『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾

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第30話『国外追放、その瞬間――王太子と愛妾の末路』

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第30話『国外追放、その瞬間――王太子と愛妾の末路』

王国ルミナシアの朝――。

灰色の雲が王宮を覆い、まるで国の未来を象徴するように、空気は重く冷たかった。

その日、王太子ウィッシュは国王に呼び出され、玉座の間の中心へ立たされていた。

周囲には議会の重鎮、各省庁の代表、そして王宮の護衛たち。
かつてウィッシュを讃えた者たちも、今は一様に険しい目で彼を見つめている。

ウィッシュはうつむいたままだった。


---

◆国王の宣告

「ウィッシュ。
お前を――廃太子とする。」

その言葉は、雷のように場内を貫いた。

ウィッシュは顔を上げた。

「……父上……? 冗談、ですよね……?」

国王は静かに首を振る。

「国政の混乱、重臣たちの離反、外交の失敗。
そして隣国への無断訪問――どれも見過ごせぬ重大な過失だ」

「わ、私は……ただ、エヴァントラを……!」

「その名を出すな!!」

国王の怒声が玉座の間を震わせた。

「お前は、彼女を軽んじ、侮辱し、国の支えを自ら捨てた!
その結果が、この惨状だ!」

議会の重臣たちも口をそろえる。

「フェルメリア嬢がいれば防げた失策ばかりだ」

「殿下は自ら国を弱らせたのです」

「王位継承者として致命的です」

ウィッシュは震えた。

(……俺が、全部間違っていた?
いや……でも……)

しかし、次の宣告が彼の心を完全に砕いた。


---

◆国外追放

「ウィッシュ。
お前と――アイラ・マーベルは、今日限りで国外追放とする。」

「な……っ!?」

王子はその場で崩れ落ちた。

「どうか、どうか考え直してくださ――」

「これ以上、国の恥を晒すな!」

国王の冷たい声が、その希望を断ち切った。


---

◆宮廷の裏で起こった、もうひとつの悲劇

同じ頃――。

アイラは侍女たちから事実を聞かされ、顔を真っ青にしていた。

「わ、わたし……追放……?
なんで……なんでわたしが……?」

誰も答えない。

アイラは虚ろな瞳で笑う。

「だって……わたしは……王太子妃になる……はずで……
エヴァントラよりも……ずっと愛されて……」

侍女がそっと告げた。

「殿下も……アイラ様をお守りできる状況ではありません」

「…………」

アイラは音もなく立ち尽くした。

すべての部屋から侍女が去り、
荷物も運び出され、
彼女の周囲には誰一人いなかった。

たった一つの現実が突きつけられる。

“ウィッシュとアイラは、誰からも必要とされていない”


---

◆二人の最後のやりとり

護衛に連れられ、城門へ向かう一本道。

ウィッシュとアイラは、初めて互いの姿を見る。

アイラは泣きながら駆け寄る。

「殿下ぁ……! 殿下も追放なの……?
ねぇ、どうするの? どうすればいいの……?」

ウィッシュは、答えられなかった。

自分のせいで、彼女もこうなったと気づいてしまったから。

アイラが必死に縋る。

「エヴァントラのせいよ! あの女のせいよ!
殿下が廃太子になるなんて……!」

ウィッシュは弱々しく首を振った。

「……違う。
全部……俺が……間違っていたんだ」

アイラは目を見開く。

その瞬間、彼女は理解した。

――ウィッシュの心にあるのは、今もエヴァントラだと。

「……最低」

その一言だけを投げつけ、アイラは彼から距離を取った。

二人は並んで歩けなかった。

そして、別々の馬車へ乗せられる。

扉が閉まる音は、まるで二人の人生の終わりを告げる鐘のようだった。


---

◆そして、国境の外へ

王国の兵が冷たく告げる。

「ここから先は、あなた方の責任です。
国は、あなた方を保護しません」

馬車の車輪が軋み、ゆっくりと進む。

二人を乗せた馬車は、二度と戻れない境界線を越えた。

彼らの背後で、王国の門が鈍い音を立てて閉まる。

もう、誰も開いてはくれない。


---

◆一方その頃、隣国では

エヴァントラはアイオンと共に、静かな図書室で書物を読んでいた。

「……終わりましたね、王太子殿下の騒動は」

アイオンが言うと、エヴァントラはページをめくりながら答える。

「平穏が戻って嬉しいだけですわ。
あの方のことは、もうどうでもよろしいでしょう」

アイオンはわずかに微笑む。

(……本当に強い人だ)

二人の穏やかな空気は、美しく静かだった。

その美しさは、王国の崩壊と対照的だった。


---

◆そして――物語は新章へ

王太子と愛妾は追放され、
ルミナシア王国は再建へ向けて動き始める。

だが、エヴァントラの人生はようやく
“本当の幸せ”へ向けて動き出すところだった。


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