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第三十一話 満場一致の余白
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第三十一話 満場一致の余白
王都では、春の社交季が始まっていた。
舞踏会、演奏会、慈善晩餐会。
名目は華やかだが、その裏で行われるのは調整と確認だ。
誰がどこに立ち、誰がどの家と組み、どの基金にいくら出すか。
言葉にしなくても、視線の流れでわかる。
――新王太子殿下は、堅実なお方。
――前例を守られる。
――安心できる。
その評価は、静かに、だが確実に広がっていた。
アルベルトの名は出ない。
出る必要がない。
彼はすでに「前例」ではなく、「過去」だからだ。
辺境。
その報告を読み終えたアルベルトは、紙を机に置いた。
「……見事だな」
感情は薄い。
羨望でも、怒りでもない。
ただ、理解。
王太子の座とは、才能の座ではない。
信任の座だ。
満場一致で支えられる場所。
かつて自分は、正しさを優先した。
合意を後回しにした。
合法であれば進めるべきだと考えた。
だが貴族界の規範は、合法よりも“順序”を重んじる。
順序を飛ばした瞬間、信任は揺らぐ。
揺らいだ信任は、戻らない。
昼。
辺境の評議。
税率調整の議論が続く。
若い役人が数字を提示する。
老臣が慎重論を述べる。
反論が出る。
再計算が行われる。
最終的に、全員が頷く。
時間はかかる。
だが納得は残る。
アルベルトはその光景を眺めながら、ふと気づく。
王都で自分が失ったのは、この“余白”だった。
夜。
夢は、形を変えていた。
広間。
整然と上がる手。
満場一致。
だが今回は、彼の名を否定するための挙手だ。
誰も怒鳴らない。
誰も侮辱しない。
ただ静かに手が上がる。
白い衣の影が微笑む。
血はない。
それでも冷たい。
「どこまでも私がお供します」
その声が、議決の鐘の音に重なる。
目が覚める。
汗はかいていない。
だが胸が重い。
リュシエラが灯りを整える。
「また夢を」
「……夢だ」
「現実ではございません」
「だが、原因は現実だ」
初めて、はっきりと言葉にする。
彼女は一瞬だけ視線を落とし、すぐに微笑んだ。
「殿下は、真面目すぎるのです」
「殿下ではない」
穏やかな訂正。
その言葉に、もはや痛みはない。
隣国。
エリシアは教育基金の最終承認を終えていた。
「王都との協調は問題ありません」
「新王太子は順序を守ります」
彼女は頷く。
「それが最も重要です」
婚約破棄の余波は、すでに消えている。
感情ではなく、構造が残った。
辺境の夜。
アルベルトは庭に立つ。
月が高い。
空気は澄んでいる。
彼はようやく理解する。
自分が恐れていたのは、偽聖女でも、噂でもない。
“孤独”だ。
貴族全会で、誰も手を挙げなかった瞬間。
いや、正確には――
誰も自分のために手を挙げなかった瞬間。
満場一致の決議。
その余白に、自分はいなかった。
それが、彼の因果応報だった。
断罪も処刑もない。
ただ、支えが消えただけ。
王都は安定している。
隣国は発展している。
辺境は静かだ。
そして彼は、満場一致の余白に取り残されたまま、夜空を見上げていた。
王都では、春の社交季が始まっていた。
舞踏会、演奏会、慈善晩餐会。
名目は華やかだが、その裏で行われるのは調整と確認だ。
誰がどこに立ち、誰がどの家と組み、どの基金にいくら出すか。
言葉にしなくても、視線の流れでわかる。
――新王太子殿下は、堅実なお方。
――前例を守られる。
――安心できる。
その評価は、静かに、だが確実に広がっていた。
アルベルトの名は出ない。
出る必要がない。
彼はすでに「前例」ではなく、「過去」だからだ。
辺境。
その報告を読み終えたアルベルトは、紙を机に置いた。
「……見事だな」
感情は薄い。
羨望でも、怒りでもない。
ただ、理解。
王太子の座とは、才能の座ではない。
信任の座だ。
満場一致で支えられる場所。
かつて自分は、正しさを優先した。
合意を後回しにした。
合法であれば進めるべきだと考えた。
だが貴族界の規範は、合法よりも“順序”を重んじる。
順序を飛ばした瞬間、信任は揺らぐ。
揺らいだ信任は、戻らない。
昼。
辺境の評議。
税率調整の議論が続く。
若い役人が数字を提示する。
老臣が慎重論を述べる。
反論が出る。
再計算が行われる。
最終的に、全員が頷く。
時間はかかる。
だが納得は残る。
アルベルトはその光景を眺めながら、ふと気づく。
王都で自分が失ったのは、この“余白”だった。
夜。
夢は、形を変えていた。
広間。
整然と上がる手。
満場一致。
だが今回は、彼の名を否定するための挙手だ。
誰も怒鳴らない。
誰も侮辱しない。
ただ静かに手が上がる。
白い衣の影が微笑む。
血はない。
それでも冷たい。
「どこまでも私がお供します」
その声が、議決の鐘の音に重なる。
目が覚める。
汗はかいていない。
だが胸が重い。
リュシエラが灯りを整える。
「また夢を」
「……夢だ」
「現実ではございません」
「だが、原因は現実だ」
初めて、はっきりと言葉にする。
彼女は一瞬だけ視線を落とし、すぐに微笑んだ。
「殿下は、真面目すぎるのです」
「殿下ではない」
穏やかな訂正。
その言葉に、もはや痛みはない。
隣国。
エリシアは教育基金の最終承認を終えていた。
「王都との協調は問題ありません」
「新王太子は順序を守ります」
彼女は頷く。
「それが最も重要です」
婚約破棄の余波は、すでに消えている。
感情ではなく、構造が残った。
辺境の夜。
アルベルトは庭に立つ。
月が高い。
空気は澄んでいる。
彼はようやく理解する。
自分が恐れていたのは、偽聖女でも、噂でもない。
“孤独”だ。
貴族全会で、誰も手を挙げなかった瞬間。
いや、正確には――
誰も自分のために手を挙げなかった瞬間。
満場一致の決議。
その余白に、自分はいなかった。
それが、彼の因果応報だった。
断罪も処刑もない。
ただ、支えが消えただけ。
王都は安定している。
隣国は発展している。
辺境は静かだ。
そして彼は、満場一致の余白に取り残されたまま、夜空を見上げていた。
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