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第32話『気づいてしまった男は、逃げ道を失う』
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第32話『気づいてしまった男は、逃げ道を失う』
──アイオン視点多め──
宰相府執務室。
夕暮れのオレンジ光が机に落ち、書類の影がゆらりと揺れていた。
アイオンは深くため息をついた。
(……今日は、まともに仕事にならなかったな)
原因は、わかっている。
――エヴァントラ。
いつも通り淡々としているのに、
ほんの少し近くに座られるだけで心拍が妙に早まる。
(手が触れそうになった時なんて……)
思い出しただけで胸が痛いほど跳ねた。
「……落ち着け、俺」
宰相補佐としての日常では決して乱れないはずの心が、
彼女の前ではたやすく崩れてしまう。
---
◆◆兄の来訪と、唐突な核心
「アイオーン、入るよ」
扉をノックもせず入ってきたのは、兄のアリオン王太子。
「……兄上。せめてノックくらいしてくれ」
「まあまあ。で──」
アリオンはニヤリと笑う。
「弟よ。恋の悩みか?」
ブッッ!!
アイオンは飲んでいた水を机に盛大に吹き出した。
「な、な、なにを言って……!?
そんなわけが──!!」
「はい嘘。今日の君、分かりやすすぎ」
アリオンは椅子に勝手に座り、足を組む。
「表情は柔らかいし、仕事中はそわそわしてるし、
エヴァントラ嬢の名前が出ると顔が赤いし」
「っ……!!」
(全部……見られてた!?)
兄は続ける。
「それにね、アイオン。
君は誰にでも冷静だが、
“たった一人にだけ”態度が違うんだよ?」
アイオンは言葉を失う。
アリオンは優しく笑った。
「気づいてないの?
君……エヴァントラ嬢に恋してるよ」
沈黙。
時間が止まったようだった。
心臓が、一瞬、痛みを伴って跳ねた。
(……え?
恋……?
俺が……エヴァントラに?)
否定しようとしたが、口が開かない。
胸の奥で、確かに何かが熱を帯びていた。
---
◆◆恋の自覚は突然に
アリオンが軽く肩を叩く。
「弟よ。恋ってのは、
“気づいた瞬間に逃げ場がなくなる”んだ」
アイオンは俯き、額に手を当てた。
(……確かに、最近の俺はおかしい。
彼女が笑えば嬉しい。
彼女が困っていると胸が痛む。
彼女が他の男と話すと、妙に落ち着かない。
それって……)
アイオンは小さく呟いた。
「……これが……恋なのか?」
アリオンが頷く。
「おめでとう、弟よ。ようやく人並みに恋をしたな」
「全然めでたくない……!」
アイオンは頭を抱えた。
---
◆◆白い結婚=恋愛禁止の壁
「でも兄上……俺たちは“白い結婚”なんだ。
恋愛は必要ない、互いに干渉しない契約で……」
「で? それを破ったら死ぬのかい?」
「いや、そういうわけでは……」
アリオンは悪戯っぽく笑った。
「じゃあ気にせず恋をすれば?」
「いやいやいや!
それができたら苦労しない!」
アイオンの耳まで真っ赤になっている。
(……どうしよう。本当にどうしよう……)
彼は宰相補佐としてどれだけ難しい外交書類に挑んでも動じない男だ。
それなのに、エヴァントラの前ではなぜか心が制御できない。
---
◆◆兄の置き土産
帰り際、アリオンが言った。
「大丈夫。エヴァントラ嬢も君を悪く思ってない。
そのうち“白い結婚”が“本当の結婚”になる日も来るさ」
「……兄上、勝手なことを……」
「おっと。あまり時間をかけすぎると、
他の男に取られるかもよ?」
アイオンは固まった。
(……他の男……?
