永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

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第27話 地下遺構と、忘れられた名

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第27話 地下遺構と、忘れられた名


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 王城の地下へ続く通路は、昼間でも薄暗かった。

 石壁に刻まれた古い魔術紋が、淡く燐光を放っている。王都が建つよりも遥か以前――少なくとも三百年以上前の様式だ。

「……相変わらず、趣味の悪い内装ね」

 キクコは扇子を軽く振り、足元を照らす簡易魔術灯を展開した。

 同行しているのは、国王付きの魔導院監査官が一人だけ。名はセルヴァン。必要最低限の人員という条件は、キクコが強く主張したものだ。

「本当に、お一人でよろしいのですか?」

「ええ。人が多いほど、面倒になる」

 それ以上、セルヴァンは何も言わなかった。
 この少女――見た目は十七歳のままの令嬢が、ただ者ではないことを、肌で理解していたからだ。

     ◆ ◆ ◆

 地下遺構の最奥。

 重厚な扉の前で、キクコは足を止めた。

 扉には、王家の紋章と――もうひとつ、見覚えのある刻印。

「……まだ残ってたのね」

 指先でなぞると、微かに魔力が反応した。

「これは……何の印でしょうか?」

「“失敗作”の封印印」

 さらりと告げる。

「三百年前、王家が隠したがってたものよ」

 セルヴァンは喉を鳴らした。

     ◆ ◆ ◆

 扉を開けると、空気が変わった。

 澱んだ魔力が、肌にまとわりつく。だが暴走寸前というほどではない。

「……誰かが、封印を“確認”しただけね」

「解除ではなく?」

「ええ。
 怖くて開けられなかった、ってところかしら」

 キクコは奥へ進み、中央に設えられた魔法陣を見下ろした。

 そこには、砕けた封印石と――古い羊皮紙の束。

     ◆ ◆ ◆

「……あら」

 キクコはしゃがみ込み、その一枚を拾い上げた。

 そこに記されていた名前を見て、わずかに目を細める。

「この名……」

「何か、問題が?」

「問題というか……懐かしいわね」

 羊皮紙にあったのは、実験記録。

 そして、術式責任者の署名。

『聖女補佐官 キクコ・イソファガス』

 セルヴァンが息を呑んだ。

「まさか……」

「言わないで。
 “別人”ってことにしておきましょう?」

 扇子で口元を隠し、キクコは笑った。

     ◆ ◆ ◆

(……そう。これは“あの時”の後始末)

 勇者が魔王を倒す前。
 王家が“保険”として作ろうとした代替の力。

 結果は――失敗。

 そして封印。

「……まったく。
 昔の大人たちは、余計なことばっかりするんだから」

     ◆ ◆ ◆

 魔法陣を調べ終え、キクコは立ち上がった。

「セルヴァン」

「は、はい!」

「報告はこう書きなさい」

 彼女は淡々と告げる。

「『地下遺構に異常なし。
 反応は老朽化による魔力滞留で、再封印を実施』」

「……事実と異なる部分は?」

「全部、事実よ」

 にっこり笑う。

「“危険なもの”は、もう存在しないから」

     ◆ ◆ ◆

 実際、キクコは封印を“上書き”していた。

 三百年前より、はるかに強固な形で。

 彼女にしかできないやり方で。

     ◆ ◆ ◆

 地上へ戻る途中、セルヴァンがぽつりと呟いた。

「……イソファガス様は、何者なのですか?」

 キクコは足を止めずに答えた。

「ただの、厄介事を片づけるのが上手な領主の孫娘よ」

「……それにしては」

「それ以上詮索すると、胃が痛くなるわよ?」

 ぴたりと、会話は終わった。

     ◆ ◆ ◆

 王城の外。

 夕暮れの空を見上げながら、キクコは小さく息を吐く。

「……一つ片づいた」

 だが同時に、胸騒ぎもあった。

(これで終わるはずがない)

 地下遺構に手を出した“誰か”。

 そして――
 最近、やけに彼女の存在を気にし始めた王都の動き。

     ◆ ◆ ◆

「……あの子、気づき始めてるかもしれないわね」

 思い浮かぶのは、新王アルフェリットの真剣な眼差し。

「困ったものだわ」

 永遠の十七歳は、そう呟きながら馬車に乗り込んだ。

 静かに、
 次の波乱が近づいていることを予感しながら。
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