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29話 国王の介入
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29話 国王の介入
王城の空気が、目に見えて変わったのはその日の朝だった。
いつもなら、どこか浮ついたざわめきが漂う回廊に、重苦しい静けさが張りついている。
使用人たちは必要以上に声を潜め、騎士たちは普段よりも背筋を伸ばして歩いていた。
――動いた。
その事実は、言葉にされるよりも先に、城全体に伝わっていた。
国王が、動いたのだ。
アルトリア・カストゥスは、王城内の控えの間で静かに待っていた。
表情は落ち着いているが、内心は極めて冷静だった。
驚きはない。
むしろ、遅いくらいだとすら思っている。
――ここまで事態が進めば、陛下が無視できるはずがありませんわ。
王太子の独断。
聖女と称される平民の少女への無理強い。
婚約を盾にした権威の行使。
それを公の場で告発され、貴族・市民・教会の沈黙という形で否定された現状。
これはもはや、個人の不祥事ではない。
王家の統治姿勢そのものが問われる問題だ。
「カストゥス公爵令嬢、謁見の用意が整いました」
控えめな声で告げられ、アルトリアは小さく頷いた。
「ありがとうございます」
立ち上がるその動作は、完璧だった。
一分の隙もない、模範的な貴族令嬢。
だが、その胸の内には確信があった。
――ここから先は、私の意志ではなく、王の裁量。
謁見の間は、静まり返っていた。
玉座に座る国王は、年齢相応の威厳を湛えながらも、その眼差しは鋭い。
すでに、すべてを把握している目だ。
左右には、重臣たち。
その中に、ルートヴィヒ・マシアス王太子の姿もあった。
彼は、どこか落ち着きがない。
昨日までの尊大さは影を潜め、視線は定まらず、唇は固く結ばれている。
アルトリアは一礼し、指定された位置に立った。
「顔を上げなさい、アルトリア・カストゥス」
国王の声は低く、しかしはっきりと響いた。
「はい、陛下」
顔を上げたアルトリアの表情に、揺らぎはない。
国王はしばらく彼女を見つめ、その後、ゆっくりと口を開いた。
「今回の一連の出来事……
王家として、看過できるものではない」
その言葉に、謁見の間の空気がさらに張り詰める。
ルートヴィヒが、わずかに身じろぎした。
「聖女と称される少女に対する扱い。
婚約を前提とした力の行使。
そして、それを拒否できない立場に置いたこと」
国王の視線が、王太子へと向けられる。
「それが事実であるならば――
それは、王家の名を用いた強制だ」
誰も反論しない。
できない。
アルトリアは、そこで初めて理解した。
――陛下は、すでに結論を出しておられる。
これは審問ではない。
確認だ。
「よって、余はこの件について、王命をもって判断を下す」
その一言で、場の全員が息を呑んだ。
王命。
それは、すべてを決定づける言葉だ。
ルートヴィヒの顔色が、目に見えて変わる。
だが、国王は彼を見なかった。
視線を向けた先は、アルトリア、そして――
謁見の間の隅に控えさせられていた、ジャンヌ・テレーゼだった。
小さく、怯えるように立つ少女。
その姿を見て、国王はわずかに眉をひそめた。
「……まずは、当事者の意思を確認する必要がある」
アルトリアは、静かに頭を下げた。
ここまで来れば、流れは止まらない。
王が動いた以上、
すべては王の責任のもとに整理される。
それは、ジャンヌにとっても、アルトリアにとっても――
最初で最後の、確実な「救い」だった。
謁見の間を包む沈黙は、
次に告げられる王命の重さを、誰よりも雄弁に語っていた。
物語は、ついに核心へと踏み込んだ。
王城の空気が、目に見えて変わったのはその日の朝だった。
いつもなら、どこか浮ついたざわめきが漂う回廊に、重苦しい静けさが張りついている。
使用人たちは必要以上に声を潜め、騎士たちは普段よりも背筋を伸ばして歩いていた。
――動いた。
その事実は、言葉にされるよりも先に、城全体に伝わっていた。
国王が、動いたのだ。
アルトリア・カストゥスは、王城内の控えの間で静かに待っていた。
表情は落ち着いているが、内心は極めて冷静だった。
驚きはない。
むしろ、遅いくらいだとすら思っている。
――ここまで事態が進めば、陛下が無視できるはずがありませんわ。
王太子の独断。
聖女と称される平民の少女への無理強い。
婚約を盾にした権威の行使。
それを公の場で告発され、貴族・市民・教会の沈黙という形で否定された現状。
これはもはや、個人の不祥事ではない。
王家の統治姿勢そのものが問われる問題だ。
「カストゥス公爵令嬢、謁見の用意が整いました」
控えめな声で告げられ、アルトリアは小さく頷いた。
「ありがとうございます」
立ち上がるその動作は、完璧だった。
一分の隙もない、模範的な貴族令嬢。
だが、その胸の内には確信があった。
――ここから先は、私の意志ではなく、王の裁量。
謁見の間は、静まり返っていた。
玉座に座る国王は、年齢相応の威厳を湛えながらも、その眼差しは鋭い。
すでに、すべてを把握している目だ。
左右には、重臣たち。
その中に、ルートヴィヒ・マシアス王太子の姿もあった。
彼は、どこか落ち着きがない。
昨日までの尊大さは影を潜め、視線は定まらず、唇は固く結ばれている。
アルトリアは一礼し、指定された位置に立った。
「顔を上げなさい、アルトリア・カストゥス」
国王の声は低く、しかしはっきりと響いた。
「はい、陛下」
顔を上げたアルトリアの表情に、揺らぎはない。
国王はしばらく彼女を見つめ、その後、ゆっくりと口を開いた。
「今回の一連の出来事……
王家として、看過できるものではない」
その言葉に、謁見の間の空気がさらに張り詰める。
ルートヴィヒが、わずかに身じろぎした。
「聖女と称される少女に対する扱い。
婚約を前提とした力の行使。
そして、それを拒否できない立場に置いたこと」
国王の視線が、王太子へと向けられる。
「それが事実であるならば――
それは、王家の名を用いた強制だ」
誰も反論しない。
できない。
アルトリアは、そこで初めて理解した。
――陛下は、すでに結論を出しておられる。
これは審問ではない。
確認だ。
「よって、余はこの件について、王命をもって判断を下す」
その一言で、場の全員が息を呑んだ。
王命。
それは、すべてを決定づける言葉だ。
ルートヴィヒの顔色が、目に見えて変わる。
だが、国王は彼を見なかった。
視線を向けた先は、アルトリア、そして――
謁見の間の隅に控えさせられていた、ジャンヌ・テレーゼだった。
小さく、怯えるように立つ少女。
その姿を見て、国王はわずかに眉をひそめた。
「……まずは、当事者の意思を確認する必要がある」
アルトリアは、静かに頭を下げた。
ここまで来れば、流れは止まらない。
王が動いた以上、
すべては王の責任のもとに整理される。
それは、ジャンヌにとっても、アルトリアにとっても――
最初で最後の、確実な「救い」だった。
謁見の間を包む沈黙は、
次に告げられる王命の重さを、誰よりも雄弁に語っていた。
物語は、ついに核心へと踏み込んだ。
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