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第30話 組織は、感情を持つ
通達が出てから、三日。
王宮の空気は、明らかに張り詰めていた。
「……反発、ですね」
補佐官が、声を潜めて言う。
「ええ。想定内ですわ」
ルビー・エルヴェールは、机上に置かれた複数の意見書を眺めていた。
上位評価者からの不満。
下位評価者からの戸惑い。
中間層からの沈黙。
(これは、単なる制度の問題ではない)
組織の感情が、動き始めている。
午後、非公式の集まりが開かれた。
表向きは「意見交換会」。
実態は、不満の噴出口だ。
「なぜ、私たちが教えなければならない?」 「評価が下がるわけでもないのに、負担だけが増える」
率直な声が、次々と上がる。
ルビーは、遮らずに聞いていた。
「顧問殿」
年配の官僚が、静かに言う。
「あなたの制度は、理屈としては正しい」
「だが――」
「人は、理屈だけでは動きません」
空気が、少しだけ重くなる。
ルビーは、ゆっくりと頷いた。
「おっしゃる通りですわ」
「組織は、理性で動く存在ではありません」
彼女は、言葉を続ける。
「恐れ、誇り、嫉妬、安心――
それらが絡み合って、ようやく動く」
ざわめき。
「私は、それを軽視していました」
率直な言葉に、場が静まる。
「制度を整えれば、人は自然と適応すると考えていた」
「ですが――」
彼女は、少しだけ目を伏せた。
「組織には、感情がある」
その言葉は、予想外だった。
「だから、次の手を打ちます」
視線が集まる。
「上位評価者を“教える側”に回すだけでは足りません」
「彼らが、
誇りを持てる役割にしなければならない」
「誇り?」
「ええ」
ルビーは、淡々と説明する。
「正式な称号を与えます」
「“王宮政策メンター”」
ざわ、と空気が動いた。
「役割は、指導とレビュー」 「権限は、限定的だが明確」 「評価は、昇進と直結させる」
「つまり――」
「教える者が、上位に位置づけられる構造にします」
沈黙の後、誰かが呟いた。
「……それなら、話は別だ」
その夜。
ルビーは、レオニードと向かい合っていた。
「ずいぶん、人心掌握に踏み込んだな」 「制度だけでは、限界がありますもの」
「君は、操っている自覚はあるか?」 「いいえ」
彼女は、首を振った。
「理解しようとしているだけです」
「組織は、生き物です」 「押せば反発するし、
無視すれば腐る」
「なら、どうする?」 「対話します」
レオニードは、少しだけ笑った。
「理想主義者だ」 「現実主義者ですわ」
数日後。
新たな任命式が行われた。
選ばれた者たちは、戸惑いながらも、
胸を張っていた。
「教える立場になるとは思わなかった」 「責任は重いが……悪くない」
空気が、わずかに変わる。
(動き始めましたわね)
夜。
ルビーは、静かな執務室で一人考えていた。
(制度は、骨格)
(感情は、血流)
どちらが欠けても、
組織は動かない。
彼女の改革は、
数字と理屈の段階を越え、
人の心へと踏み込み始めていた。
だが――
それは同時に、
より大きな波を呼び寄せることでもあった。
組織が感情を持つなら、
敵意もまた、感情なのだから。
静かな王宮の夜に、
次なる嵐の気配が、確かに忍び寄っていた。
通達が出てから、三日。
王宮の空気は、明らかに張り詰めていた。
「……反発、ですね」
補佐官が、声を潜めて言う。
「ええ。想定内ですわ」
ルビー・エルヴェールは、机上に置かれた複数の意見書を眺めていた。
上位評価者からの不満。
下位評価者からの戸惑い。
中間層からの沈黙。
(これは、単なる制度の問題ではない)
組織の感情が、動き始めている。
午後、非公式の集まりが開かれた。
表向きは「意見交換会」。
実態は、不満の噴出口だ。
「なぜ、私たちが教えなければならない?」 「評価が下がるわけでもないのに、負担だけが増える」
率直な声が、次々と上がる。
ルビーは、遮らずに聞いていた。
「顧問殿」
年配の官僚が、静かに言う。
「あなたの制度は、理屈としては正しい」
「だが――」
「人は、理屈だけでは動きません」
空気が、少しだけ重くなる。
ルビーは、ゆっくりと頷いた。
「おっしゃる通りですわ」
「組織は、理性で動く存在ではありません」
彼女は、言葉を続ける。
「恐れ、誇り、嫉妬、安心――
それらが絡み合って、ようやく動く」
ざわめき。
「私は、それを軽視していました」
率直な言葉に、場が静まる。
「制度を整えれば、人は自然と適応すると考えていた」
「ですが――」
彼女は、少しだけ目を伏せた。
「組織には、感情がある」
その言葉は、予想外だった。
「だから、次の手を打ちます」
視線が集まる。
「上位評価者を“教える側”に回すだけでは足りません」
「彼らが、
誇りを持てる役割にしなければならない」
「誇り?」
「ええ」
ルビーは、淡々と説明する。
「正式な称号を与えます」
「“王宮政策メンター”」
ざわ、と空気が動いた。
「役割は、指導とレビュー」 「権限は、限定的だが明確」 「評価は、昇進と直結させる」
「つまり――」
「教える者が、上位に位置づけられる構造にします」
沈黙の後、誰かが呟いた。
「……それなら、話は別だ」
その夜。
ルビーは、レオニードと向かい合っていた。
「ずいぶん、人心掌握に踏み込んだな」 「制度だけでは、限界がありますもの」
「君は、操っている自覚はあるか?」 「いいえ」
彼女は、首を振った。
「理解しようとしているだけです」
「組織は、生き物です」 「押せば反発するし、
無視すれば腐る」
「なら、どうする?」 「対話します」
レオニードは、少しだけ笑った。
「理想主義者だ」 「現実主義者ですわ」
数日後。
新たな任命式が行われた。
選ばれた者たちは、戸惑いながらも、
胸を張っていた。
「教える立場になるとは思わなかった」 「責任は重いが……悪くない」
空気が、わずかに変わる。
(動き始めましたわね)
夜。
ルビーは、静かな執務室で一人考えていた。
(制度は、骨格)
(感情は、血流)
どちらが欠けても、
組織は動かない。
彼女の改革は、
数字と理屈の段階を越え、
人の心へと踏み込み始めていた。
だが――
それは同時に、
より大きな波を呼び寄せることでもあった。
組織が感情を持つなら、
敵意もまた、感情なのだから。
静かな王宮の夜に、
次なる嵐の気配が、確かに忍び寄っていた。
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