エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾

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第12話 面倒ごとが来るなら、来ないようにすればいいですわね

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第12話 面倒ごとが来るなら、来ないようにすればいいですわね

 朝。

 エオリア・フロステリアは、ベッドの中でゆっくりと身を伸ばした。

「……今日は、少し湿度が高いですわね」

 そう呟くと同時に、屋敷全体のエアコン魔法が微調整される。
 数秒後、空気は“ちょうどいい”に落ち着いた。

 それで満足。
 彼女にとって重要なのは、朝の第一印象が不快でないこと。それだけだった。

 



 

 朝食後。

 ソファに座り、チョコレートを一粒口に入れる。

「……問題なし」

 今日の出来も、合格。
 ならば、あとは特にやることはない。

 ――はずだった。

 



 

「お嬢様」

 控えめな声で、エレナが近づいてくる。

「……何か、面倒な話ですか?」

 即座に察した。

「はい」

「簡潔に、どうぞ」

「王都から、正式な問い合わせが三件。
 魔導省、商業評議会、それから……貴族連盟です」

 エオリアは、目を閉じた。

「……一気に来ましたわね」

 



 

 内容は、どれも似たり寄ったりだった。

・生産量の異常性について
・市場への影響について
・管理責任について
・将来的な協力要請

「……どれも、聞く価値がありませんわ」

 書類を机に置いたまま、エオリアは一切手を伸ばさなかった。

「無視、というわけには……」

「では、対策ですわね」

 彼女は、淡々と考え始める。

 



 

「問題は、“私が何かしているように見える”ことですわ」

「……はい?」

「働いているように見えるから、期待される。
 影響を与えているように見えるから、責任を押し付けられる」

 紅茶を一口。

「なら――見えなくすればいい」

 



 

 エレナが、少し不安そうに尋ねる。

「……姿を消される、ということですか?」

「そこまではしませんわ。寝床とチョコは、ここにありますもの」

 即答だった。

「ですが、“対応している感”は、徹底的に消します」

 



 

 エオリアは、指を一本立てた。

「第一。問い合わせ窓口を作らない」

「……はい」

「第二。誰からの手紙にも返事を出さない」

「……はい」

「第三。こちらから一切、説明をしない」

 淡々と続く。

「私が黙っている限り、向こうは“何も掴めない”」

 



 

「……ですが、それでは余計に注目されるのでは?」

「短期的には、ええ」

 エオリアは、はっきりと認めた。

「でも、人は“反応がないもの”には、いずれ飽きますわ」

 



 

 午後。

 全自動チョコレート製造魔法は、今日も変わらず稼働している。

 量は、昨日と同じ。
 速度も、同じ。
 精度も、同じ。

 エオリアは、それを見て満足そうに頷いた。

「変えないことが、いちばん楽ですもの」

 



 

 販売時間。

 今日も人は集まったが、いつもと変わらない。

 新しい告知もない。
 説明もない。
 呼びかけもない。

 ただ、いつも通り。

 その“いつも通り”が、逆に奇妙に映り始めていた。

 



 

 夜。

 エオリアは、日課の最後の一粒を口に含む。

「……美味しいですわ」

 それだけで、一日が完結する。

 王都がどう騒ごうと、
 評議会が何を考えようと。

「私の生活には、関係ありません」

 そう、心の中で線を引く。

 



 

 エレナが、控えめに言った。

「……何も返さなくて、本当に大丈夫でしょうか?」

「ええ」

 迷いのない声だった。

「私が何かを“しない”という選択も、立派な意思表示ですわ」

 



 

 ベッドに入る前、エオリアは静かに呟く。

「面倒ごとは、来たから対処するのではありません」

 灯りを落とす。

「来ないようにする。それが、いちばん楽ですわ」

 そのまま目を閉じる。

 働かない。
 応えない。
 説明しない。

 それでも、明日もチョコはできる。
 それで充分だった。

 エオリア・フロステリアは、
 今日も何もしないまま、
 自分の快適だけを守って眠りについた。
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