エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾

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第11話 何も広める気はありませんが、勝手に広がるようですわね

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第11話 何も広める気はありませんが、勝手に広がるようですわね

 朝。

 エオリア・フロステリアは、いつも通りの時間に目を覚ました。
 正確には――自分が「起きたい」と思った時間である。

「……よく寝ましたわ」

 それだけで、今日も合格。
 世間がどう動こうと、彼女の一日はこの一言で決まる。

 寝室を出ると、屋敷の中は完璧な環境だった。
 温度、湿度、空気の流れ――すべてが“不快にならない範囲”に収まっている。

「外は今日も暑いそうです」

 エレナが淡々と報告する。

「でしょうね。……出ませんわよ?」

「承知しています」

 



 

 午前。

 全自動チョコレート製造魔法は、今日も黙々と稼働していた。

 作る。
 冷やす。
 包む。

 同じ工程を、延々と。

 エオリアはソファに座り、試作品をひとつ口に運ぶ。

「……あら、今日はいいですわ」

 昨日調整した苦味が、ちょうど良い。
 舌が満足すれば、それで十分だった。

 結果として、また大量に出来上がるのだが――
 それは、あくまで副産物である。

 



 

 昼前。

 エレナが、少しだけ言いにくそうに報告してきた。

「お嬢様……最近、“ファーレ式”という言葉が広まっているようで……」

「……何ですの、それ」

「購入制限を設けず、毎日同量を淡々と販売する方式のことを、そう呼んでいるそうです」

 エオリアは、はっきりと嫌そうな顔をした。

「名前を付けないでくださいな」

「皆さん、参考にしたいと……」

「参考にされても困りますわ」

 溜息ひとつ。

「私、何かを広めるつもりは一切ありません」

 



 

 さらに、エレナは続ける。

「他領の商人や菓子職人が、“見学したい”と……」

「断って」

「すでに断っています」

「よろしいですわ」

 エオリアは紅茶を一口飲み、冷静に言った。

「私のやり方は、真似する価値がありませんもの」

「……そうでしょうか」

「ええ。だって――」

 指先でチョコをつまみ、淡々と告げる。

「私は、利益も、評判も、将来性も考えていません」

「……」

「“自分が美味しいと思うものを、自分のために作る”。それだけです」

 



 

 午後。

 今日の販売準備が進む。

 販売は一日一回。
 時間は固定。
 購入は一人一回。量は自由。
 説明なし。質問対応なし。

 すでに、買う側もそれを理解していた。

「買えなくても、明日でいい」

 そんな空気が、自然と出来上がっている。

 エオリアは、その様子を窓越しにちらりと見ただけで、興味を失った。

「……行列が短いのは、良いことですわ」

「揉め事もありません」

「それなら、問題なしです」

 



 

 夕方。

 屋敷に、一通の手紙が届いた。

 王都の貴族夫人からだった。

『あなたのチョコのおかげで、毎日が少し楽しみになりました』

「……」

 エオリアは、一瞬だけ手紙を見つめ、そして机に置いた。

「感想は、不要ですわ」

 冷たいわけではない。
 ただ、必要がないのだ。

 



 

 夜。

 エオリアは今日最後のチョコをゆっくり味わう。

「……うん。今日は、合格」

 それだけで、満足だった。

 外でどれほど評判になろうと、
 どれほど“流行”と呼ばれようと。

「私は、何も広めていません」

 そう、静かに結論づける。

 ――ただ、自分のために作っているだけ。

 それが勝手に広がるのなら、
 それは、世界の都合というものだ。

 エオリア・フロステリアは、
 今日も何もしないまま、
 自分の甘さだけを守って眠りについた。
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