『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾

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第12話 ウィッシュ、父王の怒りに震える──初めて知る“現実”

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◆第12話 ウィッシュ、父王の怒りに震える──初めて知る“現実”

王太子執務室の扉が勢いよく開かれた。
その瞬間、ウィッシュとアイラは文字通り跳ね上がった。

「ひっ……陛下!?」

怒りを内に秘めた国王アクトロスが進み出る。
その背後には文官長、宰相、重臣たちが並び、誰も表情が固い。

アイラは震えながらウィッシュの後ろに隠れた。

「お、お義父様……何かご用ですか?」

国王は低く、冷たい声で言った。

「ウィッシュ。
貴様は──国を滅ぼすつもりか?」

そのひとことで、部屋の空気は凍りついた。

ウィッシュは慌てて口を開く。

「ど、どうしたのだ父上! 何がそんなに──」

「黙れ」

静かな一言。
だがその威圧感は、雷鳴より重かった。

国王は机に書類を叩きつけた。

「すべて貴様の“軽率さ”のせいだ。
フェルメリア嬢がいなくなってから、国政は一歩も動いておらん!」

ウィッシュ「……は?」

国王「“は?”ではない!!」

国王の怒声が執務室に響く。

「税改定条約は返答期限を超過!
外交文書は誤送!
予算案は行方不明!!
各部署の長官は誰も決裁ができず混乱している!!
──全部、フェルメリア嬢が裏で処理していたのだ!!!」

ウィッシュの顔がみるみる青ざめていく。

「そ、そんな……あいつはただ“真面目なだけ”で……」

「それのどこが“ただ”なのだ、この愚か者が!!」

国王の怒りは、ついに抑えが効かなくなった。

「フェルメリア嬢は貴様の何百倍も働き、
王国を支え続けていた!!
それを……“可愛げがない”などという理由で捨てたのは貴様だ!!」

ウィッシュ「……っ……!」

アイラは震え、しがみつく。

「で、殿下……どうしよう……!」

しかし国王の怒りは止まらない。

「さらに貴様は、アイラと共に書類を破り捨て、
国政を混乱へ落とした!
諸外国は“王国の実権者であるフェルメリア嬢はどこか”と問い合わせてきておる!」

ウィッシュ「実権者……?」

「そうだ!
貴様よりも、あの娘を信頼していたのは諸外国なのだ!!
どれだけ自分が支えられていたか、今さら気付いたか!!」

ウィッシュの膝が崩れた。

「……そんな……そんなはずは……!」

国王は冷然と告げる。

「本日から──
お前は全ての政治権限を停止する」

ウィッシュ「な……!」

アイラ「や、やめてください! 殿下は悪くありません!」

国王は鋭く睨む。

「悪いのは貴様らだ。
フェルメリア嬢を失い、王国を混乱させた張本人だからな」

アイラ「わ、私はただ……殿下の役に立とうと……!」

「役に立っておらん!
むしろ害だ!!」

アイラは震えて泣き出した。

国王は重たく息を吐き、宰相に命じる。

「ウィッシュの代わりに、第二王子を担ぎ上げる準備をせよ。
廃太子は時間の問題だ」

ウィッシュ「父上!!」

国王は静かに言った。

「フェルメリア嬢に謝りたくば──
まず国を立て直してみよ。
だがもう遅いだろうがな」

そのまま国王は去り、重臣たちも無言で続いた。

執務室には、崩れ落ちたウィッシュと、泣きじゃくるアイラだけが残された。

ウィッシュは震える手で顔を覆った。

「……フェルメリア……
お前は……どれだけ……」

初めて知る。

彼女がどれほど偉大だったのか。
どれほど王国を支えていたのか。
どれほど自分を救っていたのか。

そして──
“取り返しがつかないほど失ってしまった”ことを。


---

その頃。

隣国では、エヴァントラが優雅に紅茶を啜っていた。

「今日も平和ですわね」

アイオン「ええ。あなたの平穏を守るためなら、何だってします」

(王国とは……なんと対照的な……)

エヴァントラは静かに本を閉じ、つぶやいた。

「戻りませんわよ。
どれだけ混乱しようとも」

──この瞬間、元王太子の未来が決定的に変わり始めた。


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