永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

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第28話 気づき始めた王

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第28話 気づき始めた王

 王城の執務室は、夜の帳に包まれていた。
 高い天井から吊るされた燭台の灯が、書類の山に長い影を落とす。

 アルフェリットは、その中央で一通の報告書を眺めていた。

「……異常、なし」

 魔導院から提出された、地下遺構調査の最終報告。
 封印痕跡なし、魔力残滓なし、危険性なし。

 ――完璧すぎる。

(まただ)

 アルフェリットは静かに息を吐いた。

 魔王騒動、地下遺構、貴族の内紛。
 どれも「起きたはず」なのに、記録には大事として残らない。

 いや、正確には――
 キクコ・イソファガスが関わった件だけが、綺麗に収束している。

「……偶然、か?」

 そう呟きながら、彼は椅子に深く腰を下ろした。


---

 幼い頃の記憶が、不意に蘇る。

 森で迷い、日が暮れ、泣きそうになっていた少年の前に現れた少女。

『大丈夫。帰り道は、私が知ってるわ』

 年上に見えた。
 だが、どこか同年代のようにも思えた。

 ――そして今。

 王宮で扇子を振る彼女の姿は、
 あの頃と、まったく変わっていない。

「……おかしいな」

 人は成長する。
 顔つきも、声も、雰囲気も。

 だが、キクコは変わらない。
 成長も、老いも、そこにはない。

「……いや、考えすぎだ」

 アルフェリットは首を振った。

 彼女は十七歳。
 イソファガス家の領主の孫娘。

 それ以上でも、それ以下でもない――
 はずだ。


---

 彼は机の引き出しを開け、一冊の古い年代記を取り出した。
 王家の記録庫で、偶然目に留まったものだ。

 数百年前の頁。
 そこに描かれた挿絵に、彼の手が止まる。

 聖女と、その補佐官。

 ……補佐官の顔立ちが、あまりにも見覚えがあった。

「…………」

 似ている。
 いや、似すぎている。

 だが、アルフェリットはページを閉じた。

「詮索は、良くないな」

 彼女が何者であれ、
 今はこの国の要であり、彼にとって大切な存在だ。

 それだけで、十分だ。


---

 そのとき、控えめなノック音。

「陛下。夜分ですが、お茶を」

 侍従が差し出したカップから、柔らかな香りが立ち上る。

 一口含んで、アルフェリットはわずかに目を細めた。

「……この茶葉」

「はい。キクコ様のお好みに合わせました」

 無意識に、王宮が彼女基準で回っている。

 その事実に、アルフェリットは苦笑した。

「……困ったものだな」


---

 一方その頃。

 イソファガス領の書斎で、キクコは突然くしゃみをした。

「……あら、いやな感じ」

 紅茶を置き、扇子で口元を隠す。

「これは……
 完全に、勘のいい王様が“何か”を感じ始めてるわね」

 ため息混じりに天井を見上げる。

「でも――」

 彼女は小さく笑った。

「知らなくていいことも、あるのよ。
 あなたが“17歳の私”を見てくれているうちはね」


---

 若き国王は、まだ真実を知らない。
 だが、確実に“違和感”には触れ始めていた。

 それは疑念ではなく、
 信頼の上に芽生えた、静かな気づき。

 永遠の十七歳と、優秀すぎる王。
 二人の距離は、知らぬ間に次の段階へと進みつつあった。
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