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第26話 責任を取るとは、消えることではなかった
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第26話 責任を取るとは、消えることではなかった
王都に、公告が張り出されたのは朝だった。
派手な文言はない。
感情を煽る言葉も、断罪もない。
ただ、淡々と事実だけが記されている。
――魔導基盤不安定化に関する調査結果の公表。
民は足を止め、
一行一行を、確かめるように読んでいく。
「……王太子の判断、
積み重ねが原因……?」
「横領じゃ、
なかったのか」
「じゃあ……
無能、ってこと?」
噂は、すぐに広がった。
だが、以前のような怒号や憎悪はない。
代わりに漂うのは、
妙な納得感だった。
「……そりゃ、
壊れるわな」
「直す人を、
追い出したんだから」
怒りよりも、
ため息に近い感情。
それが、
この国の結論だった。
王宮。
アラルガン王太子は、
その公告を、
窓越しに眺めていた。
自分の名が、
そこにある。
だが、
罪人としてではない。
判断の責任者として。
「……逃げられなかったな」
呟く。
それは、
安堵でもあり、
恐怖でもあった。
逃げられない。
だが、
消されもしない。
その意味を、
まだ、理解しきれていなかった。
午前。
評議会が、
非公開で開かれた。
議題は一つ。
王太子の処遇。
「……まず、
前提として」
財務卿が口を開く。
「横領、不正、
私的流用は確認されていません」
頷きが、
いくつも返る。
「だが、
判断ミスによる影響は重大です」
軍務卿が続ける。
「よって、
これまで通りの権限を持たせることは、
現実的ではありません」
「異論は?」
ない。
それは、
合意ではなく、
事実確認だった。
「……では」
議長役の長老が、
静かに言う。
「処分案を、
読み上げます」
書記官が立ち上がる。
「――王太子アラルガンは、
王位継承権を自発的に返上する」
空気が、
静止する。
自発的。
それは、
強制ではない。
「――ただし、
身分は剥奪しない」
「――公的地位は、
技術監査補佐官へと移行」
その言葉に、
小さなざわめきが走る。
「補佐官?」
「……追放、
ではないのか」
「――報酬は最低限」
「――公的発言権は、
制限される」
読み上げは、
続く。
それは、
生き地獄のようでもあり、
救済のようでもあった。
すべてを失うわけではない。
だが、
二度と“選ぶ側”には戻れない。
「……以上です」
書記官が座る。
視線が、
王太子に向く。
「殿下」
議長が、
静かに尋ねる。
「……この案を、
受け入れますか」
王太子は、
しばらく黙っていた。
追放されると思っていた。
幽閉されると、
どこかで覚悟していた。
だが、
提示されたのは、
消えない責任だった。
「……技術監査、
補佐官」
その言葉を、
噛みしめる。
最前線ではない。
決定権もない。
だが、
現場にいる。
失敗の結果を、
毎日、見る場所だ。
「……これは」
低い声。
「……罰、
なのか」
議長は、
首を振った。
「責任です」
一言。
「あなたが、
軽んじたものを、
二度と軽んじないための」
王太子は、
目を閉じた。
逃げられない。
だが、
逃がされてもいない。
それは、
彼が初めて向き合う、
本当の現実だった。
「……受け入れます」
その声は、
驚くほど静かだった。
同日夕刻。
隣国。
エルフレイドは、
処遇決定の報告を受けていた。
「……王位返上、
技術監査補佐官へ」
「はい」
補佐官が頷く。
「本人の同意も、
得られています」
ゼノスが、
短く息を吐いた。
「……甘い、
と思うか?」
エルフレイドは、
少し考え、
首を横に振る。
「いいえ」
「理由は」
「消える方が、
簡単だからです」
即答だった。
「責任を取るとは、
姿を消すことではありません」
彼女は、
視線を落とす。
「失敗の結果と、
毎日向き合うことです」
ゼノスは、
わずかに笑った。
「……君らしい」
夜。
王太子――
いや、
元王太子アラルガンは、
新しい部屋に通されていた。
広くはない。
豪奢でもない。
机と、
書棚と、
灯り。
そして、
積まれた資料。
「……これが、
現場か」
手に取ったのは、
魔導基盤の保守記録。
かつて、
彼が目を通さなかったもの。
ページをめくる。
数字。
注意書き。
警告。
「……読めば、
分かることばかりだ」
呟きが、
空気に溶ける。
その夜、
彼は初めて、
書類を最後まで読んだ。
誰に言われたわけでもない。
命令でもない。
ただ――
そうしなければならないと、
理解したからだ。
責任を取るとは、
消えることではなかった。
名前を残し、
失敗を残し、
そして――
向き合い続けること。
その現実が、
静かに、
彼の日常になろうとして
王都に、公告が張り出されたのは朝だった。
派手な文言はない。
感情を煽る言葉も、断罪もない。
ただ、淡々と事実だけが記されている。
――魔導基盤不安定化に関する調査結果の公表。
民は足を止め、
一行一行を、確かめるように読んでいく。
「……王太子の判断、
積み重ねが原因……?」
「横領じゃ、
なかったのか」
「じゃあ……
無能、ってこと?」
噂は、すぐに広がった。
だが、以前のような怒号や憎悪はない。
代わりに漂うのは、
妙な納得感だった。
「……そりゃ、
壊れるわな」
「直す人を、
追い出したんだから」
怒りよりも、
ため息に近い感情。
それが、
この国の結論だった。
王宮。
アラルガン王太子は、
その公告を、
窓越しに眺めていた。
自分の名が、
そこにある。
だが、
罪人としてではない。
判断の責任者として。
「……逃げられなかったな」
呟く。
それは、
安堵でもあり、
恐怖でもあった。
逃げられない。
だが、
消されもしない。
その意味を、
まだ、理解しきれていなかった。
午前。
評議会が、
非公開で開かれた。
議題は一つ。
王太子の処遇。
「……まず、
前提として」
財務卿が口を開く。
「横領、不正、
私的流用は確認されていません」
頷きが、
いくつも返る。
「だが、
判断ミスによる影響は重大です」
軍務卿が続ける。
「よって、
これまで通りの権限を持たせることは、
現実的ではありません」
「異論は?」
ない。
それは、
合意ではなく、
事実確認だった。
「……では」
議長役の長老が、
静かに言う。
「処分案を、
読み上げます」
書記官が立ち上がる。
「――王太子アラルガンは、
王位継承権を自発的に返上する」
空気が、
静止する。
自発的。
それは、
強制ではない。
「――ただし、
身分は剥奪しない」
「――公的地位は、
技術監査補佐官へと移行」
その言葉に、
小さなざわめきが走る。
「補佐官?」
「……追放、
ではないのか」
「――報酬は最低限」
「――公的発言権は、
制限される」
読み上げは、
続く。
それは、
生き地獄のようでもあり、
救済のようでもあった。
すべてを失うわけではない。
だが、
二度と“選ぶ側”には戻れない。
「……以上です」
書記官が座る。
視線が、
王太子に向く。
「殿下」
議長が、
静かに尋ねる。
「……この案を、
受け入れますか」
王太子は、
しばらく黙っていた。
追放されると思っていた。
幽閉されると、
どこかで覚悟していた。
だが、
提示されたのは、
消えない責任だった。
「……技術監査、
補佐官」
その言葉を、
噛みしめる。
最前線ではない。
決定権もない。
だが、
現場にいる。
失敗の結果を、
毎日、見る場所だ。
「……これは」
低い声。
「……罰、
なのか」
議長は、
首を振った。
「責任です」
一言。
「あなたが、
軽んじたものを、
二度と軽んじないための」
王太子は、
目を閉じた。
逃げられない。
だが、
逃がされてもいない。
それは、
彼が初めて向き合う、
本当の現実だった。
「……受け入れます」
その声は、
驚くほど静かだった。
同日夕刻。
隣国。
エルフレイドは、
処遇決定の報告を受けていた。
「……王位返上、
技術監査補佐官へ」
「はい」
補佐官が頷く。
「本人の同意も、
得られています」
ゼノスが、
短く息を吐いた。
「……甘い、
と思うか?」
エルフレイドは、
少し考え、
首を横に振る。
「いいえ」
「理由は」
「消える方が、
簡単だからです」
即答だった。
「責任を取るとは、
姿を消すことではありません」
彼女は、
視線を落とす。
「失敗の結果と、
毎日向き合うことです」
ゼノスは、
わずかに笑った。
「……君らしい」
夜。
王太子――
いや、
元王太子アラルガンは、
新しい部屋に通されていた。
広くはない。
豪奢でもない。
机と、
書棚と、
灯り。
そして、
積まれた資料。
「……これが、
現場か」
手に取ったのは、
魔導基盤の保守記録。
かつて、
彼が目を通さなかったもの。
ページをめくる。
数字。
注意書き。
警告。
「……読めば、
分かることばかりだ」
呟きが、
空気に溶ける。
その夜、
彼は初めて、
書類を最後まで読んだ。
誰に言われたわけでもない。
命令でもない。
ただ――
そうしなければならないと、
理解したからだ。
責任を取るとは、
消えることではなかった。
名前を残し、
失敗を残し、
そして――
向き合い続けること。
その現実が、
静かに、
彼の日常になろうとして
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