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第24話 朝が早い? それだけで却下ですわ
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第24話 朝が早い? それだけで却下ですわ
翌朝。
――正確には、まだ“朝”と呼ぶには早すぎる時間。
「……静かですわね」
エオリア・フロステリアは、ベッドの中でそう呟き、もう一度目を閉じた。
カーテンの隙間から差し込む光は弱く、空気もまだ夜の名残を引きずっている。
完璧だ。
この時間帯に起きる理由は、ひとつもない。
◆
だが。
「お嬢様……」
エレナの声が、遠慮がちに響いた。
「……何ですの」
布団から出る気配は、まったくない。
「王都から、再び使者が……」
◆
エオリアは、ぴたりと動きを止めた。
「……昨日、全部断ったはずですわよね?」
「はい。ですが……今度は“直接のお話だけでも”と」
◆
返事は、即座だった。
「却下です」
◆
「理由は?」
「朝が早いです」
◆
それ以上でも、それ以下でもない。
◆
結局、使者は応接間に通された。
エオリアは来ない。
代わりに、エレナが形式的に対応する。
◆
「魔法省からの正式な打診です」
「“国家的技術としての保護”と、“相応の地位と報酬”を――」
◆
エレナは、淡々と聞きながら、心の中で思った。
(……これは、完全に地雷ですね)
◆
なぜなら。
“国家的”
“正式”
“地位”
――これらはすべて、エオリアが嫌う言葉だ。
◆
「さらに、定期的な報告義務と――」
「朝の会議は何時からですの?」
◆
扉の向こうから、エオリアの声がした。
起きてはいる。
出てくる気はない。
◆
「え……あ、通常は日の出前に……」
◆
その瞬間。
「無理ですわね」
◆
あまりにも即断。
◆
「日の出前は、睡眠時間です」
「睡眠を削る制度は、長続きしません」
◆
使者は慌てて言葉を重ねる。
「で、ですが……国としては――」
「国の都合は、わたくしの生活と関係ありません」
◆
冷静で、淡々としていて、まったく容赦がない。
◆
「わたくしは、研究者ではありません」
「官僚でもありません」
「ただ、美味しいものを食べたいだけの人間です」
◆
「それを阻害する条件がある時点で、成立しません」
◆
完全論破だった。
◆
使者が引き下がった後。
エレナは、そっとため息をついた。
「……本当に、すべて断ってしまわれましたね」
「断る理由は、十分ありますわ」
◆
「朝が早い」
「移動がある」
「説明が必要」
「報告書を書く」
◆
エオリアは、指折り数える。
「全部、面倒です」
◆
昼前。
ようやく彼女は起き上がり、工房へ向かった。
◆
全自動チョコレート製造魔法は、今日も問題なく稼働している。
彼女が寝ている間にも、
彼女が目覚める前にも、
一定の速度で、一定量が生産されていた。
◆
「……もう、こんなに」
◆
出来上がったチョコを一つ手に取り、口にする。
「……問題ありませんわ」
◆
それがすべてだ。
◆
国家が欲しがろうと。
研究者が価値を見出そうと。
制度に組み込もうと。
◆
彼女にとって重要なのは、
・朝、ゆっくり眠れること
・暑い中、動かなくていいこと
・好きなときに、美味しいものを食べられること
◆
それ以外は、すべて優先度が低い。
◆
「……また余りましたわね」
出来上がった箱を見て、エオリアはそう呟いた。
「まぁ……今日も、いつも通りで」
◆
魔法省の打診は、静かに却下された。
だがその一方で、
王都ではまた一つ、噂が膨らんでいく。
◆
――“断った理由が、朝が早いから”。
◆
だが本人は、そんなことなど気にも留めていなかった。
彼女は今日も、
自分の生活を最優先に、
淡々とチョコを味わっている。
それで、すべてがうまく回っているのだから。
翌朝。
――正確には、まだ“朝”と呼ぶには早すぎる時間。
「……静かですわね」
エオリア・フロステリアは、ベッドの中でそう呟き、もう一度目を閉じた。
カーテンの隙間から差し込む光は弱く、空気もまだ夜の名残を引きずっている。
完璧だ。
この時間帯に起きる理由は、ひとつもない。
◆
だが。
「お嬢様……」
エレナの声が、遠慮がちに響いた。
「……何ですの」
布団から出る気配は、まったくない。
「王都から、再び使者が……」
◆
エオリアは、ぴたりと動きを止めた。
「……昨日、全部断ったはずですわよね?」
「はい。ですが……今度は“直接のお話だけでも”と」
◆
返事は、即座だった。
「却下です」
◆
「理由は?」
「朝が早いです」
◆
それ以上でも、それ以下でもない。
◆
結局、使者は応接間に通された。
エオリアは来ない。
代わりに、エレナが形式的に対応する。
◆
「魔法省からの正式な打診です」
「“国家的技術としての保護”と、“相応の地位と報酬”を――」
◆
エレナは、淡々と聞きながら、心の中で思った。
(……これは、完全に地雷ですね)
◆
なぜなら。
“国家的”
“正式”
“地位”
――これらはすべて、エオリアが嫌う言葉だ。
◆
「さらに、定期的な報告義務と――」
「朝の会議は何時からですの?」
◆
扉の向こうから、エオリアの声がした。
起きてはいる。
出てくる気はない。
◆
「え……あ、通常は日の出前に……」
◆
その瞬間。
「無理ですわね」
◆
あまりにも即断。
◆
「日の出前は、睡眠時間です」
「睡眠を削る制度は、長続きしません」
◆
使者は慌てて言葉を重ねる。
「で、ですが……国としては――」
「国の都合は、わたくしの生活と関係ありません」
◆
冷静で、淡々としていて、まったく容赦がない。
◆
「わたくしは、研究者ではありません」
「官僚でもありません」
「ただ、美味しいものを食べたいだけの人間です」
◆
「それを阻害する条件がある時点で、成立しません」
◆
完全論破だった。
◆
使者が引き下がった後。
エレナは、そっとため息をついた。
「……本当に、すべて断ってしまわれましたね」
「断る理由は、十分ありますわ」
◆
「朝が早い」
「移動がある」
「説明が必要」
「報告書を書く」
◆
エオリアは、指折り数える。
「全部、面倒です」
◆
昼前。
ようやく彼女は起き上がり、工房へ向かった。
◆
全自動チョコレート製造魔法は、今日も問題なく稼働している。
彼女が寝ている間にも、
彼女が目覚める前にも、
一定の速度で、一定量が生産されていた。
◆
「……もう、こんなに」
◆
出来上がったチョコを一つ手に取り、口にする。
「……問題ありませんわ」
◆
それがすべてだ。
◆
国家が欲しがろうと。
研究者が価値を見出そうと。
制度に組み込もうと。
◆
彼女にとって重要なのは、
・朝、ゆっくり眠れること
・暑い中、動かなくていいこと
・好きなときに、美味しいものを食べられること
◆
それ以外は、すべて優先度が低い。
◆
「……また余りましたわね」
出来上がった箱を見て、エオリアはそう呟いた。
「まぁ……今日も、いつも通りで」
◆
魔法省の打診は、静かに却下された。
だがその一方で、
王都ではまた一つ、噂が膨らんでいく。
◆
――“断った理由が、朝が早いから”。
◆
だが本人は、そんなことなど気にも留めていなかった。
彼女は今日も、
自分の生活を最優先に、
淡々とチョコを味わっている。
それで、すべてがうまく回っているのだから。
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