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第11話 何も広める気はありませんが、勝手に広がるようですわね
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第11話 何も広める気はありませんが、勝手に広がるようですわね
朝。
エオリア・フロステリアは、いつも通りの時間に目を覚ました。
正確には――自分が「起きたい」と思った時間である。
「……よく寝ましたわ」
それだけで、今日も合格。
世間がどう動こうと、彼女の一日はこの一言で決まる。
寝室を出ると、屋敷の中は完璧な環境だった。
温度、湿度、空気の流れ――すべてが“不快にならない範囲”に収まっている。
「外は今日も暑いそうです」
エレナが淡々と報告する。
「でしょうね。……出ませんわよ?」
「承知しています」
◆
午前。
全自動チョコレート製造魔法は、今日も黙々と稼働していた。
作る。
冷やす。
包む。
同じ工程を、延々と。
エオリアはソファに座り、試作品をひとつ口に運ぶ。
「……あら、今日はいいですわ」
昨日調整した苦味が、ちょうど良い。
舌が満足すれば、それで十分だった。
結果として、また大量に出来上がるのだが――
それは、あくまで副産物である。
◆
昼前。
エレナが、少しだけ言いにくそうに報告してきた。
「お嬢様……最近、“ファーレ式”という言葉が広まっているようで……」
「……何ですの、それ」
「購入制限を設けず、毎日同量を淡々と販売する方式のことを、そう呼んでいるそうです」
エオリアは、はっきりと嫌そうな顔をした。
「名前を付けないでくださいな」
「皆さん、参考にしたいと……」
「参考にされても困りますわ」
溜息ひとつ。
「私、何かを広めるつもりは一切ありません」
◆
さらに、エレナは続ける。
「他領の商人や菓子職人が、“見学したい”と……」
「断って」
「すでに断っています」
「よろしいですわ」
エオリアは紅茶を一口飲み、冷静に言った。
「私のやり方は、真似する価値がありませんもの」
「……そうでしょうか」
「ええ。だって――」
指先でチョコをつまみ、淡々と告げる。
「私は、利益も、評判も、将来性も考えていません」
「……」
「“自分が美味しいと思うものを、自分のために作る”。それだけです」
◆
午後。
今日の販売準備が進む。
販売は一日一回。
時間は固定。
購入は一人一回。量は自由。
説明なし。質問対応なし。
すでに、買う側もそれを理解していた。
「買えなくても、明日でいい」
そんな空気が、自然と出来上がっている。
エオリアは、その様子を窓越しにちらりと見ただけで、興味を失った。
「……行列が短いのは、良いことですわ」
「揉め事もありません」
「それなら、問題なしです」
◆
夕方。
屋敷に、一通の手紙が届いた。
王都の貴族夫人からだった。
『あなたのチョコのおかげで、毎日が少し楽しみになりました』
「……」
エオリアは、一瞬だけ手紙を見つめ、そして机に置いた。
「感想は、不要ですわ」
冷たいわけではない。
ただ、必要がないのだ。
◆
夜。
エオリアは今日最後のチョコをゆっくり味わう。
「……うん。今日は、合格」
それだけで、満足だった。
外でどれほど評判になろうと、
どれほど“流行”と呼ばれようと。
「私は、何も広めていません」
そう、静かに結論づける。
――ただ、自分のために作っているだけ。
それが勝手に広がるのなら、
それは、世界の都合というものだ。
エオリア・フロステリアは、
今日も何もしないまま、
自分の甘さだけを守って眠りについた。
朝。
エオリア・フロステリアは、いつも通りの時間に目を覚ました。
正確には――自分が「起きたい」と思った時間である。
「……よく寝ましたわ」
それだけで、今日も合格。
世間がどう動こうと、彼女の一日はこの一言で決まる。
寝室を出ると、屋敷の中は完璧な環境だった。
温度、湿度、空気の流れ――すべてが“不快にならない範囲”に収まっている。
「外は今日も暑いそうです」
エレナが淡々と報告する。
「でしょうね。……出ませんわよ?」
「承知しています」
◆
午前。
全自動チョコレート製造魔法は、今日も黙々と稼働していた。
作る。
冷やす。
包む。
同じ工程を、延々と。
エオリアはソファに座り、試作品をひとつ口に運ぶ。
「……あら、今日はいいですわ」
昨日調整した苦味が、ちょうど良い。
舌が満足すれば、それで十分だった。
結果として、また大量に出来上がるのだが――
それは、あくまで副産物である。
◆
昼前。
エレナが、少しだけ言いにくそうに報告してきた。
「お嬢様……最近、“ファーレ式”という言葉が広まっているようで……」
「……何ですの、それ」
「購入制限を設けず、毎日同量を淡々と販売する方式のことを、そう呼んでいるそうです」
エオリアは、はっきりと嫌そうな顔をした。
「名前を付けないでくださいな」
「皆さん、参考にしたいと……」
「参考にされても困りますわ」
溜息ひとつ。
「私、何かを広めるつもりは一切ありません」
◆
さらに、エレナは続ける。
「他領の商人や菓子職人が、“見学したい”と……」
「断って」
「すでに断っています」
「よろしいですわ」
エオリアは紅茶を一口飲み、冷静に言った。
「私のやり方は、真似する価値がありませんもの」
「……そうでしょうか」
「ええ。だって――」
指先でチョコをつまみ、淡々と告げる。
「私は、利益も、評判も、将来性も考えていません」
「……」
「“自分が美味しいと思うものを、自分のために作る”。それだけです」
◆
午後。
今日の販売準備が進む。
販売は一日一回。
時間は固定。
購入は一人一回。量は自由。
説明なし。質問対応なし。
すでに、買う側もそれを理解していた。
「買えなくても、明日でいい」
そんな空気が、自然と出来上がっている。
エオリアは、その様子を窓越しにちらりと見ただけで、興味を失った。
「……行列が短いのは、良いことですわ」
「揉め事もありません」
「それなら、問題なしです」
◆
夕方。
屋敷に、一通の手紙が届いた。
王都の貴族夫人からだった。
『あなたのチョコのおかげで、毎日が少し楽しみになりました』
「……」
エオリアは、一瞬だけ手紙を見つめ、そして机に置いた。
「感想は、不要ですわ」
冷たいわけではない。
ただ、必要がないのだ。
◆
夜。
エオリアは今日最後のチョコをゆっくり味わう。
「……うん。今日は、合格」
それだけで、満足だった。
外でどれほど評判になろうと、
どれほど“流行”と呼ばれようと。
「私は、何も広めていません」
そう、静かに結論づける。
――ただ、自分のために作っているだけ。
それが勝手に広がるのなら、
それは、世界の都合というものだ。
エオリア・フロステリアは、
今日も何もしないまま、
自分の甘さだけを守って眠りについた。
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