『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾

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第29話 『廃太子宣告、王宮の崩壊が始まる』

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第29話 『廃太子宣告、王宮の崩壊が始まる』



王国ルミナシア王宮――。

大理石の廊下に、重く暗い空気が満ちていた。

ウィッシュ王太子が隣国へ強引に向かい、
エヴァントラに冷たく拒絶された、その翌日。

王宮は、沈黙と緊張に包まれていた。


---

◆国王の怒り、ついに爆発

玉座の間に響く王の怒声。

「ウィッシュ……!
お前は、いったい何をしでかしたのだ!」

「ち、父上……エヴァントラを取り戻せば、すべて解決すると……!」

「解決などせぬ!! 国際問題だぞ!!」

ウィッシュは怯えたように後ずさる。

「アイオン殿下の国に無断で踏み込み、
しかも王太子妃殿下(だった者)に執着を見せただけ……
正気か!?」

側近たちも頭を抱える。

「殿下は……その……愛が強すぎて……」

「黙れ!」

王の怒りは頂点に達していた。


---

◆議会も限界、「廃太子」を正式提案

翌日。

議場に重苦しい沈黙が落ちる。

「議題は……王太子ウィッシュ殿下の廃太子について」

ざわっ。

その場の全員が背筋を伸ばした。

ある老臣が静かに言う。

「エヴァントラ様を軽んじ、
国政の支えをすべて失わせた罪は重い。
加えて、隣国への無断訪問は、もはや弁護できませぬ」

若い議員も続く。

「宮廷官吏の離脱、外交失敗の増加……
ルミナシアの衰退は明らかです!」

「民の間では、既に『殿下には資格がない』と声が上がっております」

「エヴァントラ様の無実も、証明されつつあります」

国王は拳を握りしめた。

「……ここまでか」

呻くような声で、ついに呟く。

「廃太子を……認めよう」

その瞬間、議場が静かにどよめいた。


---

◆アイラ、孤立し、焦り狂う

王宮の一室で、アイラはヒステリックに叫んでいた。

「どうして!? どうして誰も助けてくれないの!?
わたしは王太子妃なのよ!」

側にいた侍女は、怯えて答える。

「……もう、殿下にその権威は……」

「嘘よ!!!」

机を叩き、アイラは涙を流す。

(エヴァントラさえいなければ……!
全部あの女のせい……!)

しかし、その時。

侍女が静かに告げた。

「アイラ様……
すでに宮廷の女性官吏の多くは王宮を離れております。
あなたの振る舞いに恐怖し……
誰も近づきません」

アイラの表情が固まる。

「……何それ。わたしが悪いっていうの?」

「…………」

返事がない。

アイラは初めて、自分が“誰からも必要とされていない”ことを理解した。


---

◆ウィッシュ、現実を受け入れられず

玉座の間から遠い廊下で、ウィッシュは崩れ落ちていた。

「エヴァントラ……帰ってきてくれ……
きみがいれば、きっと……」

しかし、誰もその願いに耳を貸さない。

王宮は、彼を置き去りにしようとしていた。


---

◆一方その頃、隣国では…

エヴァントラは庭園で紅茶を楽しんでいた。

「ここのバラは素敵ですわね、アイオン」

「君のおかげで、庭師たちも気合いが入ってるよ」

穏やかな時間。
静かで優しい風。

王国の混乱とは、まるで別世界。

エヴァントラはふと微笑んだ。

(……平和って、素晴らしいですわ)

アイオンは紅茶を置き、ふと彼女を見つめる。

(彼女がこの国に来てくれて、本当によかった……)

その横顔には深い安心と、静かな恋が滲んでいた。


---

◆そして、王国はついに宣告へ動き出す

王宮中に号令が響く。

「至急、王太子殿下にお伝えせよ。
国王陛下がお呼びだ!」

王国は止まらない。
崩壊の階段を、確実に踏みしめていた。

そして――

廃太子宣告の日が、静かに迫っていた。


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