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第4話 エヴァントラ、王宮の仕事放棄宣言(合法)
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◆第4話 エヴァントラ、王宮の仕事放棄宣言(合法)
婚約破棄から一夜明けた王宮は、
──異変に満ちていた。
いつもは整然と並んでいるはずの文官たちの机。
その上に、今は書類の山が崩れ落ち、悲鳴が飛び交っている。
「フェルメリア様の……承認印が、どこにも……!」
「うそだろ、昨日まで全部片付いてたんだぞ!?」
「今日が締め切りの外交書簡……誰が対応するんだ!?」
「殿下は……“アイラと散歩中”……?」
文官A「は?」
文官B「詰んだな」
場の空気が完全に終わっていた。
――そう、エヴァントラは王宮の大半の行政実務を“影で”担っていたのだ。
スケジュール管理、外交文書の校閲、予算案の調整、各省庁の取りまとめ。
それらは全て、王太子ウィッシュの“成果”として処理されてきたが──
実際は、エヴァントラが全部やっていた。
そして彼女は今日、正式にそれを辞める。
---
エヴァントラは淡々と荷物を整理し、王宮文書局へ向かった。
局長は蒼白な顔で迎えた。
「フェ、フェルメリア様……! あの、婚約破棄は……本当で……?」
「ええ。ですので、本日をもって王宮業務はすべて辞任させていただきますわ」
「………………………………はい?」
局長の顔から血の気が引いていく。
「ま、待ってくださいフェルメリア様!?
あなたの辞任は、その……その……国が……!」
「大丈夫ですわ。殿下は新しい寵妃候補をお迎えになったのですもの。
きっと彼女が、王太子妃の務めを果たしてくださいますわ」
局長「いや無理だろどう考えても!!」
言葉を飲み込みつつ、局長は机を叩いた。
「殿下は……殿下は、あなたがいなければ何も……!」
「承知しておりますわ」
承知しておりますわ。
でも、戻る気は一切ありませんわ。
微笑むエヴァントラに、局長はもう膝から崩れ落ちる寸前だ。
「ですが……国のためにも、殿下のためにも……」
局長は懇願するように言った。
「どうか、一度だけでも、ご再考を……!」
エヴァントラは首を横に振った。
「残念ながら。
わたくしは、もう自由を手にいたしましたもの」
局長(ああああああ国が終わる!!)
---
その頃、王太子執務室。
ウィッシュは豪華な椅子にふんぞり返って、紅茶を飲んでいた。
対面にいるアイラは嬉しそうに微笑んでいる。
「ねぇ殿下、あの“むずかしい書類”って……今日やらなくていいんですか?」
「ふん、いいのだ。エヴァントラが消えたところで王宮が困るわけがない。
あれはただの“真面目なだけの女”だからな」
(((お前が一番真面目じゃない)))
この会話を壁越しに聞いてしまった侍女が、こっそり涙を流していた。
ウィッシュはさらに続けた。
「それに、オレにはアイラがいる。この国はオレとアイラで改革するのだ!」
アイラはほんのり頬を染めた。
「殿下ぁ……!」
執務室の外──
文官たち(胃痛)
兵士たち(終わった)
侍女たち(逃げたい)
誰一人、未来に希望を抱いていなかった。
---
その頃、エヴァントラは王宮をゆっくりと歩いていた。
廊下の侍女や兵士たちは深々と頭を下げ、涙ぐむ者も多かった。
「フェルメリア様……本当に、お辞めになるのですか……?」
「はい。これからは自分の時間を大切にしたくて」
(あと読書も昼寝もしたいので)
エヴァントラは柔らかく微笑む。
「皆さま、どうかお元気で。
そして……わたくしのことは、どうぞお気になさらないでくださいませ」
侍女「無理です!!!」
エヴァントラ(本音を言えば“忘れてください”なのだけれど……)
王宮を離れる足取りは軽い。
外の空気を吸い込み、エヴァントラは小さく頬を緩めた。
「さようなら、王宮……。
そして、こんにちは……自由……!」
---
その背後で──
王宮のカレンダーは真っ白になり、重要書類は山積みになり、外交スケジュールは行方不明になり、各省庁は混乱に陥っていた。
すべては、わずか数時間で。
だがまだ誰も知らない。
これが、崩壊の本当に初期段階にすぎないということを──。
---
婚約破棄から一夜明けた王宮は、
──異変に満ちていた。
いつもは整然と並んでいるはずの文官たちの机。
その上に、今は書類の山が崩れ落ち、悲鳴が飛び交っている。
「フェルメリア様の……承認印が、どこにも……!」
「うそだろ、昨日まで全部片付いてたんだぞ!?」
「今日が締め切りの外交書簡……誰が対応するんだ!?」
「殿下は……“アイラと散歩中”……?」
文官A「は?」
文官B「詰んだな」
場の空気が完全に終わっていた。
――そう、エヴァントラは王宮の大半の行政実務を“影で”担っていたのだ。
スケジュール管理、外交文書の校閲、予算案の調整、各省庁の取りまとめ。
それらは全て、王太子ウィッシュの“成果”として処理されてきたが──
実際は、エヴァントラが全部やっていた。
そして彼女は今日、正式にそれを辞める。
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エヴァントラは淡々と荷物を整理し、王宮文書局へ向かった。
局長は蒼白な顔で迎えた。
「フェ、フェルメリア様……! あの、婚約破棄は……本当で……?」
「ええ。ですので、本日をもって王宮業務はすべて辞任させていただきますわ」
「………………………………はい?」
局長の顔から血の気が引いていく。
「ま、待ってくださいフェルメリア様!?
あなたの辞任は、その……その……国が……!」
「大丈夫ですわ。殿下は新しい寵妃候補をお迎えになったのですもの。
きっと彼女が、王太子妃の務めを果たしてくださいますわ」
局長「いや無理だろどう考えても!!」
言葉を飲み込みつつ、局長は机を叩いた。
「殿下は……殿下は、あなたがいなければ何も……!」
「承知しておりますわ」
承知しておりますわ。
でも、戻る気は一切ありませんわ。
微笑むエヴァントラに、局長はもう膝から崩れ落ちる寸前だ。
「ですが……国のためにも、殿下のためにも……」
局長は懇願するように言った。
「どうか、一度だけでも、ご再考を……!」
エヴァントラは首を横に振った。
「残念ながら。
わたくしは、もう自由を手にいたしましたもの」
局長(ああああああ国が終わる!!)
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その頃、王太子執務室。
ウィッシュは豪華な椅子にふんぞり返って、紅茶を飲んでいた。
対面にいるアイラは嬉しそうに微笑んでいる。
「ねぇ殿下、あの“むずかしい書類”って……今日やらなくていいんですか?」
「ふん、いいのだ。エヴァントラが消えたところで王宮が困るわけがない。
あれはただの“真面目なだけの女”だからな」
(((お前が一番真面目じゃない)))
この会話を壁越しに聞いてしまった侍女が、こっそり涙を流していた。
ウィッシュはさらに続けた。
「それに、オレにはアイラがいる。この国はオレとアイラで改革するのだ!」
アイラはほんのり頬を染めた。
「殿下ぁ……!」
執務室の外──
文官たち(胃痛)
兵士たち(終わった)
侍女たち(逃げたい)
誰一人、未来に希望を抱いていなかった。
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その頃、エヴァントラは王宮をゆっくりと歩いていた。
廊下の侍女や兵士たちは深々と頭を下げ、涙ぐむ者も多かった。
「フェルメリア様……本当に、お辞めになるのですか……?」
「はい。これからは自分の時間を大切にしたくて」
(あと読書も昼寝もしたいので)
エヴァントラは柔らかく微笑む。
「皆さま、どうかお元気で。
そして……わたくしのことは、どうぞお気になさらないでくださいませ」
侍女「無理です!!!」
エヴァントラ(本音を言えば“忘れてください”なのだけれど……)
王宮を離れる足取りは軽い。
外の空気を吸い込み、エヴァントラは小さく頬を緩めた。
「さようなら、王宮……。
そして、こんにちは……自由……!」
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その背後で──
王宮のカレンダーは真っ白になり、重要書類は山積みになり、外交スケジュールは行方不明になり、各省庁は混乱に陥っていた。
すべては、わずか数時間で。
だがまだ誰も知らない。
これが、崩壊の本当に初期段階にすぎないということを──。
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