婚約破棄されたので隣国で働きます ~追放侯爵令嬢、才覚だけで王妃候補に成り上がる~

鷹 綾

文字の大きさ
34 / 40

第33話 信頼の重さを測る日

しおりを挟む
第33話 信頼の重さを測る日

 定期説明会の初日。
 王宮内の中会議室は、珍しく満席だった。

 

「……ここまで集まるとは」

 補佐官が、少し驚いた声で言う。

「ええ」

 ルビー・エルヴェールは、静かに周囲を見渡した。

 

 前列には、上位評価者。
 中ほどに、中堅官僚。
 後方には、地方配属前の若手たち。

 

(全員が、“聞く側”として座っている)

 

 これは、改革が初めて
 一方向ではなくなった瞬間だった。

 

「本日は、制度の説明ではありません」

 ルビーは、開口一番、そう告げた。

「質問に答える場です」

 

 ざわ、と小さな動き。

 

「匿名で構いません。
 不安、疑問、不満――すべて受け取ります」

 

 しばしの沈黙の後、
 一枚目の質問票が読み上げられた。

 

> 『最終的に、評価制度は昇進選別の道具になるのですか?』



 

 空気が、少し張り詰める。

 

「答えは、“はい”です」

 ルビーは、迷わず言った。

 

 どよめき。

 

「ただし」

 

「唯一の道具にはしません」

 

「判断力、協調性、育成能力、
 それぞれ異なる評価軸を用います」

 

「一つの物差しで、人を測るつもりはありません」

 

 次の質問。

> 『顧問殿は、いつまで責任を負うのですか?』



 

 一瞬、静まり返る。

 

(核心ですわね)

 

「私は、永遠にはいません」

 

 はっきりと、そう言った。

 

「この制度は、
 “私がいなくても回る形”にするためのものです」

 

「もし、私がいなくなった瞬間に壊れるなら――」

 

「それは、最初から失敗です」

 

 誰かが、小さく頷いた。

 

 質問は、続いた。

 

> 『なぜ、そこまで透明性にこだわるのですか?』



 

 ルビーは、少しだけ考えてから答えた。

「透明性は、正義ではありません」

 

「ですが」

 

「信頼を測る、唯一の方法です」

 

「信頼は、数字にできません」 「でも、隠した瞬間に壊れます」

 

 会場は、静かだった。

 

 説明会の終盤。

 最後の質問が読み上げられる。

 

> 『私たちは、顧問殿を信じていいのですか?』



 

 一瞬、時間が止まったようだった。

 

 ルビーは、視線を上げる。

 逃げずに、正面から。

 

「……疑ってください」

 

 どよめき。

 

「疑い、質問し、
 それでも納得できた時にだけ、信じてください」

 

「無条件の信頼は、
 いずれ裏切りに変わります」

 

「だから私は、
 疑われ続ける場所に立ちます」

 

 説明会が終わった後。

 誰も、すぐには立ち上がらなかった。

 

 やがて、ぽつりと拍手が起こる。
 一人、また一人。

 

 派手ではない。
 だが、確かな音だった。

 

 夜。

 ルビーは、執務室で一人、報告を読んでいた。

 説明会後の意見。

 批判もある。
 厳しい指摘もある。

 

(それでいい)

 

 信頼とは、
 好意の総量ではない。

 

 問い続ける関係のことだ。

 

 彼女は、窓の外を見た。

 王宮の灯りは、まだ消えていない。

 

 明日も、疑われる。
 問いを向けられる。
 責任を問われる。

 

 だが、それこそが――
 信頼の重さだ。

 

 ルビー・エルヴェールは、その重さを引き受ける覚悟で、
 今日も王宮の中心に立っていた。

 そして次に問われるのは、
 制度ではなく、人そのもの。

 誰が、この信頼に応えるのか――
 物語は、次の段階へと進もうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

婚約者を交換ですか?いいですよ。ただし返品はできませんので悪しからず…

ゆずこしょう
恋愛
「メーティア!私にあなたの婚約者を譲ってちょうだい!!」 国王主催のパーティーの最中、すごい足音で近寄ってきたのはアーテリア・ジュアン侯爵令嬢(20)だ。 皆突然の声に唖然としている。勿論、私もだ。 「アーテリア様には婚約者いらっしゃるじゃないですか…」 20歳を超えて婚約者が居ない方がおかしいものだ… 「ではこうしましょう?私と婚約者を交換してちょうだい!」 「交換ですか…?」 果たしてメーティアはどうするのか…。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

処理中です...