婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~

鷹 綾

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第34話 信頼が試される瞬間

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第34話 信頼が試される瞬間

 説明会から三日後。

 王宮は、表向きは落ち着いていた。
 だが、ルビー・エルヴェールは感じていた。

(……来ますわね)

 

「顧問殿、緊急の報告です」

 執務室に駆け込んできた補佐官の声は、わずかに硬い。

「西部交易管理局で、内部告発がありました」 「内容は?」

 

「上位評価者の一人が、
 “教育名目”で部下の判断を事実上差し替えていた、と」

 

 ルビーは、ゆっくりと書類を受け取った。

(ついに出ましたわね……)

 

 それは、これまで築いてきた制度の中で、
 最も恐れていた事態だった。

 

 ――信頼を与えた者が、
 その信頼を、都合よく使った可能性。

 

 午後、緊急会合が開かれた。

「これは、制度の欠陥だ!」

 即座に声が上がる。

「上位評価者に権限を与えすぎた」 「だから言ったのだ、改革は拙速だと!」

 

 視線が、一斉にルビーへ向く。

 

「……顧問殿」

 王太子レオニードが、静かに問う。

「どう対処する?」

 

 ルビーは、少しだけ目を閉じ、
 そして、はっきりと答えた。

「調査します」

 

「処分は?」 「調査の後です」

 

「だが、噂は広がっている」 「承知していますわ」

 

「それでも、即断はしません」

 

 ざわめきが起きる。

 

「なぜだ?」

 

 ルビーは、会議室を見渡した。

「これは、“信頼が裏切られた事件”ではありません」

 

「信頼が、試されている事件です」

 

 沈黙。

 

「ここで感情的に罰すれば、
 誰も、次に手を挙げなくなります」

 

「ですが、
 見逃せば、制度は壊れる」

 

「だから――」

 

 彼女は、静かに言った。

「過程を、すべて公開します」

 

 空気が、凍りついた。

 

「調査内容、判断基準、結論。
 すべてを、王宮内に共有します」

 

「誰であっても、
 立場に関係なく」

 

 会議室が、ざわつく。

「前例がない!」 「危険すぎる!」

 

「ええ」

 ルビーは、頷いた。

「だからこそ、やります」

 

 その夜。

 王宮内に、異例の通達が出された。

> 『西部交易管理局における判断介入疑惑について
現在、正式調査を開始しています。
本件は、結果だけでなく、調査過程を含めて公開されます』



 

 反応は、即座だった。

「……本当に公開するのか?」 「誰の首が飛ぶんだ?」

 

 だが同時に――

 

「隠さない、ということか」 「少なくとも、誤魔化しはできない」

 

 空気が、張り詰める。

 

 夜遅く。

 ルビーは、執務室で一人、灯りを落としていた。

(信頼は、便利な言葉ですわ)

 掲げれば、人は従う。
 だが――

(最も壊れやすい)

 

 今回の件で、
 自分の判断が問われる。

 制度も。
 理念も。

 

 そして――
 彼女自身の覚悟も。

 

 ルビー・エルヴェールは、静かに椅子から立ち上がった。

 信頼を語る資格があるかどうか。
 それを決めるのは、言葉ではない。

 

 行動だ。

 

 翌日から始まる公開調査は、
 王宮にとっても、
 彼女自身にとっても――

 引き返せない試練となるだろう。

 だが、ルビーは迷わなかった。

 信頼とは、
 守るものではなく、
 耐えるものなのだから。
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