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第三十三話 構造の外側
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第三十三話 構造の外側
王都では、王家主導の新たな規範文書が公布された。
名目は「貴族間調整指針の明文化」。
これまで暗黙の了解で動いていた順序や手続きが、形式として整理される。
合意形成の段階。
評議の回数。
異議申し立ての期限。
どれも常識だった。
だが“常識”を明文化するということは、過去の揺らぎを記録することでもある。
誰の名も記されない。
しかし、必要があったからこそ整備された。
アルベルトは、その写しを机に置いたまま動かない。
「……なるほど」
かつて自分が飛ばした順序が、条文になっている。
合法ではあった。
だが規範ではなかった。
規範を飛ばせば、次に来るのは整備だ。
彼個人への処罰はない。
だが“再発防止”は徹底される。
それが王都のやり方。
昼。
辺境では、新規入植者の受け入れ審査が行われていた。
家族構成。
技術。
資金。
一つずつ確認し、許可が出る。
急がない。
だが確実だ。
アルベルトはその様子を見ながら、ふと口にする。
「構造とは、恐ろしいな」
辺境伯は穏やかに答える。
「個人に依存しないことが、強さです」
夜。
夢は、さらに変質していた。
広間。
円卓。
議事録。
彼の名が読み上げられる。
“規範逸脱事例”。
断罪ではない。
ただ事例。
白い衣の影が、背後で微笑む。
血はない。
だが彼の足元が崩れる。
「どこまでも私がお供します」
その声は甘い。
だが彼の肩越しに、条文が積み重なる。
自分を前提としない未来。
目が覚める。
胸の奥が冷たい。
リュシエラが静かに近づく。
「また、王都を」
「違う」
彼は首を振る。
「私は、外にいるだけだ」
それが正確だった。
追放ではない。
幽閉でもない。
ただ、構造の外側。
隣国。
エリシアは王都との合同基金報告会を終えていた。
「新指針は合理的です」
「安定がさらに強化されます」
彼女は頷く。
「個人に依存しない体制が最も安全です」
婚約破棄も、偽聖女も、すでに議題に上がらない。
王太子は変わった。
構造は残った。
それだけだ。
辺境の夜。
アルベルトは庭に立つ。
風が強い。
雲が速く流れる。
彼はようやく理解する。
自分のざまあは、恐怖でも狂気でもない。
“不要”という事実だ。
貴族全会で誰も手を挙げなかった。
いや、正確には――
新王太子のために、全員が手を挙げた。
満場一致。
その瞬間、彼は構造の外へ押し出された。
断罪はなかった。
血もなかった。
だが未来から削除された。
リュシエラが背後に立つ。
「寒うございます」
「……ああ」
「わたくしは、どこまでも」
彼は振り向かない。
「必要なのは、私ではない」
その言葉は、初めての完全な理解だった。
王都は安定している。
隣国は発展している。
構造は強化された。
そして彼だけが、その外側で夜風に立っていた。
王都では、王家主導の新たな規範文書が公布された。
名目は「貴族間調整指針の明文化」。
これまで暗黙の了解で動いていた順序や手続きが、形式として整理される。
合意形成の段階。
評議の回数。
異議申し立ての期限。
どれも常識だった。
だが“常識”を明文化するということは、過去の揺らぎを記録することでもある。
誰の名も記されない。
しかし、必要があったからこそ整備された。
アルベルトは、その写しを机に置いたまま動かない。
「……なるほど」
かつて自分が飛ばした順序が、条文になっている。
合法ではあった。
だが規範ではなかった。
規範を飛ばせば、次に来るのは整備だ。
彼個人への処罰はない。
だが“再発防止”は徹底される。
それが王都のやり方。
昼。
辺境では、新規入植者の受け入れ審査が行われていた。
家族構成。
技術。
資金。
一つずつ確認し、許可が出る。
急がない。
だが確実だ。
アルベルトはその様子を見ながら、ふと口にする。
「構造とは、恐ろしいな」
辺境伯は穏やかに答える。
「個人に依存しないことが、強さです」
夜。
夢は、さらに変質していた。
広間。
円卓。
議事録。
彼の名が読み上げられる。
“規範逸脱事例”。
断罪ではない。
ただ事例。
白い衣の影が、背後で微笑む。
血はない。
だが彼の足元が崩れる。
「どこまでも私がお供します」
その声は甘い。
だが彼の肩越しに、条文が積み重なる。
自分を前提としない未来。
目が覚める。
胸の奥が冷たい。
リュシエラが静かに近づく。
「また、王都を」
「違う」
彼は首を振る。
「私は、外にいるだけだ」
それが正確だった。
追放ではない。
幽閉でもない。
ただ、構造の外側。
隣国。
エリシアは王都との合同基金報告会を終えていた。
「新指針は合理的です」
「安定がさらに強化されます」
彼女は頷く。
「個人に依存しない体制が最も安全です」
婚約破棄も、偽聖女も、すでに議題に上がらない。
王太子は変わった。
構造は残った。
それだけだ。
辺境の夜。
アルベルトは庭に立つ。
風が強い。
雲が速く流れる。
彼はようやく理解する。
自分のざまあは、恐怖でも狂気でもない。
“不要”という事実だ。
貴族全会で誰も手を挙げなかった。
いや、正確には――
新王太子のために、全員が手を挙げた。
満場一致。
その瞬間、彼は構造の外へ押し出された。
断罪はなかった。
血もなかった。
だが未来から削除された。
リュシエラが背後に立つ。
「寒うございます」
「……ああ」
「わたくしは、どこまでも」
彼は振り向かない。
「必要なのは、私ではない」
その言葉は、初めての完全な理解だった。
王都は安定している。
隣国は発展している。
構造は強化された。
そして彼だけが、その外側で夜風に立っていた。
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