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第9話 噂になる前の、小さな違和感
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第9話 噂になる前の、小さな違和感
アルヴェルでの生活は、思っていた以上に忙しかった。
朝は簡単な食事を済ませ、ギルドへ向かう。
掲示板を確認し、受けられそうな依頼を選ぶ。
夕方には報告と精算を終え、安宿へ戻る。
単調で、地味。
けれど、不思議と心は穏やかだった。
(……誰にも命令されない生活って、こういう感じなのね)
二度目の薬草採取、倉庫整理、街道整備の手伝い。
どれも大した仕事ではないが、確実に経験と信用が積み上がっていく。
「おい、エレナ。これも頼めるか?」
倉庫番の中年男性が、木箱を指差す。
「はい、大丈夫です」
素直に返事をし、箱を運ぶ。
その重さに、ほんの少しだけ魔力を流して負担を軽くする。
――ごく自然に。
誰にも気づかれない程度に。
「助かるよ。細いのに、よく働くな」
「慣れてますから」
嘘ではなかった。
前世でも、理不尽な業務量に慣れすぎていた。
そんな日々の中で、少しずつ“違和感”が生まれ始めた。
「最近、薬草の質がいいな」 「倉庫の整理、やけに早く終わったぞ」 「新人にしちゃ、手際が良すぎないか?」
直接的な疑念ではない。
ただの雑談。
けれど、その一言一言が、胸に引っかかる。
(……目立ちすぎてる?)
私は、ギルドの片隅で依頼完了の印を押してもらいながら、周囲の視線を感じていた。
冒険者たちは基本的に他人に無関心だ。
だからこそ、“気に留められる”こと自体が異常なのだ。
「……調整しないと」
その日の帰り道、私は露店で安いパンを買い、路地裏を抜けて宿へ向かった。
石造りの古い宿。
部屋は狭く、壁も薄いが、今の私には十分だ。
部屋に入ると、椅子に腰を下ろし、今日一日を振り返る。
(魔力の使用、増えてる……)
意識しないと気づかないほどだが、確実に“楽”になっている。
力が、体に馴染み始めている証拠。
――それは、危険でもある。
前世の知識が、警鐘を鳴らす。
(無自覚な才能ほど、目を引くものはない)
私は、深く息を吸い、魔力の流れを意図的に抑え込んだ。
胸の奥で、力が不満そうに揺れる。
「……今は、我慢」
まだ、名乗る時じゃない。
まだ、戦う時じゃない。
処刑ルートを完全に外れたわけでもないのだから。
窓の外を見ると、アルヴェルの夜景が広がっていた。
酒場の灯り、笑い声、遠くで鳴る楽器の音。
平和だ。
――だからこそ、油断できない。
私は、机の上に広げたノートに、簡単な記録を書き留める。
今日の依頼内容。
使った魔力の量。
周囲の反応。
(……やっぱり、ここに長居するなら)
(次の段階が必要ね)
ただの雑用係では、いずれ限界が来る。
かといって、戦闘で名を上げるのは早すぎる。
なら――。
「……ポーション」
ぽつりと呟く。
薬草の知識。
前世の化学知識。
そして、微調整できる魔力。
戦わずに評価され、
危険を最小限に抑えられる手段。
それが、私の次の一手。
私は、ノートを閉じ、小さく笑った。
「……処刑台へ行く予定だった令嬢が、今は調合計画を立ててるなんて」
運命は、確実にズレている。
このズレを、大きく、確かなものにするために――
私は、静かに次の一歩を踏み出そうとしていた。
アルヴェルでの生活は、思っていた以上に忙しかった。
朝は簡単な食事を済ませ、ギルドへ向かう。
掲示板を確認し、受けられそうな依頼を選ぶ。
夕方には報告と精算を終え、安宿へ戻る。
単調で、地味。
けれど、不思議と心は穏やかだった。
(……誰にも命令されない生活って、こういう感じなのね)
二度目の薬草採取、倉庫整理、街道整備の手伝い。
どれも大した仕事ではないが、確実に経験と信用が積み上がっていく。
「おい、エレナ。これも頼めるか?」
倉庫番の中年男性が、木箱を指差す。
「はい、大丈夫です」
素直に返事をし、箱を運ぶ。
その重さに、ほんの少しだけ魔力を流して負担を軽くする。
――ごく自然に。
誰にも気づかれない程度に。
「助かるよ。細いのに、よく働くな」
「慣れてますから」
嘘ではなかった。
前世でも、理不尽な業務量に慣れすぎていた。
そんな日々の中で、少しずつ“違和感”が生まれ始めた。
「最近、薬草の質がいいな」 「倉庫の整理、やけに早く終わったぞ」 「新人にしちゃ、手際が良すぎないか?」
直接的な疑念ではない。
ただの雑談。
けれど、その一言一言が、胸に引っかかる。
(……目立ちすぎてる?)
私は、ギルドの片隅で依頼完了の印を押してもらいながら、周囲の視線を感じていた。
冒険者たちは基本的に他人に無関心だ。
だからこそ、“気に留められる”こと自体が異常なのだ。
「……調整しないと」
その日の帰り道、私は露店で安いパンを買い、路地裏を抜けて宿へ向かった。
石造りの古い宿。
部屋は狭く、壁も薄いが、今の私には十分だ。
部屋に入ると、椅子に腰を下ろし、今日一日を振り返る。
(魔力の使用、増えてる……)
意識しないと気づかないほどだが、確実に“楽”になっている。
力が、体に馴染み始めている証拠。
――それは、危険でもある。
前世の知識が、警鐘を鳴らす。
(無自覚な才能ほど、目を引くものはない)
私は、深く息を吸い、魔力の流れを意図的に抑え込んだ。
胸の奥で、力が不満そうに揺れる。
「……今は、我慢」
まだ、名乗る時じゃない。
まだ、戦う時じゃない。
処刑ルートを完全に外れたわけでもないのだから。
窓の外を見ると、アルヴェルの夜景が広がっていた。
酒場の灯り、笑い声、遠くで鳴る楽器の音。
平和だ。
――だからこそ、油断できない。
私は、机の上に広げたノートに、簡単な記録を書き留める。
今日の依頼内容。
使った魔力の量。
周囲の反応。
(……やっぱり、ここに長居するなら)
(次の段階が必要ね)
ただの雑用係では、いずれ限界が来る。
かといって、戦闘で名を上げるのは早すぎる。
なら――。
「……ポーション」
ぽつりと呟く。
薬草の知識。
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そして、微調整できる魔力。
戦わずに評価され、
危険を最小限に抑えられる手段。
それが、私の次の一手。
私は、ノートを閉じ、小さく笑った。
「……処刑台へ行く予定だった令嬢が、今は調合計画を立ててるなんて」
運命は、確実にズレている。
このズレを、大きく、確かなものにするために――
私は、静かに次の一歩を踏み出そうとしていた。
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