永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾

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第36話 揺れる噂、動き出す影

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第36話 揺れる噂、動き出す影

 王都に、目に見えない波紋が広がり始めていた。

 それは布告でも噂話でもなく、
 もっと厄介な――**「空気」**だった。

     ◆ ◆ ◆

 城下町の茶屋。

「なあ、聞いたか?」
「国王陛下、イソファガス家の令嬢をえらく大事にしてるらしいな」
「護衛の数も増えたって話だ」
「そりゃあ……妃候補なんじゃないのか?」

 そんな会話が、日常の延長のように交わされている。

 誰も確証は持っていない。
 だが誰もが、“何かがおかしい”とは感じていた。

     ◆ ◆ ◆

 王城・評議の間。

 宰相代理が、慎重に口を開いた。

「陛下。民の間で、キクコ様に関する噂が広がりつつあります」

「内容は?」

「……不老、不変、聖女の再来、あるいは魔女。
 まだ断片的ですが、帝国使節の件以降、勢いがついております」

 アルフェリットは、わずかに目を伏せた。

「放置すれば、やがて“形”を持つな」

「はい。特に危険なのは、噂を利用しようとする者たちです」

     ◆ ◆ ◆

 同じ頃。

 イソファガス領の地下――
 古い石室で、数人の影が密かに集まっていた。

「帝国が引いたのは、想定外だったな」
「だが、噂は広がっている」
「不老の聖女……もし本当なら、利用価値は計り知れん」

 彼らは、宗教結社とも、反王派ともつかない存在。
 共通しているのは、“異常な存在”を恐れ、同時に欲していることだった。

     ◆ ◆ ◆

「王が庇っているというのも、好都合だ」
「表に引きずり出せば、王権ごと揺らせる」

 その言葉に、低い笑いが漏れる。

     ◆ ◆ ◆

 一方、キクコは――
 その動きを、すでに察知していた。

 夜の書斎。
 ランプの下で、彼女は静かに報告書を読んでいる。

「……やっぱり来たわね」

 記されているのは、地下で動く不穏な組織の気配。

 三百年前にも、似たものを何度も見てきた。

「“奇跡”を信仰する者ほど、
 都合の悪い現実は切り捨てる」

 扇子を閉じ、立ち上がる。

     ◆ ◆ ◆

「今回は、少し面倒ね」

 今までは、
 自分ひとりが動けばよかった。

 だが今は――
 王が、真正面から庇っている。

(……守られる側になると、選択肢が減るわ)

     ◆ ◆ ◆

 その夜、キクコは王城を訪れた。

 執務室に入るなり、アルフェリットが顔を上げる。

「来ると思っていた」

「でしょうね」

 彼女は報告書を机に置いた。

「動き始めてる。
 宗教屋、反王派、どっちともつかない連中」

 アルフェリットは、目を細めた。

「……俺のせいだな」

「違う」

 即答だった。

「遅かれ早かれ、来てた。
 あなたが王になった時点でね」

     ◆ ◆ ◆

「どうする?」

 アルフェリットが問う。

「正攻法なら、治安部隊で一斉摘発」

「それだと、“何かを隠してる”って証明するようなものよ」

「では?」

 キクコは、静かに微笑んだ。

「影には、影をぶつける」

     ◆ ◆ ◆

 アルフェリットは、その意味をすぐに理解した。

「……一人でやるつもりか」

「まさか」

 扇子をくるりと回す。

「今回は、“共犯”でしょう?」

 一瞬の沈黙のあと、アルフェリットは頷いた。

「分かった。
 だが条件がある」

「なに?」

「君が危険に晒されると判断したら、
 即、王権で止める」

 キクコは、少しだけ驚いた顔をしてから、笑った。

「ほんと、甘い王様」

「自覚している」

     ◆ ◆ ◆

 こうして、二人は動き出した。

 噂が形になる前に。
 信仰が狂信に変わる前に。

 王の光と、永遠の少女の影が重なり、
 静かに“狩り”が始まる。

 だがその先には――
 避けられない“選択の場”が待っていた。
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