婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~

鷹 綾

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第33話 信頼の重さを測る日

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第33話 信頼の重さを測る日

 定期説明会の初日。
 王宮内の中会議室は、珍しく満席だった。

 

「……ここまで集まるとは」

 補佐官が、少し驚いた声で言う。

「ええ」

 ルビー・エルヴェールは、静かに周囲を見渡した。

 

 前列には、上位評価者。
 中ほどに、中堅官僚。
 後方には、地方配属前の若手たち。

 

(全員が、“聞く側”として座っている)

 

 これは、改革が初めて
 一方向ではなくなった瞬間だった。

 

「本日は、制度の説明ではありません」

 ルビーは、開口一番、そう告げた。

「質問に答える場です」

 

 ざわ、と小さな動き。

 

「匿名で構いません。
 不安、疑問、不満――すべて受け取ります」

 

 しばしの沈黙の後、
 一枚目の質問票が読み上げられた。

 

> 『最終的に、評価制度は昇進選別の道具になるのですか?』



 

 空気が、少し張り詰める。

 

「答えは、“はい”です」

 ルビーは、迷わず言った。

 

 どよめき。

 

「ただし」

 

「唯一の道具にはしません」

 

「判断力、協調性、育成能力、
 それぞれ異なる評価軸を用います」

 

「一つの物差しで、人を測るつもりはありません」

 

 次の質問。

> 『顧問殿は、いつまで責任を負うのですか?』



 

 一瞬、静まり返る。

 

(核心ですわね)

 

「私は、永遠にはいません」

 

 はっきりと、そう言った。

 

「この制度は、
 “私がいなくても回る形”にするためのものです」

 

「もし、私がいなくなった瞬間に壊れるなら――」

 

「それは、最初から失敗です」

 

 誰かが、小さく頷いた。

 

 質問は、続いた。

 

> 『なぜ、そこまで透明性にこだわるのですか?』



 

 ルビーは、少しだけ考えてから答えた。

「透明性は、正義ではありません」

 

「ですが」

 

「信頼を測る、唯一の方法です」

 

「信頼は、数字にできません」 「でも、隠した瞬間に壊れます」

 

 会場は、静かだった。

 

 説明会の終盤。

 最後の質問が読み上げられる。

 

> 『私たちは、顧問殿を信じていいのですか?』



 

 一瞬、時間が止まったようだった。

 

 ルビーは、視線を上げる。

 逃げずに、正面から。

 

「……疑ってください」

 

 どよめき。

 

「疑い、質問し、
 それでも納得できた時にだけ、信じてください」

 

「無条件の信頼は、
 いずれ裏切りに変わります」

 

「だから私は、
 疑われ続ける場所に立ちます」

 

 説明会が終わった後。

 誰も、すぐには立ち上がらなかった。

 

 やがて、ぽつりと拍手が起こる。
 一人、また一人。

 

 派手ではない。
 だが、確かな音だった。

 

 夜。

 ルビーは、執務室で一人、報告を読んでいた。

 説明会後の意見。

 批判もある。
 厳しい指摘もある。

 

(それでいい)

 

 信頼とは、
 好意の総量ではない。

 

 問い続ける関係のことだ。

 

 彼女は、窓の外を見た。

 王宮の灯りは、まだ消えていない。

 

 明日も、疑われる。
 問いを向けられる。
 責任を問われる。

 

 だが、それこそが――
 信頼の重さだ。

 

 ルビー・エルヴェールは、その重さを引き受ける覚悟で、
 今日も王宮の中心に立っていた。

 そして次に問われるのは、
 制度ではなく、人そのもの。

 誰が、この信頼に応えるのか――
 物語は、次の段階へと進もうとしていた。
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