「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

第7話 呪いの連鎖 〜王都の危機と、皇太子の決意〜

 第7話　呪いの連鎖　～王都の危機と、皇太子の決意～

ルミナス領の朝霧が、薄く立ち込める中、アリシアは村の外れにある古い泉に向かっていた。  
シルヴァン・レイヴンが訪れてから、数日が経った。  
彼の陣営は村の近くに残り、騎士たちは静かに見守っている。  
アリシアは、シルヴァンの言葉を思い出しながら歩いた。  
「お前を一番傷つけた男は、俺が殺す」  
冷徹な皇太子の瞳に宿った熱い感情が、胸に残っていた。

泉の周囲は、紫色の霧が一番濃く残る場所だった。  
アリシアは膝をつき、手を水面に翳した。  
銀色の光が広がり、霧を吸い込んでいく。  
しかし、今回はいつもより抵抗が強い。  
水面が震え、黒い影のようなものが浮かび上がった。

「これは……『連鎖の呪い』？」

呪いが、他の呪いを呼び寄せる強力なもの。  
王都の魔物被害と繋がっている可能性がある。  
アリシアは、深く息を吸い、力を集中した。  
光が爆発的に広がり、影を飲み込む。  
泉の水が澄み渡り、周囲の草木が一気に緑を取り戻した。

「これで……このエリアは安全ね」

村に戻ると、広場は賑わっていた。  
近隣の集落から、さらに多くの人々が助けを求めて来ていた。  
ガレンが、アリシアを迎えた。

「アリシア様、泉の呪いを解かれたのですね。  
村人たちの顔が、明るくなっています」

アリシアは頷いた。

「ええ。でも、王都の影響がここまで来ているわ。  
呪いが連鎖している……」

その時、シルヴァンが馬を引いて現れた。  
彼はアリシアの前に立ち、静かに言った。

「俺の斥候から報告があった。  
王都近郊の魔物が、急激に増加している。  
フィオナの癒しが、完全に効かなくなったらしい」

アリシアの表情が、わずかに曇った。

「ヴァレンティン様は……？」

シルヴァンは、冷たく笑った。

「王太子は、プライドで認めないだろう。  
だが、国民の不満は爆発寸前だ。  
お前の噂が、王都でも広がっている」

アリシアは、静かに目を伏せた。

「私を、助けに来てほしいと……思う人がいるの？」

シルヴァンは、首を振った。

「思う人はいる。  
だが、王太子は認めない。  
だからこそ、俺はここにいる」

彼は、アリシアの手にそっと触れた。  
その手は、冷たく、しかし優しかった。

「俺の国に来い、アリシア。  
そこでなら、お前の力を最大限に活かせる。  
俺が、お前を守る」

アリシアは、手を引いて微笑んだ。

「ありがとう。でも、今はこの領地を優先したいの。  
みんなが笑顔になるまで」

シルヴァンの瞳が、わずかに暗くなった。  
だが、彼は頷いた。

「わかった。  
俺は待つ。  
お前の決断を、尊重する」

夕方、アリシアは礼拝堂に戻り、静かに座った。  
ガレンが、そっと近づいた。

「アリシア様……シルヴァン様の言葉、気になりますか？」

アリシアは、優しく言った。

「少しね。  
でも、私はここが好き。  
みんなと一緒に、生きていくのが」

ガレンは、拳を握った。

「私も、ここにいます。  
アリシア様を守ります」

その夜、王都の王宮は騒然としていた。  
魔物が城壁を越え、街に侵入した。  
市民の悲鳴が響き、衛兵たちが慌てて戦っていた。

ヴァレンティン王太子は、謁見の間に立ち、苛立っていた。  
フィオナが、青ざめて跪いている。

「ヴァレンティン様……私の力が、もう限界です。  
呪いが、私自身に跳ね返って……」

ヴァレンティンは、拳を玉座に叩きつけた。

「なぜだ！　お前は本物の聖女のはずだ！」

フィオナは、涙を流しながら言った。

「アリシア様の呪いのせいですわ……  
彼女が、遠くから連鎖の呪いをかけているのです」

ヴァレンティンの表情が、凍りついた。

「アリシア……」

心の奥で、何かが崩壊し始めていた。  
プライドが、初めて揺らぐ。  
しかし、彼はまだ認めなかった。

「使者を送れ。  
アリシア・ルナミアに、助けを求めろ」

フィオナの瞳が、驚きで見開かれた。

「ヴァレンティン様……！」

ヴァレンティンは、目を逸らした。

「これは、国のためだ。  
個人的なものではない」

だが、その言葉は、誰よりも自分自身に言い聞かせるようだった。

ルミナス領の夜空に、星が輝いていた。  
アリシアは、窓から空を見上げ、静かに呟いた。

「いつか……気づいてくれるかしら」