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第三十七話 正しさの行き先
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第三十七話 正しさの行き先
静かすぎるほどの安定は、
人の心に、別の不安を生む。
王都では、騒動も陰謀も起きていない。
市場は動き、税は滞らず、裁定は遅れない。
それでも、囁かれる声があった。
「……正しすぎないか?」
それは批判ではない。
戸惑いだった。
これまでの王政は、
もっと分かりやすかった。
声の大きい者が通り、
名のある家が有利を得る。
不公平でも、
それが「貴族社会」だと、
皆が知っていた。
だが今は違う。
理由を示せば、
誰の案件でも同じように扱われる。
それが正しいと分かっていても、
慣れない。
王城の一室で、若い貴族が不満を漏らす。
「努力しても、
特別扱いされないなら、
意味がないのでは?」
それを聞いた官吏は、淡々と返した。
「努力は、
通すためではなく、
通っても崩れないためにするものです」
その言葉に、
誰も反論できなかった。
一方、エノー公爵邸。
イザベルは、各地から届く報告を読み比べていた。
「反発は……想定内ですわね」
侍女が言う。
「正しい仕組みは、
慣れるまで不安を生みます」
「ええ」
イザベルは頷く。
「だから、
正しさだけでは足りません」
必要なのは、
行き先だ。
人は、
「どこへ向かっているのか」が見えなければ、
正しさにすら疲れる。
その頃、修道院。
元王太子は、畑仕事の合間に、
遠く王都の方角を見た。
「……俺が壊したのは、
制度だけじゃない」
信頼。
未来。
愚かさは、
一瞬でそれらを奪う。
王城では、新王が宰相と向かい合っていた。
「反発は、
強くはないが、
広がりつつある」
「抑えますか?」
「いい」
新王は首を振る。
「抑えれば、
形だけ従う」
必要なのは、
理解だ。
そして、理解には、
示すものが要る。
「一つ、
象徴を出そう」
その数日後、
王都で告知がなされた。
――身分に関わらず、
実績ある者を、
新たな職に登用する。
対象となったのは、
下位貴族、平民出身の官吏、
そして――
一切の後ろ盾を持たない者。
推薦状は不要。
名も問わない。
必要なのは、
積み上げた結果だけ。
王都は、ざわめいた。
「本気だ……」
イザベルは、その告知文を読み、静かに息を吐く。
「……行き先を示しましたわね」
正しさは、
止まっていれば、ただの壁。
進む方向を持って、
初めて、
人を連れて行ける。
この国は、
もう戻れない。
名で通す時代にも、
愚かさが許される時代にも。
正しさは、
静かに、
しかし確実に、
次の段階へ進んでいた。
静かすぎるほどの安定は、
人の心に、別の不安を生む。
王都では、騒動も陰謀も起きていない。
市場は動き、税は滞らず、裁定は遅れない。
それでも、囁かれる声があった。
「……正しすぎないか?」
それは批判ではない。
戸惑いだった。
これまでの王政は、
もっと分かりやすかった。
声の大きい者が通り、
名のある家が有利を得る。
不公平でも、
それが「貴族社会」だと、
皆が知っていた。
だが今は違う。
理由を示せば、
誰の案件でも同じように扱われる。
それが正しいと分かっていても、
慣れない。
王城の一室で、若い貴族が不満を漏らす。
「努力しても、
特別扱いされないなら、
意味がないのでは?」
それを聞いた官吏は、淡々と返した。
「努力は、
通すためではなく、
通っても崩れないためにするものです」
その言葉に、
誰も反論できなかった。
一方、エノー公爵邸。
イザベルは、各地から届く報告を読み比べていた。
「反発は……想定内ですわね」
侍女が言う。
「正しい仕組みは、
慣れるまで不安を生みます」
「ええ」
イザベルは頷く。
「だから、
正しさだけでは足りません」
必要なのは、
行き先だ。
人は、
「どこへ向かっているのか」が見えなければ、
正しさにすら疲れる。
その頃、修道院。
元王太子は、畑仕事の合間に、
遠く王都の方角を見た。
「……俺が壊したのは、
制度だけじゃない」
信頼。
未来。
愚かさは、
一瞬でそれらを奪う。
王城では、新王が宰相と向かい合っていた。
「反発は、
強くはないが、
広がりつつある」
「抑えますか?」
「いい」
新王は首を振る。
「抑えれば、
形だけ従う」
必要なのは、
理解だ。
そして、理解には、
示すものが要る。
「一つ、
象徴を出そう」
その数日後、
王都で告知がなされた。
――身分に関わらず、
実績ある者を、
新たな職に登用する。
対象となったのは、
下位貴族、平民出身の官吏、
そして――
一切の後ろ盾を持たない者。
推薦状は不要。
名も問わない。
必要なのは、
積み上げた結果だけ。
王都は、ざわめいた。
「本気だ……」
イザベルは、その告知文を読み、静かに息を吐く。
「……行き先を示しましたわね」
正しさは、
止まっていれば、ただの壁。
進む方向を持って、
初めて、
人を連れて行ける。
この国は、
もう戻れない。
名で通す時代にも、
愚かさが許される時代にも。
正しさは、
静かに、
しかし確実に、
次の段階へ進んでいた。
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