『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾

文字の大きさ
31 / 40

 第31話『静かな朝と、気づかれ始めた変化』

しおりを挟む
 第31話『静かな朝と、気づかれ始めた変化』

隣国ヴァルティア王宮・東棟。
朝の光が大きな窓から差し込み、淡く金色に輝いていた。

エヴァントラは、ゆっくりとまぶたを開く。

(……なんて静かで、穏やかな朝かしら)

王宮にいた頃とはまるで別世界だ。
誰に急かされるでもなく、背後から雑音が押し寄せることもない。

白い結婚を選んだ理由の一つは“自由”。
今、その自由を噛みしめるように、彼女は軽く伸びをした。


---

◆◆ 朝食の席で、妙にそわそわする人

「おはようございます、アイオン」

「……っ、おはよう。よく眠れたか?」

(返事が一拍遅れたわね?)

エヴァントラは小さく首をかしげた。
アイオンはいつも淡々とした態度を崩さないはずだが……

今日は、どこか視線の置き場に困っている様子だった。

使用人がテーブルに紅茶を置くと、
アイオンはそれを持つ手を、なぜか一瞬もたつかせた。

「……大丈夫? 手が震えてますわよ」

「え!? い、いや、これは……その……」

(まただわ。不思議。まるで、緊張しているような……?)

白い結婚とはいえ、彼のこういう変化にはエヴァントラも戸惑う。


---

◆◆ 仕事での呼び出しにも変化

食後、二人はそれぞれの執務室へ向かった。

だが──

「エヴァントラ、少し相談したいことがあるんだが……いいか?」

「ええ。大丈夫ですわ」

アイオンの声はいつもより、どこか柔らかい。

資料を広げながら彼は説明しようとするが――
エヴァントラが隣に座った瞬間、わずかに肩が跳ねた。

(……やっぱり変)

書類の説明も微妙にぎこちない。

「こ、この部分だが……ええと……」

エヴァントラは首を傾げた。

「アイオン。その……何か落ち着かないご様子ですが?」

「!?」

彼の耳まで染まった。

(……可愛い反応ですわね?)
と、エヴァントラは思ってしまい、少しだけ自分でびっくりした。


---

◆◆ 周囲も勘づき始める

廊下を歩いていると、宮廷官僚の女性たちがひそひそと話す声が耳に入る。

「ねぇ、最近見た? アイオン様の様子……」

「見た見た。あれ絶対エヴァントラ様の影響でしょ」

「宰相補佐のあんな表情、初めて見たわ……!」

(……どうやら周囲のほうが一歩早いようですわね)

エヴァントラは小さくため息をつきつつも、
ひそかなくすぐったさを覚えていた。


---

◆◆ そして、夕暮れ時

一日の仕事を終え、庭園を歩いていると、アイオンが追いついてくる。

「……今日は、助かった。
君がいてくれると、本当に仕事が早く進む」

「そうですの? 私はいつも通りでしたけれど」

「いや……君が隣にいるだけで……落ち着くというか……」

言いかけて、アイオンは言葉を飲み込んだ。

沈黙。

だが、それは気まずいものではなく、どこか温かい静けさだった。

エヴァントラはふと、手に触れた風に気づく。

(……この穏やかさが、心地よい)

自分でも意外なほど、自然にそう思ってしまった。

アイオンは小さく息を吸う。

「エヴァントラ。
君は……今の生活、どうだ?」

「とても快適ですわ。
まだ夢の中のような静けさで」

「……それなら、よかった」

彼は安堵の息を吐き、ほっと微笑んだ。

その笑顔は、以前よりずっと柔らかく──
エヴァントラの胸の奥で、微かな熱を残した。


---

◆◆ エヴァントラの自覚なき微笑み

部屋へ戻ると、メイドが嬉しそうに言った。

「奥様、今日はなんだか機嫌がよろしいようで……」

エヴァントラは目を瞬いた。

「そう? いつもと同じですわ」

「いえ、なんとなく……“幸せそう”と申しますか」

(幸せ、ですって……?)

エヴァントラは思わず鏡を見る。

そこには、ほんのり頬を染めた自分が映っていた。

「…………」

そして気づく。

(ああ。
今日一日、私……アイオンのことを“気にしていた”のね)

胸に、知らない熱が残っていた。

白い結婚のはずなのに。


--
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。 しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。 王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。 絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。 彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。 誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。 荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。 一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。 王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。 しかし、アリシアは冷たく拒否。 「私はもう、あなたの聖女ではありません」 そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。 「俺がお前を守る。永遠に離さない」 勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動…… 追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

公爵さま、私が本物です!

水川サキ
恋愛
将来結婚しよう、と約束したナスカ伯爵家の令嬢フローラとアストリウス公爵家の若き当主セオドア。 しかし、父である伯爵は後妻の娘であるマギーを公爵家に嫁がせたいあまり、フローラと入れ替えさせる。 フローラはマギーとなり、呪術師によって自分の本当の名を口にできなくなる。 マギーとなったフローラは使用人の姿で屋根裏部屋に閉じ込められ、フローラになったマギーは美しいドレス姿で公爵家に嫁ぐ。 フローラは胸中で必死に訴える。 「お願い、気づいて! 公爵さま、私が本物のフローラです!」 ※設定ゆるゆるご都合主義

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

処理中です...