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第4話: 覚醒の瞬間
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第4話: 覚醒の瞬間
礼拝堂の空気が、重く張り詰めていた。
儀式は最終段階に入っていた。
大司教が聖水の入った銀の器を掲げ、破棄の祈りを終えようとしている。
その聖水を、アプリリアとルキノの間に撒くことで、すべての縁が断たれる。
アプリリアは祭壇の前に立ち、静かに目を閉じていた。
前世の記憶が完全に蘇った今、胸の奥で何かが激しく脈打っているのを感じていた。
――聖女の力。
それは、ただの治癒魔法ではない。
神から与えられた、奇跡の力。
前世では、それが原因で命を落とした。
この世界では、封印されていた。
だが、今――
最大の屈辱と悲しみが、封印を解いた。
大司教が聖水を振り撒こうとしたその瞬間。
突然、礼拝堂の扉が大きく開いた。
「待ってください!」
入ってきたのは、若い騎士だった。
血まみれで、よろよろと歩みを進める。
腕には、重傷を負った同僚の騎士を抱えていた。
「魔物の襲撃です! 王宮近くの街道で……助けてください!」
貴族たちが悲鳴を上げて立ち上がる。
魔物が王都に迫るなど、近年なかったことだ。
ルキノが慌てて声を上げる。
「すぐに騎士団を!」
しかし、傷ついた騎士は首を振った。
「もう……時間がない……このままでは死にます……」
倒れ伏した騎士の傷は深く、血が止まらない。
傍らにいた同僚も、足を折られ動けない。
エテルナが、前に出た。
「私が……私が治します!」
妹は自信満々に手を掲げた。
最近、王宮で披露した「聖女の力」。
微弱ながら、軽い傷なら癒せると噂されていた。
淡い光がエテルナの手から放たれる。
しかし――
「う……ううん……」
光はすぐに消え、傷はほとんど変わらない。
エテルナの顔が青ざめる。
「どうして……いつもは……」
貴族たちがざわつく。
「聖女の力ではなかったのか?」
「偽物だったのでは?」
エテルナが後ずさりする。
ルキノが慌てて妹を庇うが、視線は冷ややかだ。
アプリリアは、静かに一歩前に出た。
「私が、癒します」
その声に、全員が振り返る。
「アプリリア……何を……」
ルキノが戸惑う。
アプリリアは傷ついた騎士たちの前に跪いた。
リオが心配そうに寄り添うが、彼女は優しく首を振った。
――今だ。
心の中で、静かに力を呼びかける。
前世で使いこなした、聖女の力。
この世界で、初めて解放する。
アプリリアが両手を傷ついた騎士の上にかざす。
瞬間――
眩い光が、礼拝堂全体を包んだ。
純白の、柔らかく、しかし圧倒的な光。
ステンドグラスを通した朝陽さえ、霞んで見えるほどの輝き。
「な……何だ、これは……!」
貴族たちが目を覆う。
大司教が、聖典を落として跪いた。
光の中、アプリリアの黒髪が優雅に揺れる。
その瞳は、穏やかで、どこか神聖ですらあった。
光が収まると――
騎士たちの傷が、完全に癒えていた。
深い裂傷は跡形もなく、折れた骨も元通り。
二人は驚愕の表情で、自分の体を見下ろす。
「俺の傷が……消えてる……」
「足が……動く……!」
騎士たちは立ち上がり、アプリリアの前に深く頭を下げた。
「ありがとうございます! あなたは……一体……」
アプリリアは静かに立ち上がった。
「ただの、公爵令嬢です」
しかし、その声は礼拝堂全体に響き渡った。
貴族たちが、息を呑む。
エテルナの顔が、真っ青になっていた。
ルキノは、言葉を失っている。
王妃イザベラが、ゆっくりと立ち上がった。
「……これは、本物の聖女の力」
その一言で、礼拝堂がどよめいた。
大司教が、震える声で言った。
「神よ……真の聖女が、ここに現れた……」
アプリリアは、ゆっくりとルキノとエテルナに向き直った。
「ルキノ殿下。エテルナ。
