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第13話 再会という名の試金石
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第13話 再会という名の試金石
社交界への復帰から、数日後。
王都で開かれる夜会への招待状が、公爵家に届いた。
それは、規模も顔触れも、これまでとは比べものにならない――“本番”とも言える場だった。
「無理をする必要はないわ」
母はそう言ったが、シルフィーネは静かに首を振った。
「いいえ。行きます」
逃げる理由は、もうない。
そして何より――確かめたいことがあった。
*
夜会当日。
会場に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
ざわめき。
ひそやかな囁き。
そして、隠しきれない視線。
「……あの方が?」 「目を覚ました、公爵令嬢……」 「本当に……」
だが、その声には、以前のような軽さはない。
代わりにあるのは、明確な評価と――期待。
シルフィーネは、背筋を伸ばして歩いた。
無理に胸を張ることもなく、俯くこともなく。
ただ、そこに在る。
「……シルフィーネ?」
聞き覚えのある声が、背後からかけられた。
振り返るまでもなく、誰だか分かってしまう。
それでも彼女は、ゆっくりと向き直った。
ライオネルだった。
一年前よりも、少しだけ大人びた表情。
けれど、その目には、はっきりとした動揺が浮かんでいる。
「……お久しぶりです」
シルフィーネは、形式通りに一礼した。
その仕草一つで、周囲の空気が張りつめるのを感じる。
「……本当に、目を覚ましたのだな」
「ええ。ご心配をおかけしました」
丁寧で、距離のある言葉。
そこに、個人的な感情は一切含まれていない。
それが、ライオネルには予想外だったのだろう。
「……元気そうで、何よりだ」
彼の視線が、無意識に彼女の顔を、姿をなぞる。
その一瞬で、シルフィーネは理解した。
――見ているのは、私の“今”だけ。
幼かった頃の自分。
黙って耐えていた時間。
それらは、彼の視界には存在していない。
「……」
胸の奥が、静かに冷えた。
「……こうして話せるとは、思っていなかった」
ライオネルは、少し言いづらそうに続ける。
「正直に言えば……驚いている」
「そうでしょうね」
穏やかに返しながら、シルフィーネは微笑んだ。
「一年眠っても、私は変わっていませんから」
その言葉に、ライオネルは一瞬、言葉を失った。
「……だが」
続けようとした彼の言葉を、彼女は待たなかった。
「ライオネル様」
名を呼ぶ声は、静かで、はっきりしていた。
「今夜は、多くの方がいらっしゃっています。
どうか、婚約者様をお待たせにならないように」
その一言で、すべてが伝わる。
――あなたの立つ場所は、もう私の隣ではない。
ライオネルは、何か言おうとして口を開き、
結局、何も言えずに閉じた。
「……そうだな」
ぎこちなく頷き、彼は一歩、距離を取る。
その背中を見送りながら、シルフィーネは静かに思った。
――これが、答え。
彼は、私を“失った”のではない。
最初から、見ていなかっただけ。
*
再び一人になった彼女に、別の視線が注がれていることに気づく。
先ほどから、少し離れた場所で――
一人の青年が、冷静な目でこちらを見ていた。
派手な仕草はない。
近づこうともしない。
ただ、観察している。
その視線に、不思議と嫌悪感はなかった。
(……この方は)
胸の奥で、何かが静かに動く。
この夜会は、再会の場であると同時に――
新たな出会いの、入口でもあった。
シルフィーネは、知らず知らずのうちに、
運命の分岐点に立っていることを悟り始めていた。
社交界への復帰から、数日後。
王都で開かれる夜会への招待状が、公爵家に届いた。
それは、規模も顔触れも、これまでとは比べものにならない――“本番”とも言える場だった。
「無理をする必要はないわ」
母はそう言ったが、シルフィーネは静かに首を振った。
「いいえ。行きます」
逃げる理由は、もうない。
そして何より――確かめたいことがあった。
*
夜会当日。
会場に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
ざわめき。
ひそやかな囁き。
そして、隠しきれない視線。
「……あの方が?」 「目を覚ました、公爵令嬢……」 「本当に……」
だが、その声には、以前のような軽さはない。
代わりにあるのは、明確な評価と――期待。
シルフィーネは、背筋を伸ばして歩いた。
無理に胸を張ることもなく、俯くこともなく。
ただ、そこに在る。
「……シルフィーネ?」
聞き覚えのある声が、背後からかけられた。
振り返るまでもなく、誰だか分かってしまう。
それでも彼女は、ゆっくりと向き直った。
ライオネルだった。
一年前よりも、少しだけ大人びた表情。
けれど、その目には、はっきりとした動揺が浮かんでいる。
「……お久しぶりです」
シルフィーネは、形式通りに一礼した。
その仕草一つで、周囲の空気が張りつめるのを感じる。
「……本当に、目を覚ましたのだな」
「ええ。ご心配をおかけしました」
丁寧で、距離のある言葉。
そこに、個人的な感情は一切含まれていない。
それが、ライオネルには予想外だったのだろう。
「……元気そうで、何よりだ」
彼の視線が、無意識に彼女の顔を、姿をなぞる。
その一瞬で、シルフィーネは理解した。
――見ているのは、私の“今”だけ。
幼かった頃の自分。
黙って耐えていた時間。
それらは、彼の視界には存在していない。
「……」
胸の奥が、静かに冷えた。
「……こうして話せるとは、思っていなかった」
ライオネルは、少し言いづらそうに続ける。
「正直に言えば……驚いている」
「そうでしょうね」
穏やかに返しながら、シルフィーネは微笑んだ。
「一年眠っても、私は変わっていませんから」
その言葉に、ライオネルは一瞬、言葉を失った。
「……だが」
続けようとした彼の言葉を、彼女は待たなかった。
「ライオネル様」
名を呼ぶ声は、静かで、はっきりしていた。
「今夜は、多くの方がいらっしゃっています。
どうか、婚約者様をお待たせにならないように」
その一言で、すべてが伝わる。
――あなたの立つ場所は、もう私の隣ではない。
ライオネルは、何か言おうとして口を開き、
結局、何も言えずに閉じた。
「……そうだな」
ぎこちなく頷き、彼は一歩、距離を取る。
その背中を見送りながら、シルフィーネは静かに思った。
――これが、答え。
彼は、私を“失った”のではない。
最初から、見ていなかっただけ。
*
再び一人になった彼女に、別の視線が注がれていることに気づく。
先ほどから、少し離れた場所で――
一人の青年が、冷静な目でこちらを見ていた。
派手な仕草はない。
近づこうともしない。
ただ、観察している。
その視線に、不思議と嫌悪感はなかった。
(……この方は)
胸の奥で、何かが静かに動く。
この夜会は、再会の場であると同時に――
新たな出会いの、入口でもあった。
シルフィーネは、知らず知らずのうちに、
運命の分岐点に立っていることを悟り始めていた。
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