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第23話 条件を出す側と、飲み込むしかない側
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第23話 条件を出す側と、飲み込むしかない側
王宮の執務室に、久しぶりに重苦しい緊張が戻っていた。
理由は明白だ。
国庫が、限界を迎えた。
「……以上が、現状です」
財務卿の声は、乾いている。
「魔導障壁の維持費、
緊急時に積み増した予算、
各国への未払い調整金……」
机の上に並べられた数字は、
どれも赤い。
「短期的な運用は可能ですが、
半年以内に抜本的な対策を打たなければ、
財政破綻は避けられません」
王太子アラルガンは、
黙ってその資料を見つめていた。
「……増税は」
「すでに限界です」
即答だった。
「これ以上は、
暴動の引き金になります」
「では、借款は」
「条件が、
届いています」
その一言で、
王太子は顔を上げた。
「どこからだ」
「……隣国です」
沈黙。
誰もが、
その名を出さずとも分かっている。
「条件を、読み上げろ」
王太子の声は、
わずかに震えていた。
書記官が、
一通の文書を広げる。
「――“本件に関する財政支援について、
以下の条件を満たす場合に限り、
協議に応じる”」
室内の空気が、
さらに重くなる。
「第一条。
魔導障壁および関連技術の運用・改修に関する
最終決定権は、
エルフレイド・ヴァルシュタイン顧問に一任すること」
王太子の眉が、
ぴくりと動く。
「第二条。
王宮および王太子は、
本件に関する政治的介入を行わないこと」
誰かが、
小さく息を呑んだ。
「第三条。
過去に発生した技術使用に関する
未払いライセンス料について、
正式な精算計画を提出すること」
――逃げ道は、ない。
「第四条。
以上の条件を満たした場合に限り、
無利子・長期の支援を検討する」
読み終えた書記官が、
顔を上げる。
沈黙。
王太子は、
ゆっくりと椅子にもたれた。
「……これは」
低い声。
「……支援ではない」
誰も、否定しない。
「命令だ」
財務卿が、静かに言った。
「……飲むしか、
ありません」
王太子は、
拳を握る。
――屈辱だ。
だが、
拒めば、
国が終わる。
「……彼女は」
絞り出すように言う。
「……この条件を、
自分で?」
「はい」
ローディアスが答える。
「隣国皇帝は、
“内容は彼女が決めた”と」
王太子は、
目を閉じた。
条件を出す側。
飲み込むしかない側。
その立場が、
完全に逆転している。
「……承認する」
声は、
かすれていた。
「条件を……
すべて、承認する」
その瞬間。
王太子は、
王ではなくなった。
形式上は、
まだ王太子だ。
だが、
実質的には――
署名機だ。
一方、隣国。
エルフレイドは、
その報告を淡々と聞いていた。
「条件、
すべて承認されました」
「そうですか」
彼女は、
特に感慨もなく答える。
「想定通りです」
補佐官が、
恐る恐る尋ねる。
「……情けは、
かけなくてよろしいのですか」
エルフレイドは、
一瞬だけ考え、
首を振った。
「情けは、
合理を歪めます」
ゼノスが、
低く笑った。
「冷たいな」
「いいえ」
エルフレイドは、
視線を上げる。
「これは、
彼らにとっても最善です」
「どういう意味だ」
「条件を飲まなければ、
国が崩壊します」
静かな声。
「国が残るなら、
彼らは“敗者”で済みます」
「……滅びないだけ、
慈悲か」
「はい」
彼女は、
即答した。
同日夜。
王太子は、
一人、書斎で書類を眺めていた。
自分の署名が入った、
条件承認書。
「……私が、
選んだわけじゃない」
呟く。
「……選ばされたんだ……」
だが、
それを強いたのは、
他でもない。
かつて、
彼女を追い出した、
自分自身だ。
その頃、
王都の民の間では、
こんな噂が流れていた。
「もう、
国のことは、
あの人が決めてるらしい」
「王様じゃなく?」
「違う。
仕事ができる人だ」
それは、
王太子の耳にも、
確かに届いていた。
条件を出す側と、
飲み込むしかない側。
その差は、
地位ではない。
能力だ。
王太子は、
その事実を、
ようやく理解し始めていた。
だが、
理解した時には、
もう、
選択肢は残っていなかった。
王宮の執務室に、久しぶりに重苦しい緊張が戻っていた。
理由は明白だ。
国庫が、限界を迎えた。
「……以上が、現状です」
財務卿の声は、乾いている。
「魔導障壁の維持費、
緊急時に積み増した予算、
各国への未払い調整金……」
机の上に並べられた数字は、
どれも赤い。
「短期的な運用は可能ですが、
半年以内に抜本的な対策を打たなければ、
財政破綻は避けられません」
王太子アラルガンは、
黙ってその資料を見つめていた。
「……増税は」
「すでに限界です」
即答だった。
「これ以上は、
暴動の引き金になります」
「では、借款は」
「条件が、
届いています」
その一言で、
王太子は顔を上げた。
「どこからだ」
「……隣国です」
沈黙。
誰もが、
その名を出さずとも分かっている。
「条件を、読み上げろ」
王太子の声は、
わずかに震えていた。
書記官が、
一通の文書を広げる。
「――“本件に関する財政支援について、
以下の条件を満たす場合に限り、
協議に応じる”」
室内の空気が、
さらに重くなる。
「第一条。
魔導障壁および関連技術の運用・改修に関する
最終決定権は、
エルフレイド・ヴァルシュタイン顧問に一任すること」
王太子の眉が、
ぴくりと動く。
「第二条。
王宮および王太子は、
本件に関する政治的介入を行わないこと」
誰かが、
小さく息を呑んだ。
「第三条。
過去に発生した技術使用に関する
未払いライセンス料について、
正式な精算計画を提出すること」
――逃げ道は、ない。
「第四条。
以上の条件を満たした場合に限り、
無利子・長期の支援を検討する」
読み終えた書記官が、
顔を上げる。
沈黙。
王太子は、
ゆっくりと椅子にもたれた。
「……これは」
低い声。
「……支援ではない」
誰も、否定しない。
「命令だ」
財務卿が、静かに言った。
「……飲むしか、
ありません」
王太子は、
拳を握る。
――屈辱だ。
だが、
拒めば、
国が終わる。
「……彼女は」
絞り出すように言う。
「……この条件を、
自分で?」
「はい」
ローディアスが答える。
「隣国皇帝は、
“内容は彼女が決めた”と」
王太子は、
目を閉じた。
条件を出す側。
飲み込むしかない側。
その立場が、
完全に逆転している。
「……承認する」
声は、
かすれていた。
「条件を……
すべて、承認する」
その瞬間。
王太子は、
王ではなくなった。
形式上は、
まだ王太子だ。
だが、
実質的には――
署名機だ。
一方、隣国。
エルフレイドは、
その報告を淡々と聞いていた。
「条件、
すべて承認されました」
「そうですか」
彼女は、
特に感慨もなく答える。
「想定通りです」
補佐官が、
恐る恐る尋ねる。
「……情けは、
かけなくてよろしいのですか」
エルフレイドは、
一瞬だけ考え、
首を振った。
「情けは、
合理を歪めます」
ゼノスが、
低く笑った。
「冷たいな」
「いいえ」
エルフレイドは、
視線を上げる。
「これは、
彼らにとっても最善です」
「どういう意味だ」
「条件を飲まなければ、
国が崩壊します」
静かな声。
「国が残るなら、
彼らは“敗者”で済みます」
「……滅びないだけ、
慈悲か」
「はい」
彼女は、
即答した。
同日夜。
王太子は、
一人、書斎で書類を眺めていた。
自分の署名が入った、
条件承認書。
「……私が、
選んだわけじゃない」
呟く。
「……選ばされたんだ……」
だが、
それを強いたのは、
他でもない。
かつて、
彼女を追い出した、
自分自身だ。
その頃、
王都の民の間では、
こんな噂が流れていた。
「もう、
国のことは、
あの人が決めてるらしい」
「王様じゃなく?」
「違う。
仕事ができる人だ」
それは、
王太子の耳にも、
確かに届いていた。
条件を出す側と、
飲み込むしかない側。
その差は、
地位ではない。
能力だ。
王太子は、
その事実を、
ようやく理解し始めていた。
だが、
理解した時には、
もう、
選択肢は残っていなかった。
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