婚約破棄の儀式は、これで終了ですね」
ルキノが、何か言おうとする。
「アプリリア……これは……」
しかし、アプリリアは優しく、しかし決然と首を振った。
「もう、結構です。
私はこれで、王宮を去ります」
彼女はリオの手を取り、振り返らずに歩き始めた。
背後で、貴族たちが道を開ける。
誰も、嘲笑う者はいなかった。
代わりに、畏敬の視線が注がれる。
レオンハルト公爵が、慌てて立ち上がった。
「アプリリア! 待て! これは誤解だ!」
しかし、アプリリアは足を止めない。
「父上。
今さら、何をおっしゃるのかしら」
その声は冷たく、しかし悲しみを帯びていた。
兄のゼストが、廊下で待っていた。
彼は静かに妹を抱きしめた。
「よく堪えたな、アプリリア。
これからは、俺が守る」
アプリリアは小さく微笑んだ。
「ありがとう、お兄様。
でも、もう大丈夫よ」
礼拝堂を出た瞬間、アプリリアは空を見上げた。
聖女の力が、体中を満たしている。
治癒だけではない。
予知の力も、すでに微かに感じていた。
――これが、私の本当の力。
王宮を去る準備は、すでに整っている。
辺境の領地――父がかつて与えた、荒れた小さな土地。
そこが、彼女の新たな舞台となる。
リオが、涙を拭きながら言った。
「アプリリア様……本当にすごかったです!
あの光、まるでお伽話の聖女みたいでした!」
アプリリアは優しくメイドの頭を撫でた。
「リオ、これから大変になるけど……一緒に来てくれる?」
「もちろんです! どこへだってついていきます!」
二人は、王宮の長い廊下を歩き始めた。
背後で、ルキノが追いかけてくる気配があった。
しかし、アプリリアは振り返らない。
――後悔するのは、これからよ。
聖女の力は、すでに彼女のもの。
これから始まるのは、華麗なる逆転の物語。
辺境で、彼女は自立する。
領民を癒し、土地を豊かにし、
そして、いつか――
元婚約者たちを、跪かせる。
アプリリアの瞳に、静かな決意が宿った。
王宮の門を出るその時、
彼女は初めて、自由を感じていた。
礼拝堂の空気が、重く張り詰めていた。
儀式は最終段階に入っていた。
大司教が聖水の入った銀の器を掲げ、破棄の祈りを終えようとしている。
その聖水を、アプリリアとルキノの間に撒くことで、すべての縁が断たれる。
アプリリアは祭壇の前に立ち、静かに目を閉じていた。
前世の記憶が完全に蘇った今、胸の奥で何かが激しく脈打っているのを感じていた。
――聖女の力。
それは、ただの治癒魔法ではない。
神から与えられた、奇跡の力。
前世では、それが原因で命を落とした。
この世界では、封印されていた。
だが、今――
最大の屈辱と悲しみが、封印を解いた。
大司教が聖水を振り撒こうとしたその瞬間。
突然、礼拝堂の扉が大きく開いた。
「待ってください!」
入ってきたのは、若い騎士だった。
血まみれで、よろよろと歩みを進める。
腕には、重傷を負った同僚の騎士を抱えていた。
「魔物の襲撃です! 王宮近くの街道で……助けてください!」
貴族たちが悲鳴を上げて立ち上がる。
魔物が王都に迫るなど、近年なかったことだ。
ルキノが慌てて声を上げる。
「すぐに騎士団を!」
しかし、傷ついた騎士は首を振った。
「もう……時間がない……このままでは死にます……」
倒れ伏した騎士の傷は深く、血が止まらない。
傍らにいた同僚も、足を折られ動けない。
エテルナが、前に出た。
「私が……私が治します!」
妹は自信満々に手を掲げた。
最近、王宮で披露した「聖女の力」。
微弱ながら、軽い傷なら癒せると噂されていた。
淡い光がエテルナの手から放たれる。
しかし――
「う……ううん……」
光はすぐに消え、傷はほとんど変わらない。
エテルナの顔が青ざめる。
「どうして……いつもは……」
貴族たちがざわつく。
「聖女の力ではなかったのか?」
「偽物だったのでは?」
エテルナが後ずさりする。
ルキノが慌てて妹を庇うが、視線は冷ややかだ。
