エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾

文字の大きさ
24 / 40

第24話 朝が早い? それだけで却下ですわ

しおりを挟む
第24話 朝が早い? それだけで却下ですわ

 翌朝。

 ――正確には、まだ“朝”と呼ぶには早すぎる時間。

 

「……静かですわね」

 エオリア・フロステリアは、ベッドの中でそう呟き、もう一度目を閉じた。
 カーテンの隙間から差し込む光は弱く、空気もまだ夜の名残を引きずっている。

 完璧だ。

 この時間帯に起きる理由は、ひとつもない。

 



 

 だが。

 

「お嬢様……」

 エレナの声が、遠慮がちに響いた。

 

「……何ですの」

 布団から出る気配は、まったくない。

 

「王都から、再び使者が……」

 



 

 エオリアは、ぴたりと動きを止めた。

「……昨日、全部断ったはずですわよね?」

「はい。ですが……今度は“直接のお話だけでも”と」

 



 

 返事は、即座だった。

「却下です」

 



 

「理由は?」

「朝が早いです」

 



 

 それ以上でも、それ以下でもない。

 



 

 結局、使者は応接間に通された。
 エオリアは来ない。

 代わりに、エレナが形式的に対応する。

 



 

「魔法省からの正式な打診です」

「“国家的技術としての保護”と、“相応の地位と報酬”を――」

 



 

 エレナは、淡々と聞きながら、心の中で思った。

(……これは、完全に地雷ですね)

 



 

 なぜなら。

 “国家的”
 “正式”
 “地位”

 ――これらはすべて、エオリアが嫌う言葉だ。

 



 

「さらに、定期的な報告義務と――」

「朝の会議は何時からですの?」

 



 

 扉の向こうから、エオリアの声がした。

 起きてはいる。
 出てくる気はない。

 



 

「え……あ、通常は日の出前に……」

 



 

 その瞬間。

 

「無理ですわね」

 



 

 あまりにも即断。

 



 

「日の出前は、睡眠時間です」

「睡眠を削る制度は、長続きしません」

 



 

 使者は慌てて言葉を重ねる。

「で、ですが……国としては――」

「国の都合は、わたくしの生活と関係ありません」

 



 

 冷静で、淡々としていて、まったく容赦がない。

 



 

「わたくしは、研究者ではありません」

「官僚でもありません」

「ただ、美味しいものを食べたいだけの人間です」

 



 

「それを阻害する条件がある時点で、成立しません」

 



 

 完全論破だった。

 



 

 使者が引き下がった後。

 エレナは、そっとため息をついた。

 

「……本当に、すべて断ってしまわれましたね」

「断る理由は、十分ありますわ」

 



 

「朝が早い」

「移動がある」

「説明が必要」

「報告書を書く」

 



 

 エオリアは、指折り数える。

「全部、面倒です」

 



 

 昼前。

 ようやく彼女は起き上がり、工房へ向かった。

 



 

 全自動チョコレート製造魔法は、今日も問題なく稼働している。

 彼女が寝ている間にも、
 彼女が目覚める前にも、
 一定の速度で、一定量が生産されていた。

 



 

「……もう、こんなに」

 



 

 出来上がったチョコを一つ手に取り、口にする。

 

「……問題ありませんわ」

 



 

 それがすべてだ。

 



 

 国家が欲しがろうと。
 研究者が価値を見出そうと。
 制度に組み込もうと。

 



 

 彼女にとって重要なのは、

 ・朝、ゆっくり眠れること
 ・暑い中、動かなくていいこと
 ・好きなときに、美味しいものを食べられること

 



 

 それ以外は、すべて優先度が低い。

 



 

「……また余りましたわね」

 

 出来上がった箱を見て、エオリアはそう呟いた。

 

「まぁ……今日も、いつも通りで」

 



 

 魔法省の打診は、静かに却下された。

 だがその一方で、
 王都ではまた一つ、噂が膨らんでいく。

 



 

 ――“断った理由が、朝が早いから”。

 



 

 だが本人は、そんなことなど気にも留めていなかった。

 

 彼女は今日も、
 自分の生活を最優先に、
 淡々とチョコを味わっている。

 

 それで、すべてがうまく回っているのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ
恋愛
婚約破棄―― それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。 けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。 「……では、私は日常に戻ります」 派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。 彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。 王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。 誰かが声高に称えられることもなく、 誰かが悪役として裁かれることもない。 それでも―― 混乱は起きず、争いは減り、 人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。 選ばない勇気。 変えない決断。 名を残さず、英雄にならない覚悟。 これは、 婚約破棄をきっかけに 静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、 その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。 派手ではない。 けれど、確かに強い。 ――それでも、日常は続く。

処理中です...