永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

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第26話 王都からの不穏な招待状

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第26話 王都からの不穏な招待状


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 翌朝、イソファガス邸は珍しく慌ただしかった。

 雨上がりの庭に朝日が差し込み、鳥の声が響く中、執事ガイウスが早足で廊下を進んでいた。その手には、金の縁取りが施された一通の封書がある。

「キクコ様、王都より急使です」

「……“急”って言葉、最近やたら重いのよね」

 書斎で紅茶を淹れていたキクコは、嫌そうに眉を寄せながらも受け取った。

 封蝋には、はっきりと王家の紋章。

「はいはい。どうせ碌な用じゃない」

 そう言いつつ、開封する手は迷いがなかった。

     ◆ ◆ ◆

『キクコ・イソファガス様
 至急、王都へお越しいただきたく存じます。
 国王ロワイヤル陛下直々の要請です。』

「……直々、ねぇ」

 キクコは封書を机に置き、深くため息をついた。

「この前は“女王になれ”、今度は何?
 今度こそ“責任取れ”とか言わないでしょうね」

「内容はそれだけで?」

 ガイウスが静かに尋ねる。

「ええ。逆にそれが怖い」

 余計な説明がないということは、
 “説明すると面倒になる案件”である可能性が高い。

     ◆ ◆ ◆

 そこへ、扉を叩く音。

「師匠ー!」

 元気な声とともに、ファイエルが顔を出した。

「聞きましたよ! 王都から呼び出しだとか!」

「……耳ざといわね」

「嫌な予感しかしません!」

「同感」

 キクコは立ち上がり、外套を羽織った。

     ◆ ◆ ◆

「今回は、あなたたちは留守番」

「えっ?」

 ファイエルとレオンが同時に声を上げる。

「王都の空気、今はあまり良くないの。
 下手に連れて行くと、利用される」

「ですが……」

「心配しないで」

 キクコは微笑んだ。

「帰ってくるわ。
 “問題”を一つ片づけてね」

 その笑みが、逆に不安を煽る。

     ◆ ◆ ◆

 馬車の中。

 キクコは窓の外を眺めながら、静かに考えていた。

(最近、王都が落ち着かなすぎる)

 魔王討伐後の混乱。
 王位継承問題。
 勇者周りの噂。

 そして――

(“私を表に引きずり出したい”動き)

 それが、確実に増えている。

     ◆ ◆ ◆

 王城。

 謁見の間に通されると、そこには国王ロワイヤルだけでなく、数名の貴族、そして見覚えのない魔導院関係者が並んでいた。

「……これはまた、豪華な顔ぶれね」

「すまぬ、キクコ」

 ロワイヤルは疲れた顔で言う。

「少々、面倒な話になっていてな」

「でしょうね。
 で、今度は何を押し付けたいの?」

 遠慮のない言葉に、貴族の何人かが眉をひそめる。

     ◆ ◆ ◆

 魔導院の代表らしき男が一歩前に出た。

「イソファガス様。
 最近、王都近郊で異常な魔力反応が観測されております」

「魔力異常?」

「はい。
 場所は……旧王家地下遺構」

 その言葉に、キクコの表情が一瞬だけ変わった。

     ◆ ◆ ◆

「……まだ、封印されてなかったの?」

「最低限は。しかし、反応が強まっております」

「誰が触ったの」

「……不明です」

 キクコは、扇子をゆっくり開いた。

「不明、ね」

 その声音は、穏やかだが冷えていた。

     ◆ ◆ ◆

「で?」

 視線をロワイヤルに向ける。

「私に何をさせたいの?」

 国王は、観念したように答えた。

「……調査と、対処を」

「つまり」

 キクコは小さく笑った。

「“また私頼み”ってわけね」

 誰も否定しなかった。

     ◆ ◆ ◆

 しばし沈黙。

 やがてキクコは、扇子を閉じた。

「分かったわ」

 その場の空気が、ほっと緩む。

「ただし、条件がある」

「条件?」

「今回の件、
 私の名前を一切表に出さないこと」

 貴族たちがざわつく。

     ◆ ◆ ◆

「私は影で動く。
 成果だけ持ってきてあげる」

「それは……」

「できないなら、帰るわよ?」

 即答だった。

 ロワイヤルは、苦笑して頷いた。

「……分かった。約束しよう」

     ◆ ◆ ◆

 謁見の間を後にしながら、キクコは独りごちる。

「やっぱり来たわね。
 “三百年前の後始末”」

 永遠の十七歳は、
 再び王都の闇へ足を踏み入れる。

 それが――
 新たな波乱の、始まりだとも知らずに。
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