アプリリアは、静かに一歩前に出た。
「私が、癒します」
その声に、全員が振り返る。
「アプリリア……何を……」
ルキノが戸惑う。
アプリリアは傷ついた騎士たちの前に跪いた。
リオが心配そうに寄り添うが、彼女は優しく首を振った。
――今だ。
心の中で、静かに力を呼びかける。
前世で使いこなした、聖女の力。
この世界で、初めて解放する。
アプリリアが両手を傷ついた騎士の上にかざす。
瞬間――
眩い光が、礼拝堂全体を包んだ。
純白の、柔らかく、しかし圧倒的な光。
ステンドグラスを通した朝陽さえ、霞んで見えるほどの輝き。
「な……何だ、これは……!」
貴族たちが目を覆う。
大司教が、聖典を落として跪いた。
光の中、アプリリアの黒髪が優雅に揺れる。
その瞳は、穏やかで、どこか神聖ですらあった。
光が収まると――
騎士たちの傷が、完全に癒えていた。
深い裂傷は跡形もなく、折れた骨も元通り。
二人は驚愕の表情で、自分の体を見下ろす。
「俺の傷が……消えてる……」
「足が……動く……!」
騎士たちは立ち上がり、アプリリアの前に深く頭を下げた。
「ありがとうございます! あなたは……一体……」
アプリリアは静かに立ち上がった。
「ただの、公爵令嬢です」
しかし、その声は礼拝堂全体に響き渡った。
貴族たちが、息を呑む。
エテルナの顔が、真っ青になっていた。
ルキノは、言葉を失っている。
王妃イザベラが、ゆっくりと立ち上がった。
「……これは、本物の聖女の力」
その一言で、礼拝堂がどよめいた。
大司教が、震える声で言った。
「神よ……真の聖女が、ここに現れた……」
アプリリアは、ゆっくりとルキノとエテルナに向き直った。
「ルキノ殿下。エテルナ。
婚約破棄の儀式は、これで終了ですね」
ルキノが、何か言おうとする。
「アプリリア……これは……」
しかし、アプリリアは優しく、しかし決然と首を振った。
「もう、結構です。
私はこれで、王宮を去ります」
彼女はリオの手を取り、振り返らずに歩き始めた。
背後で、貴族たちが道を開ける。
誰も、嘲笑う者はいなかった。
代わりに、畏敬の視線が注がれる。
レオンハルト公爵が、慌てて立ち上がった。
「アプリリア! 待て! これは誤解だ!」
しかし、アプリリアは足を止めない。
「父上。
今さら、何をおっしゃるのかしら」
その声は冷たく、しかし悲しみを帯びていた。
兄のゼストが、廊下で待っていた。
彼は静かに妹を抱きしめた。
「よく堪えたな、アプリリア。
これからは、俺が守る」
アプリリアは小さく微笑んだ。
「ありがとう、お兄様。
でも、もう大丈夫よ」
礼拝堂を出た瞬間、アプリリアは空を見上げた。
聖女の力が、体中を満たしている。
治癒だけではない。
予知の力も、すでに微かに感じていた。
――これが、私の本当の力。
王宮を去る準備は、すでに整っている。
辺境の領地――父がかつて与えた、荒れた小さな土地。
そこが、彼女の新たな舞台となる。
リオが、涙を拭きながら言った。
「アプリリア様……本当にすごかったです!
あの光、まるでお伽話の聖女みたいでした!」
アプリリアは優しくメイドの頭を撫でた。
「リオ、これから大変になるけど……一緒に来てくれる?」
「もちろんです! どこへだってついていきます!」
二人は、王宮の長い廊下を歩き始めた。
背後で、ルキノが追いかけてくる気配があった。
しかし、アプリリアは振り返らない。
――後悔するのは、これからよ。
聖女の力は、すでに彼女のもの。
これから始まるのは、華麗なる逆転の物語。
辺境で、彼女は自立する。
領民を癒し、土地を豊かにし、
そして、いつか――
元婚約者たちを、跪かせる。
アプリリアの瞳に、静かな決意が宿った。
王宮の門を出るその時、
彼女は初めて、自由を感じていた。
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