ラノベでリアルに婚約破棄を描いてみたら、王家が傾いた

鷹 綾

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第三十八話 悪女の仮面が剥がれるとき

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第三十八話 悪女の仮面が剥がれるとき

 王都に、
 小さな異変が生じ始めていた。

 ――噂だ。

 だが、噂ほど、
 秩序を侵食するものはない。

「最近、ルクレツィア様を見かけませんわね」

「修道院に寄進を増やしているとか」

「慈善活動に熱心でいらっしゃる、と」

 表向き、
 彼女は“可憐で心優しい男爵令嬢”だった。

 婚約破棄の騒動後、
 王太子の「真実の愛」の相手として名を知られ、
 それでも処刑されることもなく、
 今もなお生きている。

 それ自体が、
 多くの貴族にとって不可解だった。

 ――だが。

 王城の奥、
 記録官の部屋では、
 別の資料が揃い始めていた。

「……一致しています」

 若い官吏が、震える声で告げる。

「寄進金の流れ、
 書簡の文体、
 証言の時期……」

「偶然ではない、と?」

「はい」

 机の上には、
 複数の記録が並べられていた。

 修道院への寄進。
 下位貴族への助言。
 王太子に渡された私信。

 それらはすべて、
 王太子の判断を歪める方向に、
 巧妙に配置されていた。

 宰相は、深く息をつく。

「……愚かな男を、
 さらに愚かに見せるための布石か」

 王太子は、
 自分で選んだつもりだった。

 だが実際は、
 選ばされていた。

 一方、エノー公爵邸。

 イザベルは、
 提出された調査報告を静かに読み終える。

「……随分、
 丁寧に作られた仮面ですこと」

 侍女が問いかける。

「今、動きますか?」

「いいえ」

 イザベルは首を振った。

「彼女は、
 自分が安全圏にいると思っている」

 だからこそ、
 崩れる。

 数日後、
 王都の大聖堂で、
 慈善事業の報告会が開かれた。

 ルクレツィアは、
 清楚な装いで壇上に立つ。

「この国のために、
 わたくしにできることを……」

 拍手。
 称賛。

 その空気が、
 一瞬で変わった。

「質問を」

 低く、よく通る声。

 振り向けば、
 王城の調査官。

「寄進金の一部が、
 別名義で回収されている件について、
 説明を」

 会場が凍りつく。

「……何の、ことでしょう?」

 ルクレツィアは、
 微笑みを保ったまま言う。

 だが、
 次に出された書簡の写しが、
 それを壊した。

「これは、
 あなたの筆跡ですね」

 沈黙。

 誰かが、息を呑む音。

「王太子に渡された助言書簡。
 内容は一貫しています」

 ――婚約は重荷だ。
 ――公爵家は従う存在だ。
 ――真実の愛こそ、王の資質だ。

 会場が、
 ざわめく。

 ルクレツィアの顔から、
 血の気が引いた。

「……違いますわ」

 声が、わずかに震える。

「わたくしは、
 ただ……」

「“導いた”つもりでしたか?」

 調査官の言葉は、冷酷だった。

「結果として、
 国を揺るがしました」

 その場で、
 拘束はされなかった。

 だが、
 全ては記録された。

 イザベルは、報告を受け、
 ただ一言だけ告げる。

「――仮面は、
 外れましたわね」

 悪女は、
 まだ笑っているつもりだろう。

 だが、
 笑顔の裏に隠していたものは、
 すでに光の下に引きずり出されていた。

 裁かれるのは、
 これからだ。

 そして今回は、
 誰も彼女を守らない。
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