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第12話 面倒ごとが来るなら、来ないようにすればいいですわね
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第12話 面倒ごとが来るなら、来ないようにすればいいですわね
朝。
エオリア・フロステリアは、ベッドの中でゆっくりと身を伸ばした。
「……今日は、少し湿度が高いですわね」
そう呟くと同時に、屋敷全体のエアコン魔法が微調整される。
数秒後、空気は“ちょうどいい”に落ち着いた。
それで満足。
彼女にとって重要なのは、朝の第一印象が不快でないこと。それだけだった。
◆
朝食後。
ソファに座り、チョコレートを一粒口に入れる。
「……問題なし」
今日の出来も、合格。
ならば、あとは特にやることはない。
――はずだった。
◆
「お嬢様」
控えめな声で、エレナが近づいてくる。
「……何か、面倒な話ですか?」
即座に察した。
「はい」
「簡潔に、どうぞ」
「王都から、正式な問い合わせが三件。
魔導省、商業評議会、それから……貴族連盟です」
エオリアは、目を閉じた。
「……一気に来ましたわね」
◆
内容は、どれも似たり寄ったりだった。
・生産量の異常性について
・市場への影響について
・管理責任について
・将来的な協力要請
「……どれも、聞く価値がありませんわ」
書類を机に置いたまま、エオリアは一切手を伸ばさなかった。
「無視、というわけには……」
「では、対策ですわね」
彼女は、淡々と考え始める。
◆
「問題は、“私が何かしているように見える”ことですわ」
「……はい?」
「働いているように見えるから、期待される。
影響を与えているように見えるから、責任を押し付けられる」
紅茶を一口。
「なら――見えなくすればいい」
◆
エレナが、少し不安そうに尋ねる。
「……姿を消される、ということですか?」
「そこまではしませんわ。寝床とチョコは、ここにありますもの」
即答だった。
「ですが、“対応している感”は、徹底的に消します」
◆
エオリアは、指を一本立てた。
「第一。問い合わせ窓口を作らない」
「……はい」
「第二。誰からの手紙にも返事を出さない」
「……はい」
「第三。こちらから一切、説明をしない」
淡々と続く。
「私が黙っている限り、向こうは“何も掴めない”」
◆
「……ですが、それでは余計に注目されるのでは?」
「短期的には、ええ」
エオリアは、はっきりと認めた。
「でも、人は“反応がないもの”には、いずれ飽きますわ」
◆
午後。
全自動チョコレート製造魔法は、今日も変わらず稼働している。
量は、昨日と同じ。
速度も、同じ。
精度も、同じ。
エオリアは、それを見て満足そうに頷いた。
「変えないことが、いちばん楽ですもの」
◆
販売時間。
今日も人は集まったが、いつもと変わらない。
新しい告知もない。
説明もない。
呼びかけもない。
ただ、いつも通り。
その“いつも通り”が、逆に奇妙に映り始めていた。
◆
夜。
エオリアは、日課の最後の一粒を口に含む。
「……美味しいですわ」
それだけで、一日が完結する。
王都がどう騒ごうと、
評議会が何を考えようと。
「私の生活には、関係ありません」
そう、心の中で線を引く。
◆
エレナが、控えめに言った。
「……何も返さなくて、本当に大丈夫でしょうか?」
「ええ」
迷いのない声だった。
「私が何かを“しない”という選択も、立派な意思表示ですわ」
◆
ベッドに入る前、エオリアは静かに呟く。
「面倒ごとは、来たから対処するのではありません」
灯りを落とす。
「来ないようにする。それが、いちばん楽ですわ」
そのまま目を閉じる。
働かない。
応えない。
説明しない。
それでも、明日もチョコはできる。
それで充分だった。
エオリア・フロステリアは、
今日も何もしないまま、
自分の快適だけを守って眠りについた。
朝。
エオリア・フロステリアは、ベッドの中でゆっくりと身を伸ばした。
「……今日は、少し湿度が高いですわね」
そう呟くと同時に、屋敷全体のエアコン魔法が微調整される。
数秒後、空気は“ちょうどいい”に落ち着いた。
それで満足。
彼女にとって重要なのは、朝の第一印象が不快でないこと。それだけだった。
◆
朝食後。
ソファに座り、チョコレートを一粒口に入れる。
「……問題なし」
今日の出来も、合格。
ならば、あとは特にやることはない。
――はずだった。
◆
「お嬢様」
控えめな声で、エレナが近づいてくる。
「……何か、面倒な話ですか?」
即座に察した。
「はい」
「簡潔に、どうぞ」
「王都から、正式な問い合わせが三件。
魔導省、商業評議会、それから……貴族連盟です」
エオリアは、目を閉じた。
「……一気に来ましたわね」
◆
内容は、どれも似たり寄ったりだった。
・生産量の異常性について
・市場への影響について
・管理責任について
・将来的な協力要請
「……どれも、聞く価値がありませんわ」
書類を机に置いたまま、エオリアは一切手を伸ばさなかった。
「無視、というわけには……」
「では、対策ですわね」
彼女は、淡々と考え始める。
◆
「問題は、“私が何かしているように見える”ことですわ」
「……はい?」
「働いているように見えるから、期待される。
影響を与えているように見えるから、責任を押し付けられる」
紅茶を一口。
「なら――見えなくすればいい」
◆
エレナが、少し不安そうに尋ねる。
「……姿を消される、ということですか?」
「そこまではしませんわ。寝床とチョコは、ここにありますもの」
即答だった。
「ですが、“対応している感”は、徹底的に消します」
◆
エオリアは、指を一本立てた。
「第一。問い合わせ窓口を作らない」
「……はい」
「第二。誰からの手紙にも返事を出さない」
「……はい」
「第三。こちらから一切、説明をしない」
淡々と続く。
「私が黙っている限り、向こうは“何も掴めない”」
◆
「……ですが、それでは余計に注目されるのでは?」
「短期的には、ええ」
エオリアは、はっきりと認めた。
「でも、人は“反応がないもの”には、いずれ飽きますわ」
◆
午後。
全自動チョコレート製造魔法は、今日も変わらず稼働している。
量は、昨日と同じ。
速度も、同じ。
精度も、同じ。
エオリアは、それを見て満足そうに頷いた。
「変えないことが、いちばん楽ですもの」
◆
販売時間。
今日も人は集まったが、いつもと変わらない。
新しい告知もない。
説明もない。
呼びかけもない。
ただ、いつも通り。
その“いつも通り”が、逆に奇妙に映り始めていた。
◆
夜。
エオリアは、日課の最後の一粒を口に含む。
「……美味しいですわ」
それだけで、一日が完結する。
王都がどう騒ごうと、
評議会が何を考えようと。
「私の生活には、関係ありません」
そう、心の中で線を引く。
◆
エレナが、控えめに言った。
「……何も返さなくて、本当に大丈夫でしょうか?」
「ええ」
迷いのない声だった。
「私が何かを“しない”という選択も、立派な意思表示ですわ」
◆
ベッドに入る前、エオリアは静かに呟く。
「面倒ごとは、来たから対処するのではありません」
灯りを落とす。
「来ないようにする。それが、いちばん楽ですわ」
そのまま目を閉じる。
働かない。
応えない。
説明しない。
それでも、明日もチョコはできる。
それで充分だった。
エオリア・フロステリアは、
今日も何もしないまま、
自分の快適だけを守って眠りについた。
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