満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』

鷹 綾

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第三十四話 消去法の王

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第三十四話 消去法の王

 王都では、新王太子の支持率を問う声は、もはや存在しなかった。

 支持を“問う”必要がないからだ。

 議案は通る。
 異論は出るが、最終的には合意が形成される。
 貴族全会は滞りなく進行し、商会は契約を更新し、教会も沈黙を守る。

 熱狂はない。

 だが反発もない。

 それが最強の安定だった。

 アルベルトは報告書を読みながら、ふと理解する。

「……彼は選ばれたのではないな」

 辺境伯が視線を上げる。

「はい?」

「消去されたのは、私だ」

 静かな言葉だった。

 新王太子が圧倒的だったわけではない。

 彼が“問題を起こさない”ことが評価されたのだ。

 順序を守る。
 確認を取る。
 急がない。

 それだけで十分だった。

 かつてアルベルトは、正しさを急いだ。

 合法であれば進めるべきだと考えた。

 だが貴族界は、正しさよりも合意を優先する。

 順番を飛ばした瞬間、信任は崩れる。

 崩れた信任は、回復しない。

 昼。

 辺境の兵站整備が完了する。

 若い騎士が報告を上げる。

 「備蓄、規定量に到達しました」

 「よろしい」

 短い応答。

 派手さはない。

 だが確実。

 アルベルトは気づく。

 ここでは、彼は急がない。

 急ぐ必要がない。

 夜。

 夢は、さらに静かだった。

 広間。

 円卓。

 議事録。

 彼の名が読み上げられる。

 “廃嫡決議”。

 誰も怒鳴らない。

 誰も嘲笑しない。

 ただ全員が手を挙げる。

 白い衣の影が微笑む。

 血はない。

 だが彼の席が消える。

 「どこまでも私がお供します」

 その声は甘い。

 だが振り返ると、そこには誰もいない。

 目が覚める。

 汗はない。

 ただ、冷たい理解。

 リュシエラが灯りを落とす。

「また王都を」

「違う」

 彼は首を振る。

「私は、自分を見ている」

 恐れていたのは彼女ではない。

 王太子という座が、自分でなくても成立する事実。

 そしてそれを、全員が受け入れた事実。

 隣国。

 エリシアは王都との長期教育協定に署名する。

「新王太子は、安定を選びます」

「それが最も合理的です」

 彼女は頷く。

「消去法でも、選ばれた者が王です」

 その言葉に感情はない。

 構造の説明にすぎない。

 辺境の夜。

 アルベルトは庭に立つ。

 風は穏やかだ。

 星は遠い。

 彼はようやく理解する。

 自分は敗北したのではない。

 選択肢から外れただけだ。

 消去法で残らなかった。

 それが彼のざまあだった。

 断罪も処刑もない。

 血もない。

 ただ、不要と判断された。

 リュシエラが背後に立つ。

「寒うございます」

「……ああ」

「わたくしは、どこまでも」

 彼は振り向かない。

「私は、もう中心ではない」

 その言葉に、初めて痛みがなかった。

 王都は安定している。

 隣国は発展している。

 新王太子は問題を起こさない。

 そして彼は、消去法の外側で静かに夜を見上げていた。
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