そんなの、絶対に嫌だ)
胸が強く締め付けられた。
アリオンはその反応を見逃さなかった。
「ね? もう答えは出てるじゃないか」
アイオンは返事ができなかった。
だが、自分の中で何かがはっきり形になり始めていた。
---
◆◆そして、ひとり残った執務室で
窓から吹き込む夜風が、残された書類を揺らした。
アイオンは胸に手を当てた。
(……エヴァントラ。
俺は……君がいないと、だめなのかもしれない)
静かに目を閉じる。
(いや違う。
俺は……君を“欲している”)
自覚した恋は、
優しくて、苦しくて、甘い。
もう、元には戻れない。
──アイオン視点多め──
宰相府執務室。
夕暮れのオレンジ光が机に落ち、書類の影がゆらりと揺れていた。
アイオンは深くため息をついた。
(……今日は、まともに仕事にならなかったな)
原因は、わかっている。
――エヴァントラ。
いつも通り淡々としているのに、
ほんの少し近くに座られるだけで心拍が妙に早まる。
(手が触れそうになった時なんて……)
思い出しただけで胸が痛いほど跳ねた。
「……落ち着け、俺」
宰相補佐としての日常では決して乱れないはずの心が、
彼女の前ではたやすく崩れてしまう。
---
◆◆兄の来訪と、唐突な核心
「アイオーン、入るよ」
扉をノックもせず入ってきたのは、兄のアリオン王太子。
「……兄上。せめてノックくらいしてくれ」
「まあまあ。で──」
アリオンはニヤリと笑う。
「弟よ。恋の悩みか?」
ブッッ!!
アイオンは飲んでいた水を机に盛大に吹き出した。
「な、な、なにを言って……!?
そんなわけが──!!」
「はい嘘。今日の君、分かりやすすぎ」
アリオンは椅子に勝手に座り、足を組む。
「表情は柔らかいし、仕事中はそわそわしてるし、
エヴァントラ嬢の名前が出ると顔が赤いし」
「っ……!!」
(全部……見られてた!?)
兄は続ける。
「それにね、アイオン。
君は誰にでも冷静だが、
“たった一人にだけ”態度が違うんだよ?」
アイオンは言葉を失う。
アリオンは優しく笑った。
「気づいてないの?
君……エヴァントラ嬢に恋してるよ」
沈黙。
時間が止まったようだった。
心臓が、一瞬、痛みを伴って跳ねた。
(……え?
恋……?
俺が……エヴァントラに?)
否定しようとしたが、口が開かない。
胸の奥で、確かに何かが熱を帯びていた。
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◆◆恋の自覚は突然に
アリオンが軽く肩を叩く。
「弟よ。恋ってのは、
“気づいた瞬間に逃げ場がなくなる”んだ」
アイオンは俯き、額に手を当てた。
(……確かに、最近の俺はおかしい。
彼女が笑えば嬉しい。
彼女が困っていると胸が痛む。
彼女が他の男と話すと、妙に落ち着かない。
それって……)
アイオンは小さく呟いた。
「……これが……恋なのか?」
アリオンが頷く。
「おめでとう、弟よ。ようやく人並みに恋をしたな」
「全然めでたくない……!」
アイオンは頭を抱えた。
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◆◆白い結婚=恋愛禁止の壁
「でも兄上……俺たちは“白い結婚”なんだ。
恋愛は必要ない、互いに干渉しない契約で……」
「で? それを破ったら死ぬのかい?」
「いや、そういうわけでは……」
アリオンは悪戯っぽく笑った。
「じゃあ気にせず恋をすれば?」
「いやいやいや!
それができたら苦労しない!」
アイオンの耳まで真っ赤になっている。
(……どうしよう。本当にどうしよう……)
彼は宰相補佐としてどれだけ難しい外交書類に挑んでも動じない男だ。
それなのに、エヴァントラの前ではなぜか心が制御できない。
---
◆◆兄の置き土産
帰り際、アリオンが言った。
「大丈夫。エヴァントラ嬢も君を悪く思ってない。
そのうち“白い結婚”が“本当の結婚”になる日も来るさ」
「……兄上、勝手なことを……」
「おっと。あまり時間をかけすぎると、
他の男に取られるかもよ?」
アイオンは固まった。
(……他の男……?
そんなの、絶対に嫌だ)
胸が強く締め付けられた。
アリオンはその反応を見逃さなかった。
「ね? もう答えは出てるじゃないか」
アイオンは返事ができなかった。
だが、自分の中で何かがはっきり形になり始めていた。
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◆◆そして、ひとり残った執務室で
窓から吹き込む夜風が、残された書類を揺らした。
アイオンは胸に手を当てた。
(……エヴァントラ。
俺は……君がいないと、だめなのかもしれない)
静かに目を閉じる。
(いや違う。
俺は……君を“欲している”)
自覚した恋は、
優しくて、苦しくて、甘い。
もう、元には戻れない。
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