婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ~偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う~

鷹 綾

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第14話: エテルナの策略

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第14話: エテルナの策略

王宮からの召喚状を受け取ってから、数日後の夜。

アプリリア、ガイア、リオの三人は、王都の手前にある宿場町で一泊していた。  
明日には王宮に到着する。  
馬車の中は静かで、誰もがそれぞれの思いに浸っていた。

アプリリアは窓から夜空を見上げ、予知の力を静かに巡らせていた。

――何か、来る。

ぼんやりとした影。  
暗い殺意。  
王宮方面から、こちらに向かって。

「アプリリア様、どうかしましたか?」

リオが心配そうに声をかける。

「ええ、少し……  
皆、気を付けてください。  
今夜、何か起こるかもしれません」

ガイアが即座に剣の柄に手を置いた。

「刺客か?」

「まだ、はっきりしないけど……  
王宮の誰かが、私を消したがっている気がする」

ガイアの青い瞳が、鋭く光った。

「なら、俺が守る。  
絶対に、近づけさせない」

宿の部屋は三つ取っていたが、ガイアはアプリリアの部屋の前に立ち、  
自ら見張りを買って出た。

深夜。

月が雲に隠れ、宿場町は深い闇に包まれていた。

黒い影が、三つ。  
宿の裏手の壁を音もなくよじ登る。

黒装束の刺客たち。  
ヴェゼル侯爵令嬢のつてで雇われた、裏稼業のプロフェッショナル。

「標的は黒髪の女。  
生かさず殺せ」

リーダーの低い声。

毒矢を番え、窓を目指す。

だが、その瞬間――

銀色の閃光。

ガイアの剣が、闇を切り裂いた。

「――っ!」

一人の刺客の首が飛ぶ。  
血しぶきが、月光に赤く輝く。

残る二人が慌てて飛び退く。

「騎士団長ガイア・ヴァルハルトだ!  
撤退――」

だが、遅い。

ガイアの動きは、鬼神の如く速かった。  
二撃で、もう一人の胸を貫く。

最後の刺客が、毒矢を放つ。

矢は、アプリリアの部屋の窓に向かう。

しかし、淡い光のバリアが、矢を弾いた。

窓が開き、アプリリアが姿を現す。

「ご苦労様」

静かな声。

刺客の顔が、恐怖に歪む。

アプリリアは手を掲げ、浄化の光を放った。

光は刺客を包み、毒を中和し、動きを封じる。

「あなたたち、誰に雇われたの?」

刺客は唇を噛み、黙る。

ガイアが剣を突きつけ、冷たく言った。

「答えろ。  
さもなくば、苦しめてでも吐かせる」

刺客は震えながら、ついに白状した。

「エ、エテルナ様と……ヴェゼル侯爵令嬢に……  
アプリリア様を、暗殺しろと……」

アプリリアの瞳が、静かに冷えた。

――やっぱり。

エテルナの策略。

偽りの聖女の座を守るため、  
本物を消そうという魂胆。

ガイアが、怒りを抑えた声で言った。

「王宮に戻ったら、必ず裁きを受けさせる」

アプリリアは首を振った。

「今は、証拠を残しておきましょう。  
この人たちは、生かして連れて行くわ」

光の縄で刺客たちを縛り、宿の主に預ける。  
明朝、王都の衛兵に引き渡す手配をした。

リオが、部屋から飛び出してきて、アプリリアを抱きしめた。

「アプリリア様! 大丈夫ですか!?  
怖かったです……!」

「ありがとう、リオ。  
ガイアが守ってくれたから、大丈夫よ」

ガイアは剣を収め、アプリリアに近づいた。

「……怪我はないか?」

アプリリアは微笑んで、ガイアの手を取った。

「ええ。  
あなたがいてくれて、本当に良かった」

ガイアの表情が、わずかに緩む。

「約束だ。  
何があっても、守る」

二人は、短く手を握り合った。

夜が明け、三人は再び馬車に乗り、王都へ向かった。

刺客の供述は、すでに飛脚で王宮の信頼できる重臣に届けられる手配が済んでいた。  
兄ゼストにも、密かに連絡。

王宮に着く頃には、  
エテルナの策略の片鱗が、すでに波紋を広げ始めているはず。

アプリリアは馬車の窓から、王都の門を見据えた。

――エテルナ。

あなたが私を消そうとしたこと、  
必ず、後悔させてあげる。

優雅に。  
華麗に。

ガイアが、隣で静かに言った。

「王宮でも、俺がそばにいる」

アプリリアは頷き、ガイアの肩に頭を預けた。

「ええ。  
一緒に、乗り越えましょう」

リオが、後ろの席でニコニコしながら囁く。

「アプリリア様とガイア様、ほんとに絵になりますね~」

二人は苦笑しつつ、手を繋いだまま。

王都の門が、近づいてくる。

刺客の襲撃は、失敗に終わった。

逆に、エテルナの陰謀の証拠を、  
アプリリアに与えてしまった。

王宮の乱れは、さらに深まる。

ヴェゼルは、雇いの痕跡を消そうと焦り、  
エテルナは、恐怖に震え始める。

アプリリアの帰還が、  
復讐の序曲を奏で始める。

馬車は、堂々と王都に入った。

黒髪の聖女と、銀髪の騎士。

二人の姿に、道行く民がざわつく。

「本当に、あのアプリリア様だ……」  
「聖女様が、戻ってきた……!」

噂は、すでに広がっていた。

アプリリアは、静かに微笑んだ。

――待っていて、エテルナ。ルキノ。

今度は、私があなたたちを  
跪かせる番よ。

王宮の影が、近づいてくる。

新たな戦いが、始まろうとしていた。

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