婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ～偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う～

第15話: 聖女の訓練

第15話: 聖女の訓練

王宮到着の前夜、三人は王都郊外の別邸で休息を取っていた。  
王妃からの召喚状は「王国を救う聖女の力が必要」と丁寧に書かれていたが、  
アプリリアは、それがエテルナたちの焦りの表れだと知っていた。

刺客の一件で、エテルナの策略はすでに一部の重臣に知れ渡り始めている。  
王宮内の空気は、アプリリアに有利に傾きつつあった。

だが、アプリリアは油断しなかった。

――もっと、強くなる。

聖女の力はまだ完全ではない。  
前世の記憶が蘇ったとはいえ、使いこなすには訓練が必要だ。

夕食後、別邸の庭園でアプリリアは一人、魔法の練習を始めた。

月明かりの下、両手を掲げ、光を集中させる。

治癒の光。  
浄化の光。  
そして、新たに試す――防御の結界と、攻撃的な光の矢。

光の矢は、木の的を貫通する威力を持っていた。  
だが、精度が悪い。  
連続で放つと、力が散漫になる。

「まだ……足りない」

アプリリアは息を整え、再び集中した。

その時、背後から足音。

「一人で、無理するな」

ガイアだった。  
銀髪が月光に輝き、剣を腰に下げたまま近づいてくる。

「ガイア……見ていたの？」

「少しな。  
お前の力は、確かに強くなっている。  
だが、体が追いついていない」

ガイアはアプリリアの前に立ち、木の剣を差し出した。

「スパーリングをしよう。  
魔法と剣の、連携練習だ」

アプリリアの目が輝いた。

「いいわ！  
お願いします」

二人は庭の中央で向き合った。

リオが館の窓から覗き、カイルも興味津々で加わってきた。

「面白そうだな！  
俺も混ぜてくれよ！」

カイルは陽気に笑い、観戦モードで木陰に座る。

最初は、ガイアがゆっくり剣を振るう。

アプリリアは光のバリアで防ぎ、隙を見て光の矢を放つ。

ガイアは軽く身をかわし、剣でバリアを叩く。

「バリアは強いが、範囲が狭い。  
もっと広げて、動きながら維持しろ」

アプリリアは頷き、再挑戦。

汗が額を伝う。

ガイアの動きが、少し速くなる。

アプリリアはバリアを広げ、同時に関節を狙った光の矢を連発。

ガイアが剣で矢を弾き、距離を詰める。

「いいぞ。  
次は、俺の攻撃を予測して防げ」

ガイアの剣が、アプリリアの肩をかすめる軌道で振り下ろされる。

アプリリアは予知の力を発動。

――次は左から！

体が自然に動き、バリアを斜めに展開。

剣がバリアに当たり、衝撃が響く。

ガイアの目が、わずかに見開かれた。

「予知を、戦闘に活かしたな」

アプリリアは息を切らしながら、笑った。

「ガイアの動きが、読めてきたわ」

ガイアは剣を下げ、アプリリアに近づいた。

「疲れただろう。  
休憩だ」

二人は芝生に座り、水を飲んだ。

月が美しく、庭園は静かだった。

ガイアが、アプリリアの肩に手を置いた。

「汗が……」

優しく、袖で拭ってくれる。

アプリリアの頰が、熱くなった。

「ガイア……ありがとう。  
あなたと練習すると、力がどんどん上がる気がする」

ガイアの指が、アプリリアの頰をそっと撫でる。

「俺もだ。  
お前の光が、俺の剣を速くする」

距離が、近くなる。

二人の息が、重なる。

「アプリリア……」

「ガイア……」

唇が、触れそうになった瞬間――

「おおおー！ いい雰囲気だなー！」

カイルの大きな声。

二人は慌てて離れた。

カイルが、ニヤニヤしながら近づいてくる。

「悪い悪い！ 邪魔したか？  
でもさ、訓練の続きしようぜ！  
今度は俺も混ざるよ！」

リオが館から駆け寄ってきて、お盆に飲み物を持ってくる。

「皆さん、お疲れ様です！  
私も応援してますよ～」

アプリリアは苦笑しつつ、立ち上がった。

「じゃあ、続きをしましょう」

後半のスパーリングは、三人で行った。

カイルの陽気な攻撃を、ガイアとアプリリアが連携して防ぐ。

アプリリアは治癒を即座に使い、ガイアとカイルの軽い擦り傷を癒す。

ガイアの剣がカイルを翻弄し、アプリリアの光の矢が援護。

「ははは！ 最高だ！  
この連携、無敵じゃん！」

カイルの笑い声が、庭に響く。

訓練は深夜まで続いた。

アプリリアの力は、目に見えて向上していた。

・広範囲の持続バリア  
・連続光箭の精度向上  
・予知を活用した先読み防御  
・仲間への即時治癒

ガイアが、最後に言った。

「お前は、もう十分強い。  
王宮で、何が起きても――  
俺たちがいる」

アプリリアは、ガイアとカイル、リオを見回した。

「ええ。  
皆がいてくれるから、私も強くなれる」

四人は、月の下で拳を合わせた。

訓練の夜は、甘さと絆で満ちていた。

王宮での戦いが、目前に迫っている。

エテルナの策略は、すでに崩れ始めている。

アプリリアは、もう怖くない。

聖女の力は、完全に目覚めた。

明日、王宮へ。

真実を、暴く時。

庭園の風が、優しく吹いていた。

アプリリアの黒髪が、月光に輝く。

強くなった聖女の、静かな決意。

復讐の序曲が、  
もうすぐ奏でられる。