『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾

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第5話 国政が止まる。ウィッシュ、ようやく違和感に気づく

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◆第5話 国政が止まる。ウィッシュ、ようやく違和感に気づく

エヴァントラが王宮を去った翌朝。

王宮の廊下は、早朝とは思えないほどざわついていた。
文官たちが書類の山を抱え、走り回り、誰かが叫ぶ声まで聞こえる。

「フェルメリア様が……フェルメリア様の書類が……!」
「どれが未処理か誰もわからない!!」
「今日、隣国と条約締結の返答期限だぞ!? どうするんだ!?」
「殿下に確認を……殿下どこ!?!?」

侍女「アイラ様と庭園で朝食中です……」

文官全員「は????」

どんよりとした絶望の空気が広がった。


---

一方その庭園では──
王太子ウィッシュとアイラが仲睦まじく、優雅な朝を楽しんでいた。

ウィッシュはオレンジジュースを口にしながら、涼しい顔で言った。

「最近、文官たちが落ち着かないな」

アイラはクッキーを齧りながら首を傾げる。

「エヴァントラ様がいなくなって、寂しいんじゃないですかぁ?」

「はは、あいつはただ真面目すぎる女だったんだ。
居なくなったくらいで何が変わるわけでもない」

(((いや変わったよ。致命的に変わってるよ)))

近くにいた侍女たちは心の中で叫んだが、当然口には出せなかった。

アイラは無邪気に続けた。

「それに殿下はわたしが支えますからっ!」

「お前がいれば十分だ、アイラ。国政も、お前の感性で新しくするべきだろう」

侍女たち(やめてお願いだからやめて怖すぎる)

アイラは誇らしげに胸を張る。

「じゃ、じゃあ……! この前の“税なんとか文書”! あれ、破いて捨てちゃいました!」

ワインを噴きかけたのは侍女全員だった。

侍女A「(税なんとかって、税率改定案のこと!?)」
侍女B「(隣国と結んだ協定で必要な書類じゃなかった!?)」
侍女C「(死んだ……この国終わった……)」

ウィッシュは笑顔で言った。

「ははは! そんなもの、難しすぎて誰にも読めん! 捨てて正解だ!」

侍女D(エヴァントラ様は全部読んでました……)

その時、真っ青な顔の文官長が庭園に駆け込んできた。

「で、殿下ぁぁぁぁぁ! 一大事でございます!!」

ウィッシュは紅茶を優雅に置いた。

「どうした。騒々しいぞ」

文官長は涙目で訴える。

「隣国との“税改定条約”が……返答期限を本日の日没としております!
フェルメリア様が校閲されていた資料が見つからず、内容も誰も理解できず……!
このままでは外交問題が……!」

「……うむ」

ウィッシュは腕を組んだ。

(文官長:お?殿下、やっと真面目になるか……?)

しかし、次の瞬間──

ウィッシュ「……とりあえず後回しだ!」

文官長「後回しーーーーーッ!?!?」

ウィッシュはドヤ顔で続けた。

「アイラが“税なんとか書類”を捨てたなら、重要ではないのだろう」

アイラ「だ、だって文字が難しかったんですもの!」

文官長(うわあああああああああ!!!!!)

庭園が地獄になった。

文官たちは崩れ落ち、侍女たちは頭を抱え、兵士たちは無言で空を見上げた。


---

ウィッシュが去った後、文官長は震える声で侍女に問う。

「……フェルメリア様は……本当に戻らないのか……?」

侍女は泣きながら頷いた。

「昨日……“わたくしの時間を大切にしますわ”って……微笑まれて……」

文官長は天を仰いだ。

「女神よ……どうか我らの国に慈悲を……」

エヴァントラ不在の影響は、もはや王城の隅々に浸透していた。

書類は未処理の山、会議は混乱、外交は停滞、予算案は行方不明。
各部署はフェルメリア不在の穴を痛感し、泣きながら走り回る。

それでも──
ウィッシュだけはまだ理解していなかった。

愛と感性だけで国が動くわけではないことを。

そしてこの日を境に、
王国は急速に“フェルメリア不在による崩壊”へと向かっていくのだった。

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