エアコン魔法、全自動チョコレート製造魔法、魔法の無駄遣い? ――快適な生活のために、全部必要ですわ

鷹 綾

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第25話 勝手に名付けないでくださいませ

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第25話 勝手に名付けないでくださいませ

 午後。

 エオリア・フロステリアは、テラスの長椅子で横になり、半分だけ溶けたチョコレートをゆっくり舐めていた。
 冷却魔法で温度は一定。陽射しはあるが、不快ではない。

「……ちょうどいいですわね」

 それだけで、満足だった。

 



 

 だが――満足は、外から勝手に乱される。

 

「お嬢様……少し、よろしいでしょうか」

 エレナが、困ったような顔でやってくる。

 

「要件は三行以内でお願いします」

「……王都の話です」

「二行目で、もう面倒ですわね」

 



 

「例の視察団が戻ったあと……」

「はい」

「“スイーツ療法”という言葉が、広まり始めています」

 



 

 エオリアは、ぴたりと動きを止めた。

 

「……今、なんと?」

「“スイーツ療法”です」

 



 

 一拍。

 

「却下です」

 



 

「勝手に名前を付けないでくださいませ」

 



 

 声は静かだが、拒否は明確だった。

 

「わたくしは、治療をしていません」

「癒やしてもいません」

「甘いものを、食べているだけです」

 



 

 エレナは、慎重に言葉を選ぶ。

「ですが……視察団の方々が、“心が軽くなった”“不眠が改善した”などと……」

「知りませんわ」

 



 

 即答。

 

「それは、たまたまです」

「チョコを食べて、気分が良くなるのは普通のことです」

「それを“療法”と呼ぶなら、昼寝も療法ですわね」

 



 

 エレナは、思わず口をつぐんだ。

(……論破が早い)

 



 

「第一、治療などと言われると――」

 エオリアは、扇子で口元を隠す。

 

「責任が発生します」

 



 

 その一言が、すべてだった。

 

「効いた、効かない」

「続けろ、やめるな」

「効果を証明しろ」

 



 

「全部、面倒です」

 



 

 彼女は、もう一口チョコを口に入れる。

 

「わたくしは、好きなものを、好きなときに食べたいだけ」

「それ以上の意味を付与されると、生活の邪魔です」

 



 

 その日の夕方。

 王都では、すでに“スイーツ療法”という言葉が、学者や貴族の間で飛び交っていた。

 



 

 ・食後の満足感
 ・精神の安定
・集中力の向上

 



 

 もっともらしい言葉が並び、
 論文の題名案まで出始めている。

 



 

 だが。

 

 ファーレ領の屋敷では――

 



 

「……また余りましたわね」

 

 工房を覗いたエオリアが、淡々と呟いた。

 



 

 全自動チョコレート製造魔法は、今日も正確だった。

 彼女が寝ている間も、
 視察団が議論している間も、
 勝手な名前が付けられている間も。

 



 

 一定量を、黙々と生産している。

 



 

「療法だの、研究だの……」

 

 エオリアは、箱をひとつ持ち上げる。

 

「そんなものより――」

 



 

 彼女は、テラスに戻り、椅子に腰掛けた。

 

「今日のおやつが美味しいかどうか」

 



 

 それだけが、重要だった。

 



 

 王都でどんな名前が付けられようと、
 どんな評価が生まれようと。

 



 

 エオリア・フロステリアは、何も変えない。

 



 

「……冷めないうちに、もう一ついただきましょう」

 

 そう呟いて、彼女はまた、チョコに手を伸ばした。

 

 ――“スイーツ療法”などという言葉が、
 本人の耳に正式に届くことは、
 最後までなかった。
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