『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾

文字の大きさ
4 / 40

第3話 アイラの勘違い宣戦布告

しおりを挟む
◆第3話 アイラの勘違い宣戦布告

王宮の大広間からの出来事が広がるのに、時間はほとんどかからなかった。

城下の噂好きたちはもちろん、文官たち、侍女たち、そして貴族たちの間でも、
“エヴァントラは捨てられた被害者”
“ウィッシュとアイラが暴走した”
という空気が一気に形成されつつあった。

ところが──
その空気を一切読めない少女が、ひとり。

アイラ・マーベルである。

彼女は、侍女を従えてエヴァントラの私室の前で腕を組み、
まるで勝者の凱旋のような顔をしていた。

(……嫌な予感しかしませんわね)

エヴァントラは静かに扉を開き、淡い微笑みで応じた。

「ご用件かしら。アイラ様?」

アイラはぱっと胸を張り、扇子で口元を隠した。

「ふふんっ。あなたに“忠告”しに来たのよ、エヴァントラ様!」

侍女が小声でつぶやく。

「(様って付けてる……)」
「(抑えきれない恐怖が滲んでる……)」

だがアイラは気づかない。

「殿下はね、あなたより私を愛しているの! だからこそあなたは捨てられたのよ!」

エヴァントラは丁寧に頷いた。

「そうですの。おめでとうございます、アイラ様」

「えっ……?」

あまりにあっさりと祝福されたので、アイラは反応に困った。

エヴァントラは続ける。

「殿下の新しい幸福を願うのも、元婚約者としての務めですわ。どうか末永く、お幸せに」

アイラ「……え……? え?」

想定外すぎる対応に、アイラの思考が硬直した。

彼女はもっとこう──
“嫉妬に狂う悪役令嬢的反応”を期待していたのだ。

しかしエヴァントラの瞳には一切の執着がない。

……どころか、心の底から自由を喜んでいる光まで感じる。

アイラは慌てて声を荒げる。

「と、とにかく! あなたは殿下にふさわしくなかったの! 国政のことなんてどうでもいいのよ。殿下は癒しを求めているの! その点、わたしは完璧なの!」

(国政どうでもいいって言いましたわね、この方)

エヴァントラは心の中で静かに火災報知機が鳴るのを感じたが、表には出さない。

「でしたら問題ありませんわ。殿下の好みがあなたなのですから」

「そ、そうなの! だからあなたは──」

アイラは勝利宣言のポーズを決めた。

「二度と殿下の前に姿を見せないで!」

広間の外では、通りがかった侍女や文官たちが固まる。

「(え、それ言う相手逆じゃ……)」
「(フェルメリア様の方が見る権利あるんじゃ……)」

しかしエヴァントラは優雅に微笑むだけだった。

「ご安心くださいな。わたくしはもう、殿下の前に出る意思はございません。
そもそも王宮を離れますので」

「……え?」

アイラは素で驚いた顔をした。

「り、離れるって……どうして?」

(あなたが理由のひとつですわよ?)とは言わない。

エヴァントラは穏やかに答える。

「殿下のご幸福のために。わたくしはわたくしで、新しい道を歩むだけです」

「……!」

アイラの顔に一瞬だけ焦りが走った。

なぜなら──
逃げ道のない“真実の重さ”を感じたからだ。

エヴァントラが本当に王宮を去れば、
ウィッシュとアイラは、自分たちの力だけで王宮を回さねばならない。

エヴァントラが抜けたあと、どれほどの混乱が起こるかなど想像する力はないが……
本能で危険を察したのだ。

アイラは無理やり笑顔を作る。

「あ、あなたなんかいなくても……だ、大丈夫なんだから!」

「ええ。そう願っておりますわ」

エヴァントラは頭を下げる。

その姿は美しく──
そして、どこまでも強かった。

アイラは悔しさと不満を抱えながら、その場を去った。

侍女たちは遠巻きに囁く。

「エヴァントラ様、すご……」
「完全勝利じゃない……?」
「悪役令嬢どころか、あちらの方がムーブしてる……」

エヴァントラは静かに扉を閉め、息を吐いた。

「……さて。荷物を整理しませんとね」

彼女は鏡の前に立ち、少しだけ微笑んだ。

「これで、本当に自由になれるのね」

翌日──
王宮は彼女の退去準備と同時に、
エヴァントラの不在による“機能停止の始まり”を迎えることになる。

誰もまだ知らない。

アイラとウィッシュの破滅は、すでに始まっていた。


---
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。 しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。 王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。 絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。 彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。 誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。 荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。 一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。 王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。 しかし、アリシアは冷たく拒否。 「私はもう、あなたの聖女ではありません」 そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。 「俺がお前を守る。永遠に離さない」 勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動…… 追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...