満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』

鷹 綾

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第二十七話 声なき因果

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第二十七話 声なき因果

 王都からの書状は、相変わらず整然としていた。

 封蝋は正確に押され、文面は簡潔で、余計な感情は一切ない。

 ――新王太子、貴族子弟との意見交換会開催。
 ――商会連盟、王家との共同基金設立。
 ――軍需契約、五年延長。

 安定。

 その二文字が、すべてを覆っている。

 事故も急病も、紙面には存在しない。

 アルベルトはゆっくりと書状を閉じた。

「……王都は完全に戻ったな」

「はい」

 辺境伯の声は揺れない。

「秩序は保たれております」

 秩序。

 その言葉は正しい。

 だがアルベルトの胸の奥では、別の感覚が残っている。

 昼。

 辺境の小会議。

 冬期の備蓄について議論が交わされる。

 若い役人が過剰備蓄を提案する。

 村長が費用面で反対する。

 辺境伯が折衷案を示す。

 全員が納得する。

 遅い。

 だが滑らかだ。

 アルベルトはその流れを見ながら、ふと気づく。

 王都で自分が飛ばしたのは、この“間”だった。

 夜。

 暖炉の前。

 目を閉じる。

 暗闇。

 広間。

 整然と上がる手。

 白い衣。

 赤い影。

 笑顔。

「どこまでも私がお供します」

 目を開ける。

 火の粉が弾ける。

 血はない。

 証拠もない。

 だが悪夢は繰り返される。

 最近、夢の中の広間にはもう自分しかいない。

 上がる手は無数だが、声はない。

 白い衣だけが近づいてくる。

 「殿下に従わないものは……」

 そこで目が覚める。

 現実には、誰も殺していない。

 誰も断罪されていない。

 すべては偶然。

 急病。

 転落。

 移転。

 廃嫡。

 合法。

 だが“偶然”が続いた。

 その因果は、証明できない。

 リュシエラが椅子から立ち上がる。

「また夢を」

「……私は何も見ていない」

「その通りですわ」

 微笑む。

「見ていないことを、恐れる必要はございません」

 見ていない。

 だが想像は止まらない。

 隣国。

 エリシアは王都との基金設立に関する書類に署名していた。

「王都は完全に安定軌道へ」

「はい」

 側近が答える。

「旧王子の名は、記録上も削除が進んでおります」

「自然なことです」

 彼女は淡々と答える。

「構造に不要な要素は、残りません」

 感情はない。

 復讐もない。

 ただ合理。

 辺境の深夜。

 アルベルトは雪の積もる庭に立つ。

 白い世界。

 足跡はすぐに消える。

 王都の出来事も、同じように消えていく。

 証拠はない。

 だが疑念は残る。

「私は……因果を恐れているのか」

 呟きは凍る。

 合法であっても、規範を飛ばせば孤立する。

 孤立すれば、噂が生まれる。

 噂は証明できない。

 証明できないものは、永遠に消えない。

 リュシエラが背後に立つ。

「殿下はお疲れです」

「……私は殿下ではない」

 初めて、穏やかに訂正する。

 白い衣が、雪の中で揺れる。

「では、アルベルト様」

 その呼び方が、かえって遠い。

 王都は回る。

 隣国は進む。

 辺境は静まる。

 そして彼の中で、声なき因果だけが残る。

 断罪はなかった。

 処刑もなかった。

 ただ、説明できない恐怖。

 それが彼の中で、静かに育っていた。
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