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第三十二話 静かな代替
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第三十二話 静かな代替
王都では、新王太子主催の貴族懇談会が定例化していた。
形式ばった会議ではない。
だが参加者は多い。
若い子弟、老臣、商会の代表、教会関係者。
立場の異なる者が同じ卓につき、意見を述べる。
即断はない。
だが即断しないことが、むしろ信頼を生んでいる。
――殿下は聞いてくださる。
――順番を守られる。
――急がれない。
その評価は、目立たぬまま定着していた。
アルベルトの名は、誰も口にしない。
否定もされない。
称賛もされない。
ただ、代替された。
辺境。
その報告を読み終えたアルベルトは、ふと笑った。
「……代わりはいる、ということか」
辺境伯は答えない。
答える必要がない。
王太子は不可欠ではない。
構造が不可欠なのだ。
昼。
辺境での水利再整備が最終段階を迎える。
農民たちは、完成した堤を静かに見上げる。
歓声は小さい。
だが安堵は確かだ。
アルベルトは、かつて王都で味わった拍手とは異なる感覚を覚える。
これは熱狂ではない。
信頼だ。
夜。
夢は、さらに静かになっていた。
広間。
円卓。
議事録が読み上げられる。
満場一致。
彼の廃嫡が、淡々と記録される。
誰も責めない。
誰も嘲笑しない。
ただ議事が進む。
白い衣の影が、背後に立つ。
笑っている。
血は見えない。
それでも寒い。
「どこまでも私がお供します」
その声は甘い。
だが彼の肩越しに、別の円卓が見える。
そこには彼の席がない。
目が覚める。
汗はない。
ただ静かな空虚。
リュシエラが窓を閉める。
「殿下はまだ王都をご覧になっておりますの?」
「見ていない」
彼は答える。
「王都は、もう私を見ていない」
それが核心だった。
孤立とは、敵がいることではない。
視界から消えることだ。
隣国。
エリシアは新商会規約の改訂に署名する。
「王都との連携は円滑です」
「新王太子は、必ず合意を取ります」
彼女は頷く。
「それが王家の役目です」
婚約破棄も、偽聖女も、いまや政治の外縁。
エリシアの世界は、因果ではなく合理で動く。
辺境の深夜。
アルベルトは庭に出る。
星が近い。
王都は見えない。
だが彼はようやく理解する。
自分が恐れていたのは、彼女の狂気ではない。
王太子という座が、自分でなくても成立する事実だ。
合法だった。
だが規範を飛ばした。
規範を飛ばした者は、規範に代替される。
断罪はない。
罰もない。
ただ、静かに置き換えられる。
それが貴族界のざまあだった。
リュシエラが背後に立つ。
「寒うございます」
「……ああ」
「わたくしは、どこまでもお供いたします」
その言葉は優しい。
だが彼は振り向かない。
王都は彼を必要としない。
隣国も振り返らない。
辺境だけが、彼を受け入れている。
静かな代替。
それが、彼の現在だった。
王都では、新王太子主催の貴族懇談会が定例化していた。
形式ばった会議ではない。
だが参加者は多い。
若い子弟、老臣、商会の代表、教会関係者。
立場の異なる者が同じ卓につき、意見を述べる。
即断はない。
だが即断しないことが、むしろ信頼を生んでいる。
――殿下は聞いてくださる。
――順番を守られる。
――急がれない。
その評価は、目立たぬまま定着していた。
アルベルトの名は、誰も口にしない。
否定もされない。
称賛もされない。
ただ、代替された。
辺境。
その報告を読み終えたアルベルトは、ふと笑った。
「……代わりはいる、ということか」
辺境伯は答えない。
答える必要がない。
王太子は不可欠ではない。
構造が不可欠なのだ。
昼。
辺境での水利再整備が最終段階を迎える。
農民たちは、完成した堤を静かに見上げる。
歓声は小さい。
だが安堵は確かだ。
アルベルトは、かつて王都で味わった拍手とは異なる感覚を覚える。
これは熱狂ではない。
信頼だ。
夜。
夢は、さらに静かになっていた。
広間。
円卓。
議事録が読み上げられる。
満場一致。
彼の廃嫡が、淡々と記録される。
誰も責めない。
誰も嘲笑しない。
ただ議事が進む。
白い衣の影が、背後に立つ。
笑っている。
血は見えない。
それでも寒い。
「どこまでも私がお供します」
その声は甘い。
だが彼の肩越しに、別の円卓が見える。
そこには彼の席がない。
目が覚める。
汗はない。
ただ静かな空虚。
リュシエラが窓を閉める。
「殿下はまだ王都をご覧になっておりますの?」
「見ていない」
彼は答える。
「王都は、もう私を見ていない」
それが核心だった。
孤立とは、敵がいることではない。
視界から消えることだ。
隣国。
エリシアは新商会規約の改訂に署名する。
「王都との連携は円滑です」
「新王太子は、必ず合意を取ります」
彼女は頷く。
「それが王家の役目です」
婚約破棄も、偽聖女も、いまや政治の外縁。
エリシアの世界は、因果ではなく合理で動く。
辺境の深夜。
アルベルトは庭に出る。
星が近い。
王都は見えない。
だが彼はようやく理解する。
自分が恐れていたのは、彼女の狂気ではない。
王太子という座が、自分でなくても成立する事実だ。
合法だった。
だが規範を飛ばした。
規範を飛ばした者は、規範に代替される。
断罪はない。
罰もない。
ただ、静かに置き換えられる。
それが貴族界のざまあだった。
リュシエラが背後に立つ。
「寒うございます」
「……ああ」
「わたくしは、どこまでもお供いたします」
その言葉は優しい。
だが彼は振り向かない。
王都は彼を必要としない。
隣国も振り返らない。
辺境だけが、彼を受け入れている。
静かな代替。
それが、彼の現在だった。
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