満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』

鷹 綾

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第二十六話 揺らぐ確信

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第二十六話 揺らぐ確信

 辺境に初雪が降った朝、館の庭は白く静まり返っていた。

 音が吸い込まれるような静けさの中で、アルベルトは窓辺に立ち、凍った地面を見下ろしていた。

 王都からの報告は、相変わらず整っている。

 ――商会連盟、王家との長期協定締結。
 ――新王太子、貴族子弟との懇談会開催。
 ――王都税収、前年同月比上昇。

 数字は安定を示している。

 揺らぎはない。

 問題もない。

 彼が外れたことで、むしろ均衡が強化されたかのようだ。

「……見事だな」

 呟きは小さく、誰にも向けられていない。

 辺境伯が言う。

「王都は秩序を保っております」

「私がいた頃よりもか」

 問いに、伯はわずかに間を置いた。

「秩序の形が変わりました」

 否定ではない。

 肯定でもない。

 だが答えは十分だった。

 昼。

 辺境の小さな会議が開かれる。

 農地の水路再設計について、村長が意見を述べる。

 若い役人が反論する。

 修正が入り、費用の再計算が提示される。

 最終的に、全員が頷く。

 合意。

 その過程に、急な命令はない。

 即断もない。

 予測がある。

 アルベルトは、その流れを黙って見つめる。

 かつては、この遅さを苛立たしく思った。

 だが今は、違う。

 夜。

 暖炉の火が揺れる。

 目を閉じる。

 暗闇。

 広間。

 整然と上がる手。

 白い衣。

 赤い影。

 笑顔。

 「どこまでも私がお供します」

 はっと目を開ける。

 火の粉が弾ける音だけが響く。

 悪夢は鮮明だ。

 だが現実には、血はない。

 急病も事故も、証拠はない。

 すべては偶然。

 だが彼の中で、確信が揺らぎ始めていた。

「私は……何を疑っている」

 声は小さい。

 リュシエラが椅子から立ち上がる。

「疑う必要はございません」

「偶然だと言い切れるか」

「はい」

 迷いなく。

「偶然は、重なることもございます」

 同じ言葉。

 同じ調子。

 優しさの中に、硬さがある。

 アルベルトは初めて、彼女の目をじっと見る。

 そこに狂気はない。

 血もない。

 ただ静かな光。

 疑念は証明できない。

 証明できない疑念は、ただの不安だ。

 だが不安は、確実に根を張る。

 一方、隣国。

 エリシアは港湾視察を終え、冬季対策の報告を受けていた。

「王都の商会復帰は順調です」

「良いことです」

 彼女は淡々と答える。

「安定は双方の利益になります」

 彼女の世界に、悪夢はない。

 構造は滑らかで、契約は守られている。

 王都との関係は、予測可能だ。

 辺境の深夜。

 アルベルトは庭へ出る。

 雪が静かに降る。

 足跡はすぐに消える。

 王都での決断も、噂も、事故も、すべて白く覆われるかのようだ。

 だが心の中の影は消えない。

 合法だった。

 規範を飛ばした。

 孤立した。

 廃嫡された。

 そして、いま疑念に揺らいでいる。

 断罪はなかった。

 罰もなかった。

 ただ、確信が崩れ始めただけ。

 それが、彼にとって最も重い。

 リュシエラが背後に立つ。

「寒うございます」

「……ああ」

 雪は静かに積もる。

 王都は遠い。

 隣国は進む。

 辺境は白く閉ざされる。

 そしてアルベルトの中で、“自分は間違っていない”という確信だけが、ゆっくりと揺らいでいた。
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