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第三十五話 語られない終幕
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第三十五話 語られない終幕
王都では、春の最終評議が滞りなく閉会した。
議題は多岐にわたったが、混乱はなかった。
財政、教育、通商、軍備。
いずれも予定通りに進み、異論は記録され、修正は反映された。
最後に、新王太子が短く述べる。
「皆の合意に感謝する」
拍手は控えめだが確実だった。
その光景は、特別ではない。
だからこそ強い。
アルベルトはその報告を読んで、しばらく沈黙した。
「……終わったな」
辺境伯は何も言わない。
終わったのは、王都の混乱ではない。
彼の物語だ。
彼の名は議事録に出ない。
批判も、擁護もない。
まるで存在しなかったかのように、王都は回っている。
昼。
辺境では、初夏の植え付けが始まる。
農民たちは忙しく、誰も王都の噂を口にしない。
彼は領主として、必要な判断を下す。
急がず、飛ばさず、順番を守る。
かつては苛立った手順が、いまは自然に思える。
夜。
夢は、ついに形を失った。
広間はある。
円卓もある。
だが彼の姿は映らない。
白い衣の影だけが遠くに立ち、微笑む。
血はない。
声もない。
「どこまでも私がお供します」
その言葉だけが残響のように響き、やがて消える。
目が覚める。
静かな夜。
胸は重くない。
恐怖は薄れている。
リュシエラが窓を閉める。
「悪夢は、終わりましたか」
「……わからない」
彼は小さく息を吐く。
「だが、意味は理解した」
恐れていたのは彼女ではない。
王都でもない。
自分が“必要とされなかった”という現実だ。
合法だった。
だが順序を飛ばした。
順序を飛ばした者は、順序に代替される。
断罪も処刑もない。
ただ、語られなくなる。
それが最も静かな終幕だった。
隣国。
エリシアは新港湾都市の第二期工事を視察する。
「王都は安定しております」
「長期計画に支障はありません」
彼女は頷く。
「それで十分です」
婚約破棄も、偽聖女も、すでに歴史の一行。
彼女の人生は、合理の上を進む。
辺境の深夜。
アルベルトは庭に出る。
風はやわらかい。
星は遠い。
王都は見えない。
だが、もう見ようとも思わない。
彼は理解している。
自分のざまあは、罰ではない。
“語られないこと”。
中心から外れ、記録から薄れ、未来の前提から消える。
それが貴族界の裁きだ。
リュシエラが背後に立つ。
「寒うございます」
「……いや」
彼は空を見上げる。
「もう寒くない」
王都は安定している。
隣国は発展している。
構造は完成した。
そして彼は、語られない終幕の中で、静かに呼吸を続けていた。
王都では、春の最終評議が滞りなく閉会した。
議題は多岐にわたったが、混乱はなかった。
財政、教育、通商、軍備。
いずれも予定通りに進み、異論は記録され、修正は反映された。
最後に、新王太子が短く述べる。
「皆の合意に感謝する」
拍手は控えめだが確実だった。
その光景は、特別ではない。
だからこそ強い。
アルベルトはその報告を読んで、しばらく沈黙した。
「……終わったな」
辺境伯は何も言わない。
終わったのは、王都の混乱ではない。
彼の物語だ。
彼の名は議事録に出ない。
批判も、擁護もない。
まるで存在しなかったかのように、王都は回っている。
昼。
辺境では、初夏の植え付けが始まる。
農民たちは忙しく、誰も王都の噂を口にしない。
彼は領主として、必要な判断を下す。
急がず、飛ばさず、順番を守る。
かつては苛立った手順が、いまは自然に思える。
夜。
夢は、ついに形を失った。
広間はある。
円卓もある。
だが彼の姿は映らない。
白い衣の影だけが遠くに立ち、微笑む。
血はない。
声もない。
「どこまでも私がお供します」
その言葉だけが残響のように響き、やがて消える。
目が覚める。
静かな夜。
胸は重くない。
恐怖は薄れている。
リュシエラが窓を閉める。
「悪夢は、終わりましたか」
「……わからない」
彼は小さく息を吐く。
「だが、意味は理解した」
恐れていたのは彼女ではない。
王都でもない。
自分が“必要とされなかった”という現実だ。
合法だった。
だが順序を飛ばした。
順序を飛ばした者は、順序に代替される。
断罪も処刑もない。
ただ、語られなくなる。
それが最も静かな終幕だった。
隣国。
エリシアは新港湾都市の第二期工事を視察する。
「王都は安定しております」
「長期計画に支障はありません」
彼女は頷く。
「それで十分です」
婚約破棄も、偽聖女も、すでに歴史の一行。
彼女の人生は、合理の上を進む。
辺境の深夜。
アルベルトは庭に出る。
風はやわらかい。
星は遠い。
王都は見えない。
だが、もう見ようとも思わない。
彼は理解している。
自分のざまあは、罰ではない。
“語られないこと”。
中心から外れ、記録から薄れ、未来の前提から消える。
それが貴族界の裁きだ。
リュシエラが背後に立つ。
「寒うございます」
「……いや」
彼は空を見上げる。
「もう寒くない」
王都は安定している。
隣国は発展している。
構造は完成した。
そして彼は、語られない終幕の中で、静かに呼吸を続けていた。
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