永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

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第35話 選ばれた覚悟、背負う責任

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第35話 選ばれた覚悟、背負う責任

 王都の夜は、静まり返っていた。

 だが、その静けさは安らぎではない。
 張りつめた糸が、今にも切れそうな――そんな気配を孕んでいる。

     ◆ ◆ ◆

 王城・私室。

 アルフェリットは、灯りを落とした部屋で一人、椅子に腰掛けていた。
 机の上には、評議会の記録と、帝国から届いた追加の書簡。

「……まだ諦めていない、か」

 帝国は一歩引いた。
 だが、完全に退いたわけではない。

 “キクコ・イソファガス”という存在が、
 もはや王国の弱点になり得る――
 そんな視線が、確実に向けられている。

     ◆ ◆ ◆

(それでも)

 アルフェリットは、静かに拳を握った。

(俺は、間違っていない)

 王とは、すべてを天秤にかけて選ぶ存在だ。
 国益、民心、外交、軍事――
 そのどれかを犠牲にする覚悟も、常に伴う。

 だが今回、彼は別の基準で選んだ。

(彼女を切り捨てる未来だけは、あり得ない)

     ◆ ◆ ◆

 そのとき、扉がノックされた。

「……入れ」

 現れたのは、キクコだった。

 深い色のドレスに身を包み、いつもの飄々とした笑みは影を潜めている。

「夜更かしね、国王陛下」

「君こそ」

 アルフェリットは立ち上がり、向き直った。

「……評議会の件、聞いたわ」

「だろうな」

「私のせいで、あなたの立場が削られてる」

 その言葉に、アルフェリットは即座に首を振る。

「違う。俺が選んだ」

     ◆ ◆ ◆

 キクコは一瞬、言葉を失った。

 三百年。
 数え切れないほどの人間関係を見送ってきた。

 誰もが最後には、
 “仕方ない”“立場がある”
 そう言って距離を取った。

 ――だが、目の前の男は違う。

     ◆ ◆ ◆

「……本当に、厄介な王様ね」

 キクコは小さく笑い、扇子を閉じた。

「私、ずっと思ってたの。
 誰かに守られる立場に立つと、その人を危険に晒すって」

「それでも?」

「それでも……」

 一歩、前に出る。

「あなたが“選んだ”と言うなら、私も逃げない」

     ◆ ◆ ◆

 アルフェリットの目が、わずかに見開かれた。

「それは――」

「勘違いしないで。
 真実を話すつもりはないし、表に立つ気もない」

 だが、声ははっきりとしている。

「でも、あなたの王位を脅かすものがあるなら、
 私は“影”として全力で排除する」

「……君は、それでいいのか」

「三百年やってきたことよ。今さら変わらないわ」

     ◆ ◆ ◆

 沈黙。

 だがそれは、拒絶ではなかった。

「なら、俺も譲らない」

 アルフェリットは、真っ直ぐ言った。

「君がどれだけ危険な存在でも、
 王として、君を切る判断はしない」

「……」

「だからこれは――」

 彼は、ゆっくりと言葉を選ぶ。

「一方的な庇護じゃない。
 対等な、共犯だ」

     ◆ ◆ ◆

 キクコは、思わず吹き出した。

「共犯って……王様が言う言葉じゃないでしょう」

「君に合わせた」

「ほんと、調子いいわね」

 だが、その笑みはどこか柔らかい。

     ◆ ◆ ◆

 その夜。

 二人は、明確な答えを出さなかった。

 だが、はっきりと理解した。

 ――もう、後戻りはできない。

 守る覚悟と、背負う責任。
 王と、永遠の十七歳。

 それぞれが選んだ立場は、
 やがて避けられぬ“公開”という局面へと向かっていく。

 それでも今は、まだ――
 静かな夜が続いていた。
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