エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾

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第13話 期待されないようにしているのに、勝手に期待されるのは解せませんわ

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第13話 期待されないようにしているのに、勝手に期待されるのは解せませんわ

 朝。

 エオリア・フロステリアは、珍しく少しだけ眉をひそめて目を覚ました。

「……静かすぎますわね」

 音がない。
 鳥の声も、人の気配も、いつもより遠い。

 嫌な予感がしたわけではない。
 ただ、“予定外”の気配がしただけだ。

 



 

 朝食を終え、紅茶を飲んでいると、エレナが報告に来た。

「お嬢様。今朝は、販売時間前に並ぶ方が……ほとんどいません」

「……それは、いいことですわね」

 即答だった。

「行列は、短いほうがいいですもの」

「……はい。ただ――」

「ただ?」

「代わりに、“見に来ているだけ”の人が増えています」

 



 

 エオリアは、ゆっくりと紅茶を置いた。

「……買わないのに、ですか?」

「はい。
 “今日は何が出るのか”“変わったことはないか”と……」

「……何も変わりませんわ」

 むしろ、変える気がない。

 



 

 窓際に立ち、少しだけ外を眺める。

 確かに、人は少ない。
 だが、その分、視線が増えている。

「……困りましたわね」

 初めて、ほんの少しだけ“困った”という感情が浮かぶ。

 



 

「お嬢様、どうなさいますか?」

「……何もしません」

 少し考えてから、結論は同じだった。

「何もしなければ、期待は裏切れませんもの」

 



 

 昼前。

 全自動チョコレート製造魔法は、今日も一定のリズムで稼働している。

 作る。
 冷やす。
 包む。

 変化はない。

 エオリアは試作品を口に入れ、目を閉じた。

「……昨日と同じ味ですわ」

 満足でも不満でもない。
 “安定”という意味で、合格だった。

 



 

 昼過ぎ。

 屋敷の前で、少しだけざわめきが起きた。

 販売時間にはまだ早い。

「……何事ですの?」

「どうやら、“今日は買わないが、顔を見たい”という方が……」

「……見世物ではありませんわ」

 きっぱりと言い切る。

 



 

 エオリアは、深くため息をついた。

「私が出ないから、様子を見に来る。
 様子を見に来るから、また気にされる」

 悪循環だ。

 



 

「……では、こうしましょう」

 彼女は、淡々と対策を口にした。

「販売開始時刻を、今日から五分だけ遅らせます」

「五分、ですか?」

「ええ。理由はありません」

「……はい?」

「理由があるから、意味を探されるのですわ」

 



 

 エレナは、少し考えてから頷いた。

「……確かに」

 



 

 販売時間。

 予定より五分遅れで、扉が開いた。

 説明も告知もない。

 人々は戸惑いながらも、騒がなかった。

 なぜなら――
 “いつも通り買える”と、もう分かっているからだ。

 



 

 夕方。

 販売は、問題なく終了した。

 特別な反応も、騒ぎもない。

 それでも、“見に来るだけ”の人は、少し減っていた。

 



 

 夜。

 エオリアは、いつものように最後の一粒を口に入れる。

「……美味しいですわ」

 変わらない。

 それが、いちばん重要だった。

 



 

「お嬢様」

 エレナが、控えめに言う。

「皆さん、“何か起こるのでは”と期待しているようです」

「……困りますわね」

 エオリアは、真顔で答えた。

「私は、何も起こす気がありません」

 



 

 ベッドに入り、灯りを落とす前に、彼女は静かに呟いた。

「期待されないようにしているのに、
 勝手に期待されるのは――本当に、解せませんわ」

 それでも、考えるのはそこまで。

 明日も、同じ味。
 同じ量。
 同じ生活。

 変わらないことこそが、
 彼女にとっての“正解”だった。

 エオリア・フロステリアは、
 今日も何もしないまま、
 余計な期待を置き去りにして、眠りについた。
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