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第12話 社交界への復帰
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第12話 社交界への復帰
医師から正式に外出の許可が下りたのは、目覚めてから十日目のことだった。
「長時間は避けてください。無理は禁物です」
「分かりました」
落ち着いた声で答えながら、シルフィーネは深く息を吸った。
胸の奥に、ほんのわずかな緊張と――それ以上の静かな覚悟がある。
復帰の場として選ばれたのは、小規模な茶会。
公爵家と親交の深い家だけを招いた、あくまで「様子を見るため」の集まりだ。
「派手な夜会ではありません。ですから……」
母は心配そうに言葉を濁したが、シルフィーネは微笑んだ。
「ええ。だからこそ、ちょうどいいのです」
誰もが好意的な顔をする場所。
誰もが“失礼にはならない”距離を保つ場。
――人の本音を見るには、十分すぎる。
*
茶会当日。
淡い色のドレスに身を包み、サロンへ足を踏み入れた瞬間、空気がわずかに変わった。
「……!」
「まあ……」
抑えた声。
視線が、一斉に集まる。
だが、以前とは違う。
好奇や同情ではない。
計るような、慎重な眼差し。
「ご無沙汰しております」
シルフィーネは、ゆっくりと一礼した。
それだけで、数人の貴婦人が小さく息を呑む。
「まあ……なんて落ち着いたご様子……」
「本当に……ご成長なさって……」
褒め言葉。
だが、その裏にあるのは、「見た目が変わったから」という前提。
彼女は、静かに頷くだけだった。
茶会は、終始穏やかに進んだ。
誰も失礼な言葉は口にしない。
誰も過去に触れようとはしない。
それでも。
「……これからは、縁談のお話も増えるでしょうね」
何気ない一言が、耳に届く。
「ええ。このご様子なら……」
言葉を選びながらも、視線ははっきりしている。
――外見が変わった今なら、価値がある。
胸の奥で、何かがすっと冷えた。
*
茶会が終わり、客人たちが帰ったあと。
サロンには、静けさが戻った。
「……お疲れさまでした」
マリアが、そっと声をかける。
「ええ」
シルフィーネは椅子に腰を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。
疲れていないと言えば、嘘になる。
だが、それ以上に、はっきりした感覚があった。
「……やはり、同じですわね」
「お嬢様?」
「外見が変わっただけで、態度も評価も変わる。
それ自体は、もう驚くことではありません」
問題は、そこではない。
――その変化を、当然だと思っていること。
シルフィーネは、指先を軽く握った。
「私は、もう“選ばれる側”ではありません」
誰かの価値観で測られ、判断される存在ではない。
「これからは……私が、選びます」
誰と関わるのか。
誰を信じるのか。
誰の言葉に耳を傾けるのか。
そのすべてを。
窓の外では、穏やかな午後の陽射しが差し込んでいた。
社交界への復帰は、通過点にすぎない。
本当の意味での再出発は――
ここから、始まるのだから。
医師から正式に外出の許可が下りたのは、目覚めてから十日目のことだった。
「長時間は避けてください。無理は禁物です」
「分かりました」
落ち着いた声で答えながら、シルフィーネは深く息を吸った。
胸の奥に、ほんのわずかな緊張と――それ以上の静かな覚悟がある。
復帰の場として選ばれたのは、小規模な茶会。
公爵家と親交の深い家だけを招いた、あくまで「様子を見るため」の集まりだ。
「派手な夜会ではありません。ですから……」
母は心配そうに言葉を濁したが、シルフィーネは微笑んだ。
「ええ。だからこそ、ちょうどいいのです」
誰もが好意的な顔をする場所。
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――人の本音を見るには、十分すぎる。
*
茶会当日。
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「……!」
「まあ……」
抑えた声。
視線が、一斉に集まる。
だが、以前とは違う。
好奇や同情ではない。
計るような、慎重な眼差し。
「ご無沙汰しております」
シルフィーネは、ゆっくりと一礼した。
それだけで、数人の貴婦人が小さく息を呑む。
「まあ……なんて落ち着いたご様子……」
「本当に……ご成長なさって……」
褒め言葉。
だが、その裏にあるのは、「見た目が変わったから」という前提。
彼女は、静かに頷くだけだった。
茶会は、終始穏やかに進んだ。
誰も失礼な言葉は口にしない。
誰も過去に触れようとはしない。
それでも。
「……これからは、縁談のお話も増えるでしょうね」
何気ない一言が、耳に届く。
「ええ。このご様子なら……」
言葉を選びながらも、視線ははっきりしている。
――外見が変わった今なら、価値がある。
胸の奥で、何かがすっと冷えた。
*
茶会が終わり、客人たちが帰ったあと。
サロンには、静けさが戻った。
「……お疲れさまでした」
マリアが、そっと声をかける。
「ええ」
シルフィーネは椅子に腰を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。
疲れていないと言えば、嘘になる。
だが、それ以上に、はっきりした感覚があった。
「……やはり、同じですわね」
「お嬢様?」
「外見が変わっただけで、態度も評価も変わる。
それ自体は、もう驚くことではありません」
問題は、そこではない。
――その変化を、当然だと思っていること。
シルフィーネは、指先を軽く握った。
「私は、もう“選ばれる側”ではありません」
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「これからは……私が、選びます」
誰と関わるのか。
誰を信じるのか。
誰の言葉に耳を傾けるのか。
そのすべてを。
窓の外では、穏やかな午後の陽射しが差し込んでいた。
社交界への復帰は、通過点にすぎない。
本当の意味での再出発は――
ここから、始まるのだから